友達に怒られて
私は教室を出て、橘井さんのクラスへ向かうと彼女がこちらを見つけて手招きをしてくれていた。そして私達は2人で廊下を歩くことに。向かう先は校舎裏の石段に腰をかけて会話をすることに決めたらしい。
目的地について石段に腰をかけるとふぅー疲れた〜と言いながら背伸びをしている彼女。その様子を見ていると可愛らしく思える。それにしてもなんで呼び出されたんだ?翌々考えてみると、校舎裏に二人きり。何かあるのではないかと考えて私はドキマギしてしまった。だがそれと同時に私の思考はこうも考えた。私みたいなやつが橘井さんに手を出してもらえるような魅力があるのだろうか。自分で自分のことを評価するというのは中々厳しいものだがこれはどうしても聞きたくなってしまうことである。そう考えると私は恐る恐るといった感じで彼女に訊いてみることにした。
「あの橘井さん」
「ん?なんだよ急かしてんのか?」
「私、また何かして怒ってるのかと」
「そんなわけねぇだろ。まあいいか。とりあえず、私はお前の事嫌いじゃねえよ。だって可愛いもんな」
可愛い?ミーが??それ本当?嘘ならもう私なんでも信じる自信しかない。だがそんな私の心情を悟ったのか「疑ってる顔してんじゃねえよ」と言われたのである。図星なので言い返すこともできない。やっぱり怖いよこの子。
「あたしは好きだよ。水織のこと、だからそんなに自分を責めなくて大丈夫だから」
え??好き!? いきなりの告白発言で思考がショートしかけていた私だったがなんとか意識を保つことに成功したのであった。
「あたしと……その……友達に……なってくれないか?ほら今まで1人だったんだろ」
私達の間にしばらく沈黙が続く中で唐突にも彼女の方から切り出してきたのであった。
「わ、わわわ、わたひ、わたし」
動揺してしまいうまく口が動いていないようで何を言っているかもよくわかっていなかった。落ち着かなくちゃ。落ち着け!そう思って深呼吸をしていたのだがやはり無理なものはどう頑張っても不可能というものであってなかなか落ち着きを取り戻すことは叶わなかった。それでもどうにかして落ち着きを取り戻した私はゆっくりと口を開けた。
「おねがひっお願いじまずぅぅぅ」
そう言った瞬間私は思いっきり泣き出したのだった。こんなはずではなかったという後悔もあったがそれ以上に嬉しさが込み上げてきたことで感情が爆発したのである。するとそんな私の頭を撫でてくれていた。
「プッハハ」
笑い出す彼女にどうしたのかと私は尋ねる。すると彼女はまたクスリとした顔をしながらこう告げてくるのだ。
「いやごめん。なんか子供みたいに泣き喚くからさ」
あー確かにそう思われてもおかしくはない。でもそれだけ私は嬉しかったのだ。
「これからよろしくな。水織」
(完)
***
いやいやちょっと待て。
その後、自宅に帰った私は部屋で一人悶々としていた。そう私の本来の目的は橘井さんを怒らせること。なのに仲良くなってどうすんだ。作戦失敗じゃん!!と頭を抱えていた。だがそんな時に思い出したのは先程聞いた橘井さんの言葉だった。そう、あの子は自分のことを可愛くて好きと言ってくれたではないか。あれは完全に惚れてしまった。つまりこの恋も成功してしまうということ。しかしそれは私が求めているものではないという。
あー本当に困ったものだ。私の計画が完全に破綻してしまったのだもの。しかもあんな事言われたら諦めようがない。だがしかし!友達になったからこそできることもある!いざキッチンへ!私は台所へ向かうと、明日橘井さんにあげるクッキーを作り始めた。
***
次の日 朝起きるといつものように洗面所に向かい顔を洗い歯磨きをした。そして鏡に向かって気合を入れ直す。そうすると不思議なことに力が湧いてきていたのである。
よし、今日は頑張るぞー。それからしばらくすると私は家を出たのである。もちろん登校は一緒である。昨日のことが夢じゃないように祈りつつ私は橘井さんの元へ向かった。すると彼女も同じ気持ちだったらしく目が合うなりニコッと笑ってくれる。うわっめっちゃ可愛いんだけど。これがいわゆるギャップ萌えというやつなのか。まぁ私は元から知っていたけどね!
「おはよう。水織。行こうぜ」
声をかけてくれた彼女に私は元気よく返事を返し一緒に歩いていくことにした。隣を見るとなんだか凄い楽しそうな顔つきで歩いているのを見て少し心が苦しくなったがそれを悟られないようにする。だって絶対バレたらドン引きされるだろうし。
「橘井さんは髪伸ばしたりしないの?」となんの理由もなく聞く。正直興味はないが少しでも距離を縮めたいという気持ちから質問をしてみたのだ。
「そうだな。あまり伸ばしたくないんだよな」そういうことらしい。
「似合いそうだと思うよ」
「じゃあ伸ばしてみるかな。もし伸ばすならその時は一番に水織に見てほしい」
「それってどういう意味」
「ん?深い意味なんてないさ。あたしが言いたいだけだから気にするな」と言われ私はそれ以上深く追求することはなかった。
「あっ!そういえば!」
私はカバンをゴソゴソ漁って昨日の夜に作ったクッキーを取り出した。これは橘井さんへのプレゼントなのだ。喜んでもらえるだろうか。ドキドキしながら渡すととても笑顔になってくれていた。
「あたしに?ありがとう!水織」
良かった。渡せた。だがこれは私の計画の一部なのである。
「さっそく食べていいか?」
ワクワクした表情をしている彼女が愛おしすぎるのだがそれを抑えて私はうんいいよと告げる。袋の中から一つクッキーを取るとそれを口に運ぶ。口に入れ噛み砕くと彼女の表情は一変する。そして飲み込んだあとすぐにこちらを向いた。眉間にシワを寄せ、何かを我慢しているかのような表情だ。それもそうだろう。なぜなら、そのクッキーは私が愛情を込めて作ったクッキーなのだから。
「お味のほうどうでしょうか」
不安な声で恐る恐る尋ねると彼女はハッとして答えるのであった。
「美味しいに決まってんだろ」
ふっふっふ……。いい表情ですよ。橘井さん。
***
休み時間。私はスマホを開くと橘井さんからLINEが来ていた。実は昨日の出来事の後LINEを交換していたのだ。ここで私は閃く。当たり障りのない内容に対して私はスタンプを連投したのである。私は知っている。人はスタンプを連続で送られてくるとイラつくということを!!どうだ!? すると彼女の反応は明らかにおかしいものだった。いや明らかにではない確実に、と言ったほうがいいかもしれないくらいには違っていたのだ。私はニヤリとする。
ふむふむ。どうやら怒ってるようですね。計画通り!!! そう思っていた矢先のことだった。教室の扉がガラッと開き、橘井さんが現れて私の元へ向かってくる。ゾクゾクする!来る!来る!そう思いながらニヤけていると、私の頭に向かってチョップを食らわしてきた。
「イテッ☆」
彼女はゆっくりと自分のクラスへと去って行った。どうやらまだ怒ってるようだ。だが私は満足していた。あの怒った顔、めちゃくちゃ可愛かったな〜と思っていると先生から注意されてしまった。いけませんねぇ。私とした事が、つい妄想の世界に入り込んでしまうとは。でもあれだけは許して欲しい。可愛い橘井さんのせいなんだからね!
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