第26話 付く力
「こんしずく~! 今日もAdaさんに教えてもらいながら頑張ります!」
元気な声と共に配信が始まった。
俺の方でも配信を始め、一度ミュートにして自分の視聴者に挨拶をしてからミュートを解除した。
今回の目的はヘロフェスで何を使うか。
水無瀬さん本人はアバターを使いたいとの希望だったが、大会までに極めれるかは本人の力量次第。
キャラによって不向きはあるし、大会の環境にアバターが着いて行けるかも分からない。
「んじゃ、アバター練習しますか?」
「えっと、はい。一回使ってみて合わなそうなら別のキャラにします」
「了解です。じゃあ早速カジュアル行きますか」
「うし! 頑張りますよ!」
水無瀬さんは宣言通りアバターをピックし、俺は安定のヴォイドをピック。
今回の試合形式は俗に言うデュオトリオという物で、本来は三人で一チームで今の状況だと野良の人を一人募集することになる。しかし、野良の枠を潰し、敵はトリオだが俺たちは二人、つまりデュオで戦うという事になる。
絶対的に2対3の状況になるためどちらかがダウンすると状況的にはかなり厳しいものになる。
また、ファイトで勝ったとしてもどちらかがダウンしているとカバーが無いため、蘇生は困難になる。
おおまかに難しい点を説明したが、メリットもあり、物資状況が貧しくなることがほぼ無いなど微力ではあるがあるにはある。
磨かれる技術は対面強化、味方との連携力、そして2対3の練習。
大会などでは味方を見捨てる場面も多く、2対3の状況も決して珍しくはない。
そして連携は特に重要で、勝てる場面でも連携が取れていなけば綺麗に一枚ずつ相手にされ部隊は壊滅する。
油断大敵という言葉あるように、連携しなくても勝てると思い込むのは良くない。
「とりあえず、敵はワンパですかね」
「だな、サンセットしかないです」
今回の降下地点はアルファメイタという場所で三人分の物資となると少し物足りない感があるが二人ならば十分なほどの物資が揃う。
ランドマークを事前に決められる大会もあり、このアルファメイタよくエクシャス帯の人がいるチームがランドマークにされているのをよく見る。
サンセットとAceTryを拾い、俺は敵と対面する。
「こっち二枚います。一枚いないんでカバー欲しいです」
本来、一枚はぐれている人が居ればそちらに向かいフォーカスを合わせてダウンさせ、2対2の状況を作るのが一般的。
しかし今回はあくまでも水無瀬さんの対面強化及びアバターの使用戦術を理解するのが目的だ。
アビリティ促進薬というアイテムを使い、水無瀬さんのアバターは既にアビリティを使える状況。
俺はまず虚空に入り、敵を引きつけながら円形の建物の中に入り螺旋階段を上っていく。
そして敵が二枚引き付けられた状況の中、遅れた一枚がカバーにやってきた。
下にはアビリティの溜まった水無瀬さんが居る。
「水無瀬さん敵のカバー来ました! アビリティ使ってシバいてください!」
「は、はい! 分かりました!」
『俺様のイケメンスマイル、また一人魅了しちまったぜ』
アバターのアビリティ発動時のセリフが流れ、螺旋階段の下でやり合っている銃声がする。
そしてキルログが流れ、水無瀬さんがサンセットで一枚持って行った。
「それ、カバー行ってます! アーマー変えるか巻いてください!」
「は、はい! 了解です!」
水無瀬さんは焦った声を上げながらもダウンさせた敵を確を取り、そしてアーマーを着替えた。
着替えたアーマーは青で、HPは残り少ない。
俺も階段から飛び降り、すぐさま水無瀬さんのカバーに向かう。
「何か適当にスキルとか連発しちゃってください!」
「了解です! うわっ、騙されたな! おりゃぁあ!」
元気な声と共にキルログがまた二つ流れた。
水無瀬さんが一枚持って行くと同時に俺がもう一人のアーマーを割り、リロードが完了した水無瀬さんが最後のエリストスを倒し、敵のパーティは壊滅した。
アバター、刺されば強いのだが如何せん刺さる場面が少ない。
分身もだだ前に走るだけで、リロードやジャンプなど細かい動作は出来ない。
そのため戦闘中は直ぐにバレてしまって、本体は集中砲火にあうのがオチだ。
「案外刺さりましたね」
「このキャラ面白いけど、遠距離何にも出来ないのつまんないですね」
「まあ、前戦を張るキャラでもありますし、中衛でちょこちょこカバーも出来るんで使い方は多種多様です。自由度はヴォイドと比べたら格段に下がりますがね」
「そうですよね……ヴォイド使いたかったぁ……!」
本気で悔しがっている、かと言っても少し嬉しそうな声を上げる。
水無瀬さんからしたらキャラの制限は強者の印みたいなものだろう。
自分の実力が認められた証拠にもなるし、大会で実績を積めば有名になるのに加えて色々な道の幅が広がる。
優勝実績があれば、公式イベントやカジュアル大会にも頻繁に呼ばれるようになるし、別のゲームの大会にも呼ばれる事も多くなるだろう。
実際俺がそうだったんだから間違いはない。
「まあでも、強すぎるから制限掛けられただけじゃないですか?」
「そうだと思いますけど、ヴォイドで無双して大会の視聴者さん達に実力を示したかったです……」
彼女はやはり、視聴者数や金銭面を気にせず本気でゲームをしている感が否めない。
コーチを経験して以降、様々な人と関わる機会が増えたのだがやはりそこで話題に出るのは金銭面の話。
Vtuberになったら稼げるからなったと裏ではでかでかと公言する人も居れば、楽して稼ぎたかったというしょうもない理由の人も居た。
名前は出さないが、多くの人がそういう思想でVtuberをやっているという事に俺は肝を冷やした。
そんな中、彼女からはそんなおぞましい気配が一切感じられない。
俺はやっぱり、水無瀬さんを選んで良かった。
彼女じゃ無ければ、俺はメタの波に飲まれていただろう。
「んじゃ、敵探しに行きますか」
残りの部隊数は6部台とカジュアルの減りは異常に上に速い。
リリース当初ならばカジュアルで勝利すること自体が難しくて、勝てるだけで凄く嬉しかったのだが今では勝つことが当たり前みたくなってしまっていて新鮮味が無い。
そして今回のマッチで最終的に俺が無双してしまい、水無瀬さんが5キル、俺が10キルという戦績で終わってしまった。
「やっぱりAdaさんのヴォイドは見てるだけで惚れこんじゃいます!」
「あはは……カジュアルはちょっと敵が柔すぎるね……」
彼女をもっと成長させたいのだが、カジュアルでは限界がある。
そう思った俺は一つ案を思いついた。
「水無瀬さん、スクリムは興味ありますか?」
「え、そりゃもちろんありますけど、私なんかが出ても良いんですか?」
俺ぐらいになればスクリムの一つや二つ見つける事は簡単だし、俺が主催でやっても良い。
水無瀬さんのプレイを見て思ったが、彼女のスタイルはプロ寄りで意識し過ぎるあまり初心者などの何をするか分からないプレイヤーから一方的にメタられてしまっている。
なので、プロばかりを集めたスクリムで少し経験を積むのが今の彼女にとって一番成長出来る舞台だと思う。
「出たいなら探してきます。それに、今だったらカジュアルよりスクリムの方が伸びしろはあると思います」
「えっと、お願いしても良いですか? 私、Adaさん以外にも強い人と戦ってみたいです!」
「了解です、大会までには間に合わせます」
こうして、水無瀬さん育成計画の第一歩としてプロとのスクリムが組まれた。
彼女の成長具合は凄まじいものだ。
きっとスクリムでも、プロと同等の力を発揮するかもしれないし、もしボコボコに負けてしまっても『負け』という物を知るいい機会になるかもしれない。
これは楽しみだ。
俺は不敵な笑みを浮かべて、また水無瀬さんとカジュアルのマッチングを開始した。
チームをクビになった俺が中堅Vtuberをコーチングしたらバズったしなぜか俺もバズった。 竜田優乃 @tatutayuno
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