第10話 一体感

「おそいぞー。早く早く」


「悪いな。教官がどうしてもって放してくれなかったんだ」


「ひぃっ!?お、おとなですぅ~」


 葉月に適当に返すと、紗枝が顔を赤くする。


 こいつは何を考えているんだ。


「関川、髪に芋けんぴついてるぞ」


「のぉぉぉ…」


 教官が車を発進させながら裏拳で頭を殴ってきた。


 解せん。


「何てことしてくれるんだ!私の頭にたんこぶができたらどうしてくれる!?」


「見てくれが少しはましになるな。感謝されてやっても構わん」


「ふんっ。私のファンクラブの奴らが黙ってないぞ。夜道には気を付けな」


「ああ、確かに関川さんにはファンクラブありましたね」


「まあ、当然だな」


 適当に言っていただけなのに紗枝が衝撃の事実を告げる。

 

 いつの間にそんなもん出来てたんだ。


「なんだか、ミステリアスでかっこいいだとか、孤高を気取っててクールだとか言われてましたよ」


「見る目があるな」


 話しかけてくる連中が面倒だから、休み時間は本を読むか寝ているかしたのが、良い様に解釈されていたらしい。


「私もちょっと憧れてたんですけど、さっきの教官とのやり取りでなんていうか、その……」


 紗枝が困ったように口をつぐむ。


「何だってんだ」


「ああ、うん。さえちーの言いたいこと分かる。みーちゃんはなんていうんだ、その、あれだ。突き放すような態度の奴だと思ってた」


「ええ、ごめんなさい。実は私も関川さんって、ちょっととっつきずらい人かなって」


 葉月と隊長も紗枝に同調する。


 確かに、教官の様子をうかがうのと、他の連中を観察するので余裕がなくなっていたかもしれない。


「はぁ」


 息を吐くと思考が軟化したことに気づく。


 気を張り詰めてとがっていたことが今なら分かる。


「まぁ、私のことをどう思おうと勝手だ。適当に扱ってくれ」


「あ、はい。分かりました。なんていうか、その……ユーモラスな人だって広めておきますね」


「うん。みーちゃんは思ってたよりも面白くてかわいい奴だな」


「勝手にしてくれ…」


 よくわからんが、どっと疲れた。


「もういいな。作戦を説明するぞ」


 話がひと段落ついたところで教官が切り替える。


 他の連中も空気が変わった。

 

 私も教官の話に耳を傾ける。程よい緊張感が心地良い。


「それから腹に物を入れておけ。駐屯地でもらってきた軍の携行食を積んである」


「うげ」


 葉月が嫌そうな顔をする。


「あれ臭いから嫌なんだよなー」


 気に食わん奴だが、それは同感だ。


 味は市販されているスティック状の栄養食と同じだが、エネルギーの補給と保存性に重きを置いた結果、油臭くなった。


 戦場ではこれを食べざるを得ないとのことで、学園でも時々食べさせられる。正直言ってあれは拷問の一種だ。


「つべこべ言うな。食え」


 教官が振り向いて、後部座席にいた葉月の口に携行食を押し込む。


「ふごごっ…」


 涙目を浮かべる葉月に少しだけ同情する。


 教官に押し込められるよりかはましだと思ったのか、ほかの連中も栄養食をかじりだす。


 まずい。


 全員渋い顔をしている。妙な一体感ができた気がした。

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