第四章 失われた時間

ピッピッピッ・・・


う~ん。何の音だ?


俺は音が気になり、ふと目を開けた。


見渡してみると、


そこには母さんがいた。


あれ何で母さんがいるんだ?


俺が不思議に思っていると、母さんがいきなり


『俊也!ああようやく目を覚ましたのね!』


俺は母さんの言っていることが全く理解できずにいると、


母さんは俺に向かってこう言い放った。


『俊也できるだけ落ち着いて聞いてね?』


『あなたが事故に遭ったあの日からあなたはずっと植物状態だったの。』


さらに母は続けた。


『私とお父さんはずっと目が覚めないあなたのことをずっと


看病していたの。』


『そのつまりね。信じてもらえないかもしれないけどあなたは事故に遭ってから10年も


眠っていたのよ。』


『つまり今あなたは27歳なのよ。』


えっ・・・10年・・・?


俺が事故に遭っていつのまにか10年も経ったのか・・・?!


『なぁ。母さん冗談だろ?』


俺がそう言うと母さんは真剣な顔で俺に言った。


『冗談なんかじゃないわ。カレンダーを見てみなさい。』


俺は母にそう言われカレンダーを見た。


『2022年だと・・・?!」


俺はカレンダーを見てようやく気付かされた。


そうか。俺は今の今までずっと眠っていたんだ・・・


絶望しきっている俺に母さんは言った。


『俊也の失った時間は決して戻ることはないけれど、


取り戻すことはできる。だから俊也には今この一瞬一瞬を


大事に生きてほしいの!』


母さんそう言われ俺はハッとした。


そうか。そうだよな。


事故に遭って俺が植物状態になったのも、


そのせいで父さんと母さんが時間を割いてまでして


俺の看病をしてくれたのも全部俺に目を覚ましてほしかったから


なんだよな。


失った時間は戻ることはない。


だけど!これからの時間を人生を大切に生きていけばいいじゃないか!


『母さん俺これから自分の時間を人生を大切にするよ!!』


『ありがとう・・・ほんとにありがとう・・・


これから色々大変な事とかあると思う。


でも!そんな時はいつでも父さんと母さんを頼りなさい。


いつでも力になるから』


『ありがとう!母さん』


暗くどん底に落ちていた俺の心にまばゆい光が差し込んだ気がした。




しばらくして父さんがやってきた。


『俊也!やっと目を覚ましてくれたのか!


あぁ良かった・・・本当に良かった・・・』


そう言いながら俺を抱きしめた。


『痛いよ~父さん。』


『だってお前が目を覚まして嬉しくて・・・!』


『分かったから離して。苦しいよ~』


『ふふ...』


『どうしたんだ?母さん』


『いやなんかこうして親子で話すの久しぶりだからつい。』


『そういえばそうだったな。』


『そうだね。』


『俊也が事故に遭う前もこうして家族で色々話したり


ごはんも食べてたっけ。』


『なんか・・・懐かしいわね』


『そうだな』


『俊也ごめんなぁお前ばっかり辛い思いをさせてしまって・・・』


『謝らないでよ。父さん。』


『えっ?』


『俺が事故に遭ったのも、そのせいで父さんと母さんが


俺の世話をする事になったのも誰のせいでもないんだから。


むしろ俺が二人に迷惑をしまった・・・』


『とんでもない!父さんと母さんはね俊也が早く目覚めてほしい。


それだけを願いながら今まであんたの事を看病してきたの。


俊也の人生は決して無駄なんかじゃない。 』


『それにこうして目覚めてくれたんだから無駄じゃないでしょう?』


『とにかく今はゆっくりしてなさい。』


『うん。分かった。』


『それじゃあ俊也。父さんもう帰るから。


また明日な。


『うん。バイバイ。』


『バイバイあなた。』


『母さんは帰らないの?』


『今日は病院にいるわ。


明日は父さんが来てくれるから。』


『そっか』


『うん』


『ちょっと母さん売店で飲み物買ってくるけど


欲しいものとかあるかしら?』


『じゃあ水買ってきて。』


『分かったわ。じゃあ母さん売店に行ってくるから


おとなしくしてなさいよ。』


『はーい』


そう言い残し母は病室を後にした。




・・・そういや大介と春華あれからどうなったんだろ?


俺はふと二人の事が気になった。


『あとで母さんに聞いてみるか。』


    数分後・・・


『お待たせ~俊也。はいお水。』


『ありがと』


『ゆっくりでいいからね』


『うん』


『母さんは飲まないの?』


『あとで飲むわ。』


『そう』


『ねぇ母さん。』


『ん?』


『大介と春華っていたじゃん?』


『そういえばいたわね。』

二人がどうかしたの?』


『いや・・・元気してるかなぁって』


『うーん分からないけどきっと元気してるわよ。』


『母さん知らないの?』


『うん。俊也が事故に遭ってすぐの頃には来てくれてたけど、


そのあとはほとんど来なくなって今はもう・・・』


『そうだったんだ。大介と春華どんな様子だった?』


『とても寂しそうだったわ。大介君は呆然と


眺めているし、春華ちゃんは泣いていたし。』


『そうなんだ。』


『二人とも見舞いに来るたびにいつも聞いてたわ。


『俊也はいつ目覚めるんですか?』って。


『うん。』


『でも結局目覚めなくて大介くんも春華ちゃんも


来るのをやめてしまったの。』


『そうだったんだ。』


『うん』


『連絡先とかって交換してないの?』


『してないわね。』


『・・・そっか』


『もうすぐご飯の時間になるけど俊也食べられそう?』


『ごめん。要らない。』


『そう』


『・・・しばらく一人にさせてくれ。』


『分かったわ。』


『それじゃあ母さん1階の病院のソファでやすんでくるから。』


『うん。』


『じゃあね』


『じゃっ』




・・・はぁ大介 春華。


お前たちが今どこで何やってるかは分からないけど、


いつかまた会おうな。あの頃みたいに。


俺はいつまにかあの頃の思い出に浸っていた。



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