aoiaoi

君は言ったね

「鶴だったらいいのに」と


鶴は

番が死ぬと、その亡骸が視界から消えるまで番の傍から離れないという

獣に食われるか、雪に埋もれるか

愛おしいものの形がこの世から失われるまで、その相手に寄り添い続けるという


あの時の君の呟きに

何となく「そうだね」と答えたけれど


やっと、君の言葉の意味がわかったよ

君の唇が、僕の元を去ると告げたその瞬間に



だから

君の願いを、叶えよう

僕は、永遠に君だけの鶴だ



そんなことできっこないって?



君はまだ気付いてないのかな

もう、君自身が僕のそばで美しい眠りについていることに



子供のように笑う君

拗ねて涙を浮かべる君

本気で怒る君


眩しい眼差し

柔らかな髪

雪色の肌

苦しげな吐息


全てを、僕にくれた

僕の全てを与えた


君が

僕から去っていくなんて

あり得ないんだ


そうだろう?



忘れられない

白い君のセーターの胸に、真紅の薔薇が花開いた瞬間

みるみる大輪に広がる、紅く滴る薔薇

君は、求愛する鶴のような声をあげて


もう大丈夫だよ

今は、僕がこうして君を守ってる

氷の中に君を閉じ込めて

なんて美しいんだろう

まるで薔薇の花束を胸に抱いた純白の鶴



何日経ったのか

そういや何も食べてない

だって、心配でたまらない

君が溶けてなくなってしまわないか



この氷すら、君を引き止められなくなったときは

君が、もしも少しずつ溶けて

この世から消え始めたなら

僕も一緒に溶けよう


それまで

僕は決して君のそばを離れない

安心して

君の一雫が消えるその瞬間まで、この目で見届けるから



その時は

一緒に翔ぼう

灰色に淀んだ雪空の奥へ



ほら

僕たちは、鶴だ

誰にも邪魔されず

雪原に溶けていく番の鶴



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