後編

影吉かげきち……、影山梨花かげやまりんか……、|梨花……ちゃん」


 冷たい雨にうたれながら長い黒髪を顔へとたらし、光ケ丘林檎ひかりがおかりんご天象学園高等部てんしょうがくえんの土の校庭に歩みを進める。


 それはゆっくりゆっくりとした歩みだった。


 校庭は大粒の雨粒を王冠状にはじいている。


 光ケ丘林檎の心には駆け出したい気持ちがあった。


 しかしそれと同時にその光景に頭の処理が間に合っていなかった。


 影山梨花と思われる魔法使いの装束を身にまとい意識が無いにもかかわらずオンラインゲーム[ナイト&ウィザード]で彼女のキャラクター魔法使いの[影吉]が愛用していた[ヒイラギの杖]を手から離さずしっかりと持ち、光ケ丘林檎がゲーム内でプレゼントした真っ黒な中に星座が回る現実世界では不可能な生地で出来た三角頭の魔女帽子をかぶっているが、肩まである柔らかな栗色の髪は雨に濡れて見る影もない。


 影山梨花の周りには校庭の土がマグマのように赤く熔けていて雨の中でも白い煙をあげながら光る二つの円に囲まれたルーン文字と六芒星ろくぼうせいの魔方陣があり、光ケ丘林檎はその寸前で立ち止まった。


 影山梨花を大剣をたずさえた男、黒髪の騎士がそこに近寄る光ケ丘林檎を見つめたたずんでいたからだ。


「あの……」

光ケ丘林檎は黒髪の騎士に声をかけ、影山梨花に目を落とす。


「……セーラー服にコンクリート、レンガ造りの校舎、窓ガラスにアルミサッシ、土の真っ平らな校庭」

 黒髪の騎士は懐かしそうに嬉しそうに冷たい雨にうたれている。


「あっ、あの!!」

 光ケ丘林檎はもう一度声をかける。


「あんた[光林こうりん]だろ、影吉の騎士の……」

 黒髪の騎士はゆっくり魔方陣から出て来る。


「…………」

 光ケ丘林檎は混乱する。


「大丈夫、梨花は無事だ、こっちに戻るのに魔力を使い過ぎたんだ」

 そう言った男の胸で影山梨花が目を覚ます。


「かっ、梨花ちゃん?」

 光ケ丘林檎の心に安堵が沸き上がる。


「あ、光林……、林檎ちゃん……」

 影山梨花は黒髪の騎士の胸に、抱えられていることに少しだけ照れて、光ケ丘林檎に言葉を続ける。



「へへ、私、彼氏出来たみたい」



 そこからの数日、光ケ丘林檎は記憶が無い。



 友達が音沙汰おとさた無いと思ったら異世界救って帰って来たらしい。



 イケメン黒髪騎士と………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ナイト&ウィザード 山岡咲美 @sakumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ