第二章:九話

 夏川が初めて俺の作った曲を弾いた日に思いをはせる。その日、俺の中で何かがはじけた。


病院の小さな部屋に置かれた、一台の古いピアノ。調律が頻繁にされていないせいか、お世辞にもいい音を出しているとは言えなかった。それなのに、そこであいつが奏でた音楽は真っ直ぐに、すとんと俺の胸に入ってきた。それはなんだかあたたかくて、優しくて、どうしようもなく泣きたいような、そんな気持ちにさせられる音。


新鮮な感覚だった。


俺の曲を、こんな風に弾く人がいるのかと、興味を持った。


単純な興味、それが始まり。

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