離れていた妹と再会した
@morukaaa37
第1話
空も黒に染まり、街灯の光が目立つ時刻。バイト帰りの俺は、飲食店の賄いが入ったビニール袋を片手にふらふらと路地を歩いていた。駅近である飲み屋街には建物がギッチリと立ち並んでおり、その歩道上には、あまり見たくないようなゴミや嘔吐物が散乱している。
「うわ、汚ねぇ、、」
電柱に取り付けられた街灯の下。そこにも、まだ新鮮ほやほやの吐瀉物が街灯に照らされその存在を示していた。1人だというのに、つい口を開いてしまうぐらいには生々しい。
だめだ、このままでは、俺にまで吐き気が感染してしまう………
俺はゲームでもしようと、ポケットに入れていたスマホを手に取る。画面を立ち上げると、スマホの通知が来ていたことに気づいた。
親父からのメールだ。
スクロールし、内容を確かめる。
てっきり、いつもの小言かと思っていたが、意外にもそれなりの長文が送られてきていた。
親父からの長文ほど面倒くさそうなものはない。
そして、その嫌な予感は的中した。
親父からのメールによるとこうだ。
長い間喧嘩していた母と仲直りをした。来週から、一緒になって暮らすらしい。そして、その流れで一人暮らしの俺に昔一緒に住んでいた妹を預かって欲しいという。なんでも、長年会っていなかった親父と兄、どっちがマシかと聞いたところ兄である俺が選ばれたそうだ。ちなみに、拒否権はないらしい。既に、妹には俺の住所を伝えているようで、妹とのメールのやりとりが写真として送られてきていた。
写真を見ると、柄にもなく絵文字やビックリマークをふんだんに使っている親父と、相槌しか打たない妹の滑稽な会話があった。
うわぁ、、なんとなくだが、俺が選ばれた理由が分かる気がする。
あまりに突然すぎるメールに腹が立つが、妹という単語が頭から離れない。俺の最後の記憶では、妹はまだ小学校に入ってすらいなかったはずだ。顔もあまり思い出せない。
とりあえず、妹の来る日程だけでも聞いておきたかった。部屋の中には、人に見せたくないものだって勿論ある。
手早くメールを送るとすぐに既読がついた。
即既読に少々戦慄していると、路地の交差点端にあるコンビニに着いた。スマホの画面はつけたまま俺は中へと向かう。賄いだけでは流石に腹は膨れない。
俺が入り口に近づくと、自動ドアがコミカルな音とともに開いた。
中に入り、コンビニの奥に並ぶおにぎりから適当に選ぶ。時間帯的に品出しする前なのであまり種類は多くなかった。仕方ないので塩むすびを手に取り、そのままレジに置いた。
「袋入りますか?」
「あ、大丈夫です」
財布から小銭を選び丁度払い終えると、俺はいつの間にか閉じていたスマホを開く。
「ありがとうございましたー」
礼儀正しくお礼を言う店員に会釈しつつ、俺はメールを確認。
『今日からに決まってるだろ。来週と言ったが、明日は日曜だし、荷物はもう運び終えてる。ゆいちゃんもキャリーケースごとお前のアパートに向かったはずだ。申し訳ないとは思うが、入れてやってくれ。分かってるとは思うが少しは気を遣って接しろよ』
思わずスマホをぶん投げたい衝動にかられた。
父親が妹をちゃん付けしているのも気持ち悪いが、何より謎に上からなのが腹立たしい。全面的にもう少し早く伝えるべきことを、直前になって─────
落ち着こう。
今時刻は8時ちょい過ぎ。妹が何時からこっちにきているかは知らないが自宅から俺のアパートまでは電車で30分ほどの距離がある。既にアパートについているとしたらかなり疲れているだろう。
とりあえず、帰って妹に会うのが先だ。
俺はコンビニの自動ドアを再び通り、急足でアパートへと向かう。
「あ、お兄ちゃん」
「え?」
聞き間違えでなければ、今お兄ちゃんというセリフが聞こえた。俺は慌てて後ろを振り返る。
そこには、どこかの制服にカーディガンを緩く羽織った少女がいた。今まで会ったことはないはずなのに、その表情といい、声の掛け方といい、何故か親しみを感じる。まるで、友人に会ったかのような自然な態度だった。
「えーと、もしかして」
「あ、ゆいちゃんです」
自分で名乗ってたのね………
あまりにも淡白な妹との再会に戸惑いも感動もない。妹もとりたて嬉しそうに微笑んだり、不安そうに顔を顰めたりせず、ただ俺の姿をチラチラ観察しているだけだ。
妹が冷静だと兄として自分も冷静に振る舞いたいと思ってしまう。てか、自分だけ舞い上がってバカを見たくない。なので、俺は極めて真面目な表情で妹の顔を見る。
「え、かわいい」
初手から最悪の同居生活がスタートした。
離れていた妹と再会した @morukaaa37
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