第四章:三話
その会話からいくらも経たないうち、私が夏川くんの指導を始めたのとほとんど時を同じくして、遂に蛍琉が夢研究の被験者に選ばれた。
すぐに私は蛍琉の担当者として名乗りを上げたが、案の定、家族が担当者になることに関して、最初は許可がおりなかった。
しかし、もともと人手不足のここは、研究者たちが常に被験者を抱えて手一杯の状態だ。そこに私の熱意も相まって、最終的に条件付きという形で許可がおりた。
その条件とは、私が蛍琉の記憶に入るのは一度まで、というもの。
本来なら一度で目覚めなかった場合、被験者家族と室長の承認があれば、三回までなら記憶の中に入り、治療を試みることができる。しかし私の場合、一度失敗すれば他の研究者に、蛍琉を託さなければならなくなった。
蛍琉が正式に夢治療の被験者に選ばれてから約一ヶ月と半月ほど。晴れて蛍琉の担当となり、治療をスタートさせた私は、初めて記憶の映像を見た時驚いた。自分の後輩がそこにいるなんて、夢にも思わなかったから。
確かに思い返せば蛍琉から昔、夏川という名前は聞いたことがあったけれど、そんなことすっかり忘れていた。しかも、当時その人の下の名前は知らなかったから、初めて夏川くんに会って、彼が夏川蒼馬と名乗った時も、特別ピンとくるようなものがなかったのだ。
それから徐々に、当時、蛍琉から聞いた夏川くんの話を思い出していった。まさか、昔よく弟が話していたあの夏川という人が、彼だったなんて。
なんとしても弟を救いたい。その思いで始めた蛍琉の夢治療で、私は蛍の記憶の中に、夏川くんを見つけた。
そして一度、記憶の世界に入って、実際に二人で過ごす彼らの姿を見て、私は気がついてしまった。
蛍琉を本当の意味で救えるのは私じゃないと。
そしてもう一つ、
誰なのだろうとずっと疑問に思っていた”あの男の人”は、彼なんじゃないかと、思い至った。
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