第六章 未来へ向かって
あれから数年の月日が流れた。
俺はあの後とある会社に就職した。
その会社は俺みたいな植物状態だった人たちを
雇っている会社だった。
きっかけは母さんから渡された一枚の求人募集広告だった。
内容を詳しく見ると、そこにはこう描かれていた
・経歴不問!男性でも女性でも働けます!
・月給約15万円。
・募集対象 年齢20~50代の男女。
・過去に植物状態だった方。
俺が『これ何?』っと聞くと、母さんはこう答えた。
『いやなんかねさっき道を歩いていたら、チラシ配りの人に渡されたの。
『へー』
さらに母さんは続けた。
『どうやらその会社俊也みたいな植物状態の人でも働けるみたいなの。』
『・・・その気が向いた時でいいんだけど、良かったら入ってみない?』
そう言われ、一瞬たじろいたが、
『考えとく。』っとだけ伝えた。
その夜俺は募集広告の事で頭がいっぱいだった。
会社に興味はあったものの俺の心は期待と不安でいっぱいだった。
俺は考えに考え抜いた。
翌日
『あらおはよう俊也。今日はやけに早いわね。』
『母さん・・・俺決めたよ。』
「えっ?」
『母さんが昨日渡した募集広告の会社・・・受けてみようと思う。」
『え⁈本当俊也⁈』
『うん。』
『うぅぅ・・・まさか俊也が自立して自分から働ける日がくるなんて・・・』
『そんなに嬉しいの?』
『当り前じゃない!ようやく俊也が働いてくれると思うと、
母さん嬉しくて嬉しくて。』
『ありがとう。』
『とにかくこれから頑張るのよ!応援してるからね!』
ありがとう!母さん!』
数日後
俺は募集広告に記載されている住所に向かった。
『ここだな。』
中に入ってみると明るく奇麗な空間が広がっていた。
俺は受付の人に面接に来た事を告げ、部屋に案内された。
そして午前10:00面接が始まった。
目の前には面接官3人がいた。
『ではまずお名前と年齢を教えてください。』
『名前は山口俊也。年齢は27歳です。』
『履歴書を一通り見せてもらったんですが、山口さんは
過去に植物状態だったんですか?』
『はいそうです。ある日突然通学している時に車にはねられ意識を失い、
そのまま10年間植物状態でした。』
「そうだったんですね。」
『はい。』
『それでは最後にこの会社に入ろうと思った志望動機は何ですか?』
『志望動機は先週の日曜日に母から渡されたこの会社の求人募集の
広告です。』
『求人募集広告の一番下に俺みたいな植物状態の人でも働けると
書いてあったので志望しました。』
『そうですか。山口さんはこの会社に入ってどんなことをしたいですか?』
「俺みたいな植物状態だった人でも安心して暮らせるような社会にしたいです。』
『なるほど。ありがとうございました。採用の有無は後日改めて、
メールでお知らせします。』
『分かりました』
そして数日後俺は無事会社に入社することができた。
『きょうからお世話になる山口君だみんな仲良くな。』
『山口です。よろしくお願いします。』
『それじゃあ山口君にはまず簡単な作業から覚えてもらうよ。』
『分かりました。』
『まずオフィスの掃除そしてお茶出し簡単な書類作成などなど・・・こんな感じだね。」
『分かりました。』
それからというもの俺は必死に業務内容を覚え、日々努力した。
そして入社してから数年の月日が流れた。
入社当初に比べて、仕事のペースもだいぶ早くなり、今となっては会社の教育担当まで任されるようになった。
そのことを両親に伝えると、両親は驚きながらも泣きながら喜んでくれた。
俺はこの会社に入ってつくづく思うことがある。
それはこの会社に入って本当に良かったという事だ。
会社に入社して数年。ここに入ってくるのは俺みたいな植物状態だった人達が大半だけど、
最初はみんなすごく不安そうな顔をしている。
でもこの会社に勤めてくると、だんだんと笑顔が増えていくんだ。
その笑顔を見るたびに俺は『あぁ。この仕事をやってて本当によかった』って
凄く嬉しくなるんだ。植物状態から目覚めて早十数年。
今まで色んな事があったけど、俺はこれからも父さんや母さん達と一緒に自分の
人生を大切に歩んでいこうと思う。
おわり
記憶~失われた10年間~ つぶみかん @happystar
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