第三章:五話
何を間違えたのか、分からなかった。
そもそも脳へのダメージが大きく、夢治療では単に修復しきらなかっただけかもしれない。でも、何かを間違えているのだとしたら、それは俺の失敗であり、責任だ。
俺はなんとしてでも彼を目覚めさせたかった。もう一度、蛍琉と会って話がしたかった。
本来、一度最後まで治療をした結果、被験者が目覚めなかった場合、再び夢治療を開始するためには被験者家族と、研究室のトップである研究室長両者の同意と承認が必要になる。
何度も記憶に入って被験者の記憶を改変することで、どのような副作用が脳に生じるか分からないからだ。しかし動揺していた俺は、現実世界に戻った直後、失敗したと分かるとすぐに、また彼の記憶の中に入ろうとした。
頭にヘルメット型装置を被ったちょうどその時、机に置きっぱなしにしていた俺のスマホが鳴って、そこで俺は、我に返った。
一度、気持ちを落ち着けるために大きく深呼吸をする。まずは桜海先輩に報告。そして許されるならもう一度、蛍琉の家族と室長の同意をもらって、彼の記憶に入りたい。
どんな手を使ってでも彼をこちらの世界に連れ戻す。
そのためにも、俺は一旦冷静にならなければならない。
俺を繋ぎ止めてくれたスマホを手に取る。端末には一件のメッセージが来ていた。送り主は東明人。久しぶりにご飯でもどうかという内容だった。
*** ***
桜海先輩への報告を済ませ、翌日は一日休みを貰った。その間に先輩が家族から同意を取ってくるから休めと言われたのだ。蛍琉が目覚めなかったのは俺の責任であり、家族には俺自身の口から説明したいと伝えたが、まだそのあたりのことは俺には任せられないと、断られてしまった。
それに
「君には冷静になる時間が必要でしょう」
とも。
それでも渋る俺に桜海先輩はこう言った。
「今、君は気が昂っているから気づかないかも知れないけど、思っている以上に身体的にも精神的にも、疲労は溜まってるのものよ」
特に初めてファンタジアで実際に被験者の治療にあたる新人は、慣れていないせいで上手く途中で疲労を発散できないことが多いのだと言う。そしてその結果、治療が終わった途端に燃え尽きてしまう人も少なからずいるらしい。
「だから一日だけ休みなさい。その代わり一日で復帰しなさい。それが先輩命令」
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