第三章:四話

 先程春野さんから聞いた話も気がかりだが、今はまず、盗作事件を防ぐことが先決だ。蛍琉を説得できなかった以上、俺が直接ウォークマンの盗難を防ぐのが手っ取り早いだろう。橋田が盗むところに直接出向いて止める。そして盗みが起こる未来自体をこの世界から消す。


だが、一つを変えれば必ずその先にも変化が起こる。その変化が悪い方向に向かわないように側で見守り、蛍琉が眠りに落ちた日までを乗り切ろう。そこまで平穏を保てばきっと、現実世界で彼は目を覚ますはずだ。



 そうして行動した俺は無事、橋田の盗みを阻止することに成功した。彼が蛍琉のリュックからウォークマンを取り出し、自分の鞄へとしまっているところを押さえ、それを返すように迫った。


突然の俺の登場に驚き、絶句していた橋田は、しかし、しばらくすると大人しく俺に盗んだウォークマンを渡してきた。


そのあとはできるだけ蛍琉へ接触する回数を増やし、不都合なことが起こらないように立ち回った。盗みが失敗しているため、吉村が橋田に関することで蛍琉に接触することもなく、もちろんそのあとで起こるはずだった橋田と蛍琉との衝突も起こらない。そもそも自分の曲が盗まれようとしていた事実を蛍琉が知ることもなかった。


そうして無事、この記憶の世界最後の日を迎え、俺は自身の記憶と同じ行動をなぞって、その日を終えた。




現実世界で、ようやく彼に会えると思った。




――結論から言おう。蛍琉は目覚めなかった――



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る