異国の少年と激情の娘【12】
「まぁ、情けない話しと言えば情けないですよね。結果はよかったとはいえ、竜族が人間の嫁探しさせられて格下の竜の呪い受けた後、山奥に飛ばされたと思ったら目の敵にされている竜に襲われて……いや、本当に情けない」
最後はもうぼやきだ。
「で、で、おんなのこ、おこったんだよね」
聞かれて彼は苦笑しながら、幼子に小さく頷いた。
「ええそうです。彼は咄嗟に判断したんですよ。このまま気絶したまま連れ帰った方が面倒がないと。東の賢者に眠り粉を分けてもらって少女を眠らせたままの彼は、王都に移動する為に近くの村から馬を借り、眠らずに自分の怪我を治す時間さえ惜しんで王都を目指しました。
当然、予想より早く王都についたんですけど……王都の一室で目覚めた少女は現状の変化に激怒したんですよ」
動揺よりも、困惑よりも。
説明なしに誘拐されたこと。
彼が怪我を治さずに頼まれごとを優先させたことを。
なによりも、自分が王族入りすることに。
「仕方ないこととは言え、突然嫁ぎ先が決まって混乱してたんでしょうね」
王都の王族は先見の占いで伴侶を決める。それは昔からあることで、その占者は竜族の縁の者が行う。今回は竜族縁の者というよりリーガルーダ本人が占いを行ったので、頼まれごととは厳密には言えない。予言という形の占いで出た結果なので結局は将来結ばれるが、突然のアクシデントというのは存在する。
リーガルーダの知る限り、昔、王族と奴隷という組み合わせがあったが、あのときは反対派の策謀により奴隷は事故死に見せかけられて殺されてしまった。
おかげでその先五十年くらい激しいが実のない後継者争いが続き、あわやお家断絶かというところまで追い詰められたことがあった。王族の結婚は政治に多大な干渉を及ぼすので、穏やかに平和を望むなら伴侶を見つけたからには早めに保護して手元に置くのが一番安全だろう。
「ルーダ?」
「もう、お休みなさい」
無言になった彼が気になって名を呼んだ少女に、彼は穏やかに微笑みかけた。
先程から、眠りに誘われているため少女の声は重たい。それなのに先が知りたくて一生懸命目を開けている。
この辺で切り上げて、また明日話すのもいいだろうと判断した彼は掛け布の乱れを直す。
また明日にしましょうと、微笑む彼に少女は唇を尖らせる。睡魔に負けているのか、嫌だと言う気力は無いらしい。
「おやすみなさい。良い夢を……」
少女の瞼に軽く片手を翳すと、あっけなく少女は眠りに落ちた。
あどけない寝顔に可愛らしい寝息。
そんな些細な幸せを心ゆくまで眺めてからルーダ――リーガルーダは寝台から離れた。
部屋中の明かりを全て消して、静かに扉を閉める。
歴代の国王と王妃の肖像画が並べ掛けられている回廊。
彼が見上げ眺めているのは山奥の辺境の村で生まれたお転婆娘が描かれている絵。
正装のドレスに身を包んで王妃らしくポーズをとる女性。
当時の面影を残しているやや吊りあがった挑戦的な薄水色の瞳は絵になった今でも彼に対して威圧的である。
リーガルーダは金の髪を掻き上げ、ただ一つの鳶色の瞳で、かの王妃を見詰め返した。
「でもやはり貴女は苦手です」
肩を竦める。
小さな微笑を残して、彼はその場を後にした。
【追記】
「チェリア・ローヴィス・セレンシア」人名。
異国の少年に連れられた身元不明の少女。彼女は守護竜の養女となり、第一王位後継者ラシェン・ローヴァス・セレンシアに見初められ後の国王王妃チェリア・ローヴィス・セレンシアと国の名を戴き国の支柱の一人となった。
彼女は歴代の王族の伴侶達と同じく、絶え間ない争いを続ける国を幾度となく勝利へと導き救ってきた。
が、しかし、その潜在能力である反発の力は目を瞠みはるほどの素晴らしさであったのにも関わらず、生涯その力を彼女は争いには使わなかった。
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