第三章:六話
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そうして急遽与えられた一日の休み、俺は久しぶりに東明人と佐野雄大に会った。明人とは進学先の大学が同じだったからしょっちゅう会っていたのだが、雄大は県外の大学に進学し、就職もそちらでしていたために会える頻度はぐっと減っていた。
しかしそんな雄大が、この度仕事の転勤でこっちに戻って来たらしい。知らせを聞いた明人が、さっそく三人で会おうと提案し、昨日連絡をくれたのだ。
そして今、俺たちは同じ卓を囲っている。場所は雄大の新居だ。各々が飲み物やらつまみやらを持ち寄って、まるで学生時代のあの頃に戻ったみたいだった。
「それじゃ、準備もできたし! 乾杯!」
明人が元気に音頭をとる。そして挨拶もそこそこに、さっそく袋菓子の封をバリバリと開ける彼を見た雄大が
「お前ら人の新居汚すなよ」
と苦い顔をしていた。しかし、既に時遅しとでも言おうか。
「……既に散らかってないか」
というのが俺の正直な感想だった。
「雄大、諦めろ。昔から俺たちが揃ったら汚すなは無理だ」
「主に明人と蛍琉が汚してたんだろ」
「俺たちだけかよ!」
「そうだろ」
「だな」
「お前ら二人、そこで結託するな!」
しばらくはお互いの近況を報告し、他愛もない話をしながら各々持ち寄った食べ物を消費していった。
昔だったらここに蛍琉もいた。今も、いるはずだった。
この時間が楽しければ楽しいほど、蛍琉のいない寂しさが俺の中で積もっていった。
ここに彼がいたら。
その思いは少なからず二人も同じだったようで、食事もあらかた終わった頃、自然と蛍琉について、話題が向かった。
「なぁ、まだ目覚めないのか、蛍琉」
口火を切ったのは雄大だ。
「結局今もまだ病院に入院してるんだよな? 蒼馬?」
「……あぁ。なぁ、二人に少し聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「なんだ?」
「蛍琉が眠りにつくちょっと前からのこと、何か気づいたこと、ないか?」
「それはもう三人で散々話したろ。俺も近くにはいたけど、あの頃あいつ、卒業に向けて忙しくしてたからあんまり会えてなかったしな」
「俺はそもそも県外に出てたからな。四人で集まる時以外には会えてなかったし」
「雄大はメッセージでのやり取りもなかったんだよな?」
「なかった。最後二ヶ月くらいはほとんど没交渉状態だったよ。しばらく忙しいって言ってたから、こっちからの連絡は控えてたしな」
「卒業制作だけじゃなくて、コンクールも出るって言ってたもんな。でも忙しいって言っても昏睡する程でもないだろうし。なぁ、蒼馬?」
「あぁ、それはない」
記憶の映像を見た限り、橋田との衝突が起こる前はいつも通りの蛍琉だった。
そして俺が実際に記憶に干渉し、橋田と蛍琉の衝突を回避した世界では、やはりそのあと穏やかに日々は過ぎていき、蛍琉はずっと楽しそうにピアノを弾いていた。
「そういえば蒼馬は蛍琉が作った曲、聴いたのか?」
先まで首を傾げて唸っていた明人が俺を見る。
「卒業製作の? それともコンクール用の?」
「コンクールの方。あいつ、前に完成したらお前に一番に聴かせるって言ってたけど」
「いや、聴いてないな」
「そっか。でも聴いてたらびっくりしたと思うぞ」
「なんで?」
「だってな? いや、待てよ。本人いないのに言っていいのか、俺」
「明人、そこまでいったならもう言えよ」
「蛍琉ごめん! えっとな、高校の時、蛍琉、お前に曲作って渡してただろ? その時の曲を更にアレンジして作ろうと思うって言ってたから」
「え?」
「そのコンクール、すごい大きいやつだったんだろ? それに出す曲にするって、よっぽどあの曲はあいつにとって大事なものだったんだろうな」
明人の言葉に、思考が上手く追いつかない。思い返せば俺は確かに高校生の時、別れの当日、蛍琉からウォークマンに入った曲を貰った。あの時、俺がもらったのは、確か白いやつ。
だが俺は、それを、聴いていない。
「へぇ、そうだったのか。蒼馬、ちなみに貰ったのはどんな曲だったんだ?」
「あれ、めっちゃいい曲だったよな! こう静かーに始まったと思ったらぐわぁあって!」
「意味が分からんしなんで明人が知ってるんだよ」
「羨ましいだろ雄大。俺、その曲の制作現場に立ちあったんだ。な! 蒼馬、そんな感じだったよな?」
「……ない」
「え?」
「どうしよう、俺、聴いてない。貰って、どうしたんだっけ……」
「……はぁ? どうしたんだっけって……。お前、よりによってお前が聴いてないって」
「おいおい。落ち着け明人。蒼馬、なぁ、お前、あの日のこと、どこまで覚えてる?」
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