ウエディング・アップルパイ

@ramia294

第1話

 思春期の入り口、

 初恋の季節。

 甘い、甘い、真っ赤な初恋の果実。


 もちろん、

 僕の部屋じんせいの樹の枝にだって、実る赤い果実。

 僕が、手を伸ばすと、

 風が吹いて、枝を揺らし、

 せっかく実った、果実が落ちました。


 もてない僕。

 果実の落ちたと思われる、

 樹の根元を随分探しました。

 俯向き続ける人生の始まり。


 見つからない、赤い果実。


 春には、桜の花が繰り返し世界は、美しいと歌います。

 音痴の僕は、同じ歌を歌えません。


 夏には、青い海の波が、楽しい世界に誘います。

 かなづちの僕は、海の誘いに乗れません。


 秋には、落ち葉ハラハラと、俯いていても、時間は過ぎてゆくよと、耳うちします。

 焦っても、急いでも、僕は時間に置いてきぼり。


 冬には、僕の部屋を粉雪が、全てを覆い隠し、

 雪を払う僕の手は、しもやけで真っ赤に。


 それでも、

 僕の落とした真っ赤な果実、

 見つける事が、出来ません。


 仕方なく、

 僕は、部屋のドアをガチャンと閉め。

 果実を探す邪魔をする全てを

 閉め出しました。


 あれから随分経ちました。

 赤い果実は、まだ見つかりません。


 僕の部屋の樹になった、赤い果実。

 どこかへ、お出かけ中ですか?


 気づけば、

 ドアには鍵がかけられて

 閉じ込められているのは、

 あの頃のままの僕の心。


 いつの間にか、

 学生時代が終わり。


 社会人になった僕。

 探し物の苦手な僕。

 それでも、探し続ける僕。


 社会人になって、

 貯金が少し出来ました。

 でも、果実を探すばかりの僕には、

 使いみちが分かりません。


 いつまでも見つからない果実。

 僕のあの頃のままは、部屋に閉じ込められたまま。


 探しものの苦手な僕、

 手伝ってもらう事にしました。

 貯金を持って、

 探偵さんに、

 果実の探しものをお願いしました。


 探偵さんは、

 僕の会社の受付の彼女。

 いつもニコニコ、その笑顔。

 みんなの幸せ運びます。


 彼女の趣味は、ミステリー小説

       と、

     『おかしな、お菓子の食べ歩き』


 少しポッチヤリ、

 気にする彼女。

 それでもやめない、食べ歩き。 

 とっても不思議な,

 彼女とお菓子のミステリー。

 僕には、解けない謎の糸。

 探偵の報酬は、お菓子の食べ歩きに、付き合っていただきます。

 彼女からの言葉は、笑顔と共に。


 まずは、聞き込み捜査から。

 もちろん美味しいお菓子を食べながら。


 探偵さんと、

 ふたりで探す、美味しいお菓子。


 ホテルのお菓子バイキング。

 神戸、元町、喫茶店。

 古都のならまち、わらび餅。

 浪速のぜんざい、夫婦善哉。

 京の八ツ橋、小豆餡。


 お菓子を食べるその合間。

 ニコニコ笑顔の探偵は、僕から聞き込み始めます。

 真っ赤な果実の実った季節。

 詳しく私に、教えて下さい。


 昔々のその昔。

 僕の幼い少年時代。

 初恋の赤い果実を失った、世間にあふれたお話を

 一生懸命、聞く彼女。

 


 ニコニコ笑顔の探偵に、果実の捜索依頼をします。

 ニコニコ笑顔の探偵は、お仕事受けてくれました。

 

 それでは質問。

 探しもの、

 どんな果実の色、形?

 彼女は、僕にたずねます。


 以前、映画で、同じ物。

 僕は、見たことありました。

 街の古い映画館。

 今は、映画のリバイバル。

 映画の中の少年、少女。

 デートで巡る墓地の中。

 若葉の頃の木漏れ日と、

 ふたりで、齧るあの果実。

 真っ赤な果実にふたりで誓う。

 長い、長い、愛する時間。


 探偵さんとの映画鑑賞。

 楽しい時間と、


 鮮やかに蘇る、色褪せていた記憶の…、

 その色。


 ニコニコ笑顔の探偵の捜査の結果の報告です。

 探偵事務所の彼女のお部屋、

 僕は招待されました。


 ニコニコ笑顔の探偵さん

 僕の失くしたその果実、

 しっかり、見つけてくれました。

 

 見つけた果実を甘く煮て、

 僕たち、お菓子を頂きました。


 とっても美味しいアップルパイ。

 香りの高い、紅茶と共に。


 ひと口食べると、ほっぺが落る、

 美味しい、美味しいキャラメルリンゴ。


 甘くとろける僕の心。

 閉じ込められた僕の部屋

 ドアの鍵が、カチャリと、鳴って。


 鍵が、とうとう開きます。

 僕は、ドアから踏み出します。


 眩しい外の世界には、君から温もりプレゼント。

 ニコニコ笑顔の探偵さん。

 今日のお菓子も美味しいと、

 喜ぶ君は、やっぱり笑顔。


 とっても美味しいアップルパイ、

 僕の部屋の合鍵ですか?

 

 僕を救った探偵さん。

 ニコニコの笑顔の君こそが、

 新たに見つけた、真っ赤な果実。

 今度は、しっかり抱きしめて、

 無くさないと誓います。


 今宵の月は、恥ずかしそうに、

 窓辺のふたりに、目を伏せる。

 探偵事務所のシルエット。

 寄り添い重なる影法師。


   季節が巡り…。


 ふたりのための幸せのベルが、街に鳴り響きます。


 ウエディング・アップルパイは、幸せへの扉を開ける鍵でした。


         (⁠◕⁠ᴗ⁠◕⁠✿⁠)


 


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