ウィアーオールザチルドレン

鬼頭星之衛

第1話

「Why you took the train so early?」


 日本人離れした煌めきのブロンズヘアーが俺の眠たげな瞼に痛いほど突き刺さる。

 他を刺激するほどの髪は短いはずもなく、その長さは腰にまで届きそうな勢いだ。

 髪を揺らしてかき上げる所作は何処で習うのかと不思議に思うほど様になっている。

 もしかしたら遺伝なのかもしれない。彼女の母親も確かロングヘアーだったはずだ。


「…because, i don't want to see your face every morning」


「…! What's?!」


 早朝からの刺激物はやめてほしい。

 低血圧には早起きは辛いし、柔らかく丸っこいものならまだ我慢できるが、トゲトゲしい刺激物は体に毒だ。

 俺はブロンズヘアーの女の子の質問に正直に返答し、そそくさと高校へ向かうべく電車に乗り込んだ。

 俺が一人電車に乗り込んだ姿に焦ったブロンズヘアーの女の子も続いて電車に乗り込んできた。

 早めの電車内は乗客は疎らに少なく、余裕を持ってシートに座ることができるのはいいが、他にも席が空いているというのにブロンズヘアーの女の子はわざわざ俺の隣に座った。


「I can't believe what you just said! Did you really meat it? Seriously?? This beautiful girl that you meant? huh you really need to realize that you're lucky boy. because you could see me everyday! yeah this pretty girl!」


 ブロンズヘアーの女の子改め、エリカが俺の耳元で盛った子犬のようにキャンキャン吠えているが、一旦無視して、スマホを取り出して、適当にネット記事に目を通す。

 ふむふむ、昔友達の家で読んだ本が今度アニメ化されるのか。

 確か短編で一巻か二巻までだったはずだけど、逆にアニメ化しやすいのかな?

 ワンクールで話をまとめやすいだろうし、続編のことも考えなくてもいいしな。

 そういう意味では昔の漫画とかがアニメ化される理由も納得できる。

 ネット限定配信だと見れないけど、いっそ、バイトでもしてサブスクにでも加入しようか。


「Hey! Taro! Don't ignore me! I…just, i…」


 白い光に晒され、丸く揺れる目頭に溜まった涙は恐ろしいほどの殺傷能力を持っていた。

 美形の相貌を悲しげに歪められるとどうしてもあと一歩突き放すことができない。

 流石に無視し続けるのは可哀想かと思い口を開いた。


「Ah………it's just………」


「ねぇ、太朗ちゃん!エリカちゃんが必死に何か喋ってるんだから無視するのは良くないよ!」


「―――どわぁ!?さ、幸子!お前いつの間に?!」


「えー?ずっといたけど?エリカちゃんしか見てなかったの?」


「いや、そう言う訳じゃないけど………」


 エリカが派手過ぎて目を引くのは判るが、傍にいて気づかないってことあるか?

 女子高生としては平均的身長に、優等生を思わせる艷やかなロングの黒髪。

 実際、制服も着崩しておらず、スカートの丈も校則通りだ。

 改めて分析すると背景に溶け込めるようなモブ感は確かにある。

 昔から知っているとはいえ、気づけなかったとしても致し方なしではないのだろうか。

 ただ、存在感が薄いことを自覚していない幸子にこの事を告げるのは酷である。


「なんで幸子がエリカと一緒にいるんだ?」


「うーん?だってわたしエリカちゃんの言ってること全然判んないだもん」


 純日本人で海外旅行の経験すらない幸子ではエリカとコミュニケーションを取るのは難しいことは判るが、俺も独学である。

 知識に偏りがあるし、発音だって怪しいものだ。

 俺みたいな不安定な昭和の機械みたいな奴に頼るより、令和の最新翻訳機にでも頼ってくれ。


「人の関わり合いが希薄になった現代こそフェイストゥーフェイスで会話するのがいいんだよ。それに翻訳機高いし」


 後半の方が本音な気がして仕方ない。


「何より太朗ちゃんの家にホームステイしておじさんとおばさんからエリカちゃんを任されたのは太朗ちゃんの方でしょ?わたしは同じ女の子としてサポートできるけど、日常の会話は太朗ちゃんがメインでしょ!」


 昔から俺に対しては遠慮のない物言いでズケズケ言ってくる幸子は相変わらずだった。

 そして、それが的を得た正論であるから尚更たちが悪い。

 できる事ならこの腐れ縁も切りたいところだ。


「What you two talking about??」


 世界の中心が自分でないと気が済まないお姫様を適当に躱しつつ、電車に揺られながら通学するのがこの山ノ上太朗の日常である。

 そして、高確率で影の薄い幸子も付いてくる。

 そんな日常。




 

 

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