告白して怒られて

 今日の橘井さんはなにやら不機嫌そうだ。そう思うだけで何故か嬉しいのだ。そんな感情を持ちながら1人で廊下を歩く彼女の後ろ姿を見つめているとある事に気づく。


 髪の毛がボサついている。


 彼女はどんなに寝起きでも完璧にセットできているような気がしてならなかったのだが。そこでさらに考え込むと原因を見つけてしまったのだ。


 あぁそうかそうだったのか。私の勘は正しかったみたいですね。でも私は優しいですからあなたのために動いてあげましょう。だからどうか怒ってくださいね。橘井さん! 私は彼女を人気のない場所に呼び出し話を聞いてやることにした。


「なに、水織。急にこんなところに呼び出して。なんか用でもあるわけ?」


 どうしようか、このまま黙っているのもいいけどやっぱり言ってしまった方がいいだろうな。私はゆっくりと息を吸った後に言った。


「橘井さんは好きな人いるの?」


 橘井さんの瞳が一瞬動揺したのがわかった。ビンゴだなこれは。私はさらに続ける。


「いるよね。きっとそうだと思ってたもん」


「何が言いたいのよあんた」


 イラついた声色で橘井さんが問いかけてきた。私はまた深呼吸するとこう告げたのである。


「私の事好きでしょ」


 橘井さんの顔が赤く染まった。それはもう熟れたリンゴよりも赤くなったのだ。私はその反応に少しだけ驚いてしまった。嘘。マジですか。これ完全に当たりじゃないですか。まぁ別にいいんですけども!橘井さんは下を向いて小声でぼそっと呟いたのである。


「だったらなんだよ」


 そして私は追い打ちをかけるかのように聞いた。もちろんこれは計算済みである。これで彼女から告白してくれるはず。私はドキドキしながら彼女の返事を待った。しかし彼女はだんまりを決め込む。私は思わず間抜け顔になる。痺れを切らして私は作戦を変更する。


「いやその……冗談のつもりだったんだけど」


「そうかよっ!」


 橘井さんがいきなり顔をぐいっと近づけてくる。ちょちょっと近い近い近いー!心の準備できてなかったんだけど!?それにしても橘井さんの目って凄いな。綺麗だしまつ毛長いし本当にモデルみたいな人だよな。とか思いつつ私はじっと見つめられ目をそらせなくなっていた。


「あー!もう!イライラする!」


 人の気持ちを弄んでどういうつもり。というように彼女は私を睨みつけている。だがここで引くほど私は甘くない。絶対に認めさせてみせるんだから!と決意を胸に私はもう一度尋ねた。


「ねぇねぇ」

「なんだよ」

「好き」


と私が言い切る前に「うっさい!」と言って右頬をビンタされた。

アッハーン!!とっても痛いけれどこれはこれで有りかな?と思い始めていたのは内緒の話である。


「もう知らない!水織のバーカ!バーカ!」


と言い残し立ち去る橘井さんの背中を見ながら私は思った。これは両想いってことですかね?


***


 その後、橘井さんは話しかけて来なくなった。連絡も取り合わないし目すら合わせようとしない。嫌われちゃいましたかねこれは。


 私は教室を出て屋上へと向かった。今日はいつもと違って天気が悪いのが残念だがそれでも空を見ることは出来るだろう。曇天の景色を見てため息をつきながら座る。


 あぁ、早く晴れて欲しいですね〜と独り言を漏らしているその時であった。


「あ。チッ」


 なんとも嫌そうな声と共に現れたのだ。そう。あの超可愛い橘井さんだ。まさか来るとは思っていなかった為、びっくりしてしまった。でもなぜだろう彼女はこちらに来るどころかどんどん離れて行ってるように見える。


「橘井さん!待って!」


 私は慌てて立ち上がったせいか、足を踏み外して盛大に転んだ。スッテンコロリン!である。


「!?」


 橘井さんは急いで私の前に駆けつけた。


「大丈夫か!?水織!」


 彼女が手を差し伸べてくれ、そしてそのまま手を引っ張り起こしてくれた。ありがとう橘井さん……。あなたに会えて良かったよ。そう思った時であった。橘井さんが抱きついてきたのだ。しかも顔を埋めたまま喋る。耳元で声が聞こえてくるのはゾクゾクするのでやめて欲しい。


「なぁ水織。好きだ」


 ドクンと心臓が大きく跳ね上がるのがわかる。こんなに素直になってくれるなんて思ってもいなかった。だけどまだ私の番だ。私は抱きしめ返すと口を開いた。


「橘井さん。この前はからかってごめんなさい。私実は……」


 橘井さんが私の言葉を遮った。


「あたしの方こそあのときは叩いてごめん。あんたがあたしに告白させようとしてたことぐらい。全部わかってたのにあたし馬鹿みたいだよね」


 やっぱりあなたは私のことちゃんと見ていてくれたんですね。


「水織、あたしに何か隠してるよね?それだけずっとモヤモヤしてるんだ。だから聞かせて。水織の本当のこと」


 ヤバい。バレた。まぁいいや別に言ってしまおう。もう覚悟は出来ているんだから!私は大きく息を吸い込み言った。


「好き」


「うん」


「橘井さんが好き」


「うん」


「それ以上に橘井さんの怒ってる顔が好き」


「うん……ん?」


 橘井さんはようやく私の肩を押した。離さないよう私は力を入れるが橘井さんが必死に抵抗してきたのだ。


「ちょっと待て。もしかして今までのって……」


と橘井さんは信じられないという表情を浮かべている。


 あれ?これってやっぱりもしかするパターンですか?もしかしてもしかするとそういうことだと思いますよね!?


「水織!」


 突然名前を呼びながらキスされる。あぁもう!最高!


「はぁ……はぁ……もう許さないから」


 橘井さんがキッと睨みつける。私はその表情を見てニヤける。


「橘井さん大好き!」


 そう叫びもう一度強く抱きしめたあと私たちは唇を重ねたのだった。さっきまでの曇天が嘘かのように太陽は元気に光っている。眩しく照らされながら私達は付き合うことになった。お互いの関係は変わっても私の計画が終わることはないのであった。(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

策士、怒られて コミコミコ @sig3-halci

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ