ファローの手記
・概要
至灰星紀の詳細な調査が目的。
まず帰還は叶わない。大図書館からの支給品も最低限にまとめる。
志願したのは、義務があると思ったからだ。フラクロウの文明を暴走させた責任者の一人として、引き金を作ってしまった一人の人形族として、贖罪が欲しかった。
だからこれは、オレの自己満足だ。
必須「記憶消滅薬」―忘却・消失の精霊から加護を受けたものを選択
人形族だと食事が要らなくてありがたい。燃料は2月分。現地での調達は望めないため、節約すること。
・前提
至灰星紀の現行人類は「強食翼人フラクロウ」。
レポートを頼んだロマン氏が詳しく書いてくれるだろうが、簡潔に書くなら傲慢クソヤロウ。
『食った分だけ強くなる』
オレの元知り合いにも何人も、フラクロウに親族食い殺されたっつーひとたちがいた。オレが造られたのも、遠因はまあ、フラクロウと言えなくもない。多分、かなりの恨みをかってる。
大図書館流に年号は記した。
一文字目が「どういう形で文明・世界が滅びたか」。
二文字目が「滅びの原因」。
○○紀は「記録がどこを根拠にしてるか」。
至灰なら「他種族の忠告・警告を全部無視して、自分たちが作った
(ちなみに、通称解灰期な浮島文明は『交陽星紀』。太陽の力で滅ぼされたけど、次世代へのバトンタッチはできたってことだ)
・調査対象
『灰の怪』。前身の『宝石科学』の設計図か、宝石科学狂わせた科学者の身体組成か精神性。どちらかでも調べられたら最高。
『リリア・ユニコニスの作戦』は…正直無理だと思ってる。伝わってる限りだと、あの娘もスクラップだ。一回
・降りる地域
元イヌダシオン集落跡地。色々複雑。
地上からワタリ鳥の商業国「ネズピア」を通って、フラクロウ帝国を遠目に確認。七つ丘から湖を渡って、海の国「ガリ」を目指す。
精霊の森「ヴィダ」に行く時間はない。あっちもいろいろ忙しいだろうし、何より、オレが受け入れられるとは驕っていない。
手帳は黄薔薇城の姫君に託して、以降は自由解散。
『1日目』
狙った通り、イヌダシオンのあった集落に立つ。
岩ばかりで驚いた。あんなに、豊かな森だったのに。
フラクロウはいない。
ただ、地面に排泄物がこびりついて酷い臭気。建物も潮風にやられてボロボロ。
―フラクロウは翼人。所定の位置でするのではなく、体が重くなった時にする。彼らの理論では『地面なんか這ってる方が悪い』になる。
『2日目』
不毛の大地が続く。曇天。
細い草をやせた鼠が取り合って、頭上から翼人に地面ごと抉られていった。天候で隠しているだけで、警備隊が来ているかもしれない。
気色悪いが、地面と同色の布でカモフラージュしつつ、這って進む。
『3日目』
「宝石科学」は作られた後? 前?
遠く石の固まる山上が見えた。2日歩けばつきそうだが…時期によっては危険。
あそこで疾風の精霊が勇士に殺されて、それから一気に破滅していく。
宝石科学も、科学者も、リリアもいる。……確認する価値はあるかもしれないが。
……念のため、毎日山を見ることにする。
『4日目』
フラクロウの外見は見たことある姿から大分変っていた。
もっと翼人翼人した見た目だったのに、あれは、どちらかと言えば我らに近いのか……?
『6日目』
山上(フラクロウにとっては丘)の入り口で、疾風の精霊に会った。
かなりピリピリしていたが、訪問の理由を伝えると20分を限度に調査を許される。
リリア・ユニコニスについて
―まじない師セルーナ派の老夫婦に育てられた。元はタタリ人形。
疾風の精霊によって浄化されているが、現在も翼人への恨みは深い。
老夫婦は『集中力を劇的に上げる薬』の生製法を知っているとのこと。
予測:『宝石科学』が美しいものを狙うのなら、醜いものはどう判断されるのか?
『宝石科学』の設計図は見つからず。
研究員の羽の採取に成功。この内のどれかが、例の科学者のものならばいい。
『7日目』
体調最悪。
部品の間に何か入り込んだかもしれない。
『8日目』
スクラップ。「役立たず」「こんなはずじゃなかった」
昔の、嫌なことばかり思い出す。
『9日目』
山上が大分遠くなった。体調が最悪でも“任務”のためなら歩けるし動ける。
生物と優先順位が違うとしみじみ思う瞬間だ。
『10日目』
ネズピア到着。こちらも遠目に見るだけ。
ざわついているのは『宝石科学』か『勇士』…ああ山上の石化かもしれない。それかマモノのことか。
街の外観は白と金。よくあれで浮いてるな。(物族の技術の応用かもしれない)
陽炎の上に『丸蓋が二つ重なったスパイスのガラス瓶』が千個くらい並んでいる見た目。
建物は赤い糸で結んである。あれはベンチみたいなものか。
建築:丸蓋1つ目が金、丸蓋2つ目が淡い空色。おそらく居住区。寝室は一番上だろう。
その下に空気孔とホバリング装置。
最下の円筒は透明。食料の備蓄庫であると同時に『たまったら開いて捨てる』ためにあるのだろう。
『11日目』
瓶の底に見知った顔があった。
急な横殴りの雨と、突発的な暴風は実にいい仕事をしてくれた。『たまったら開いて捨てる』方式は、こういう時に役に立つ。
弱っていたので、知り合いを荷物っぽくみえるようにして逃げる。
ネズピアはモーニング・グローリーのように横長。加えて連続している。
逃走は迅速に。
[以下11日分の空白]
『22日目』
嵐を抜ける。
入浴と食事をすれば、知り合い(以下、アクティ)は少し元気になった。
やっとこさワタリの追手は巻いたが、フラクロウの都はかなり警備が厳しいらしい。
「好機」とは?
[白紙]
『24日日』
『宝石科学』の設計図の発見と撮影に成功。
ネズピアでの騒動で、研究所がやや手薄になっていた。助かった。
急いで湖に逃げる。一応オレ戦闘用なのに、逃げるのが精一杯ってどういうことだクソ。
アクティの言う通り「一部を食われて、大図書館のことがフラクロウに漏れるよりマシ」と考えることにする。悔しい。クソ。クソ!!!!![ぐしゃぐしゃの線で塗りつぶされている]
『26日目』
「妻子はどうした」と聞けば「城に逃がした」と返ってきた。
城は十中八九黄薔薇城だろう。共に来るかと尋ねると戸惑った様子
(まあ、裏切り者に言われた[多重線で塗りつぶされている]
現在の身分と目的を明かす。
ついでだからアクティに大図書館までの遣いを頼むのもいいかもしれない。
こいつなら、本を変に扱わないだろう。
くれぐれも“今”のオレに会わないよう、会っても会話しないよう、すぐ逃げるように伝える。祈る。
『27日目』
本気で地表が不毛だ。
たまにあるのは、打ち捨てられた研究所。どれもこれも『美味なる毒』だとか『より美味な合成○○』だとか。フラクロウは頑強だ。とても頑強になれるから、速足で進化できない生き物を置き去りにして、土地ごと殺してしまった。
ワタリから逃げている時、山上の石化が溶けているのが見えた。
風が悲鳴を上げて、生ぬるい移動だけを始めた。ピューッと吹き上げる風は、雨や雹を呼ぶ悪戯好きな精霊が、死んだ。
急いで、城を目指さないと。
『28日目』
アクティから「昔の話をしたい」と言われた。
『[日付が二重線で消されている]』
アクティは元々、宝石科学を調べるために有翼人のところで使用人をしていたらしい。
でも見た目がマモノっぽいからと、あそこにいた。
マモノ
フラクロウ側の呼称。
消滅を覚悟して、一つでも多くの命を救うために至灰星紀に来た精霊種たち。それから、精霊種に殉じるつもりで付き従う物族や、生物種。……キャメルが、大図書館にいなかったのは、だからだ。
キャメルは、イヌダシオンに殉じる気で、ヴィダの森を守っている。
フローセ(オオムラサキ型。同期みたいなものだった)はもう壊れたらしい。だろうなと思った。あいつは、戦うことが『任務』だった。う[塗りつぶされている]
『[日付が二重線で消されている]』
宝石科学
醜さ→宝石×
宝石→元の物質×
美→宝石
不可逆
『[日付が二重線で消されている]』
海峡→フラクロウ以前に消滅→転生?
疾風→取り込まれた
晴天→消滅? 結界化?
水→死亡
灯→死亡
夜→死亡
根→死亡
音→死亡
図書→死亡
泡→死亡
蝶→死亡
土地管理精霊種→みな死亡
鏡→破壊
山→死亡
大地→死亡
◎取り込まれたのは疾風のみ?
『[日付が二重線で消されている]』
海の国まで来た。
フラクロウとネズピアは広いけど鈍色。海の国は素朴だけど空気が違う。精霊に祝福されて愛された、懐かしい土地の匂いがする。イヌダシオンの集落もこんな匂いだった。
樹齢300年は過ぎているだろう大樹2本の間に、同じ色の大扉が設置されている。高さは木の半分ほど。大扉上の通路は木の枝を転用している様子。扉が頑丈であること、倒れないことは精霊の加護だろう。
国が春夏秋冬と梅雨・秋雨の6区画に分けられ、海の生物、川の生物、陸の生物、空の生物たちは最も心地よい区画で手を取り合って、暮らしている。透明なタイルの下から水生生物が手を振ってきたり、大きく育ったイチイや柊の上で翼人が井戸端会議に花を咲かせているのを見かけた。
各区画を移動して物資を運ぶのは、人形族をはじめとする物族。
―適切な使用方法に安心する。
『40日目』
海の国ですら、精霊への不信が募っている。
それもそうか。精霊の正しさを信じた者たちは皆、もうキバラ城に向かった後だ。
キバラ城は冬区画の西にあるそうだ。
『43日目』
仮説を立てた。やっと、設計図の印刷と封入が済んだ。読むこともできた。
以前『宝石科学に醜いものはどう判断されるのか』と考えた。宝石科学が触れる事すら嫌がるほどの醜いものなら? 心すらも触れたくないほど醜悪であれば? フラクロウにとっての美的感覚は?
灰の怪は『風と共に来』だ。海や大地が取り込まれていたら、もっとひどかったはずだ。
惑星が灰化した原因は『灰の怪』がすべてではなくて、『管理精霊種』をフラクロウの勇士が殺し尽くしたからも一因ではないか?
『大地』を殺したから、地上が底なしの砂になり灰が積もり、やがて砂すら消えた。『疾風』を殺したから掴む風が消えて、翼人は天を目指せなくなった。フラクロウの勇士が『伝わっていない』のは、これが原因では?
『44日目』
アクティへ
ありがとう。手紙を届けてくれた。オレでは城に入れないのは最初から分かっていた。
お前の言う通り、オレは精霊を裏切った。温情で大図書館へ行くことは許されたけど、精霊の加護篤き城には入れない。お前と過ごした33日、久しぶりに楽しかった。
イヌダシオンが何を考えていたのか、精霊がどんな存在なのか。最後に知ることができて、幸運だ。
……いつかの話を覚えているか?
オレは取り返しがつかない。リリアもきっとそうだ。予想が当たっていたらだけど。
作り手に『
仮説を実験する。
山上町は知ってるか? そうだ。オレがたまに見ていた山だ。オレはあそこに行く。
フラクロウの勇士と鉢合わせる可能性もあるが……。
もしも、オレかリリアの部品の一部が残っていたら仮説は証明される。
宝石科学、後の『灰の怪』も、醜悪さで武装した『はぐれもの』を倒すことはできない。
精霊に救われた経験のあるスクラップなら、そういう人形族が美しさをかなぐり捨てて挑めば、アレを滅ぼし尽くせるかもしれない。
オレたちに、利用価値が生まれるんだ!
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