第2話


 阿里巴巴高校。

 それが俺の通う高校の名で、県内有数の進学校であるが、一風変わった高校でもある。

 まず敷地面積が大きい。

 ただの普通高校なのに農業高校ぐらいデカい。

 東京ドーム50個分と入学のパンフレットに書いていた気がする。

 度々敷地の広さの指標として東京ドーム何個分と表されたりするが、これがイマイチ分かりづらい。

 漠然と広いことは理解できるがどのくらい広いかは判らない。

 東京ドーム自体は有名な施設であるが、主に野球をする場所であり、野球人気が廃れた現代では万人受けするとは思えない。

 かくいう俺も野球に興味もなければ音楽ライブなどにも興味がない。

 言葉には聞くが実物はおろか、画面越しですらあまり見た記憶がない。

 ならばもう東京ドーム何個分で敷地面積を表すのはやめた方がいいのではないだろうか。

 いつまでも戦後の野球文化の象徴のようで胃の収まりが悪い。

 しかし、だからと言って代わりになる丁度良い建物があるかと言われれば難しい所だ。

 東京ディズニーランド何個分でも例えられるらしいが、それまたパッとしない。

 これも頻繁に行く人ならピンとくるのだろうが、行ったことない人にしたら失礼な話である。

 もう数字で表せ!

 何ヘクタールで示し、気になる人だけが具体的に調べるでいいんじゃないか?

 ネット環境が整っている現代において決して難しいことじゃない。

 嘘は言っていないから誇大広告にはならないのだろうが、少し詐欺まがいな気がしてならない。


「What you considering about? You really frowning right now」


 他人が聞いたらどっちでもいい、と一蹴されそうな事を考えていると、突き放しても突き放してもくっついてくる遠慮を知らない女の子がこちらを覗いている。

 単純に無視できないことは今朝のやり取りで改めて思い知らされている。

 まぁ、無視する側の俺の精神にも良くないだろうから、返事の内容は思いついてないものの、とりあえずエリカに顔を向けた。


「You frowned like this!」


 すると、エリカは眉間にシワを寄せ、某芸人の鬼瓦のような表情になった。

 考え込むと眉間にシワが寄りがちになるのは知っているが、そんなに酷い顔だろうか?

 何か悪意的なものを感じる。


「あはは!太朗ちゃんにそっくり!」


 それを見た幸子は大口を開けながら大笑いしている。

 こいつもこいつで失礼な奴だ。


「Oh, you think so? Sachiko」


「あー、イエス!イエス!」


 幸子はエリカの言葉に大きく頷きながら拙い日本語英語で返事をしていた。

 絶対に理解していないだろうが、間違ってもいないのでスルーする事にした。

 限定的な状況だから、話している内容もその状況に合ったものに必然的になるから意外に喋れなくても簡単な意思疎通ぐらいはできる。

 その状況が俺の変顔の真似という部分を除けば特に不満はない。

 ないが、二人して爆笑である。


「おい!いつまで笑ってんだ! You too Erika! You laughed at me too much. This is very rude. You know?」


「Huh? Oh, poor Taro... But, it's okay. Because, it's you!」


「What!? You make no sense. That's bulls**t!!」


「Uh-oh, laungauge please」


「お前は俺のオカンか!」


 勢い余って日本語でツッコミを入れてしまったが、エリカは何のことか分からずポカン顔である。

 しかし、これはエリカが悪いと思う、俺は一切悪くない。


「まあまあ、太朗ちゃん、落ち着いて。どーどー」


「俺は馬か!」


 こっちもこっちで失礼な奴だ。

 こめかみの青筋が脈打ち、今なら俺の顔が鬼瓦に近い形相になっていること間違いないが、一つも嬉しくない。

 何でこんな日本語を一切喋れない奴が普通高校に通っているんだ。

 大概はまずインターナショナルスクールに通うのが先だろう。

 これもこの阿里巴巴高校の少し変わった校風のせいだ。

 こんな奴を通わせるんだからな。


「おう!朝から相変わらず賑やかな三人組だな」


 声の方向を振り向かずとも誰であるかは一目瞭然だった。

 いや、この場合は見ていないから一目とは違うか。

 一聞瞭然か?

 そんな言葉、あるか判らないけど………

 うむ、百聞は一見に如かず、と言うし、一目と一聞には百倍近くの能力差がありそうだ。

 界王拳を使ったぐらいじゃ、その差は埋めれそうにない。

 一目と一聞は月とスッポンと言うことか………

 いや、まだまだ考える余地がありそうだ。


「おい!太朗。また、鬼瓦モードになってるぞ」


「誰が鬼瓦だ!それにモードって何だよ!」


「え?お前が考え事している時の顔が某芸人の鬼瓦に似ているから、みんなそう呼んでるぞ」


 事もなげに言う茶髪のセミロングの爽やかイケメン高校男子は俺たちの輪にさり気なく入ってきた。

 変なことで尺が伸びたので、こいつの紹介は次回に持ち越しである。

 それと陰で鬼瓦とイジられている事にショックを受けたことも付け加えておこう。





 

 

 





 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウィアーオールザチルドレン 鬼頭星之衛 @Sandor

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ