読み聞かせ

 こんにちは。

 君が来るのを待ってたよ。


 ん? その本は何かって?

 あぁ。今日はね、久しぶりに読み聞かせをしようかなって思ってね。


 ほら、今週から図書委員の読み聞かせ会が始まったでしょ?


 君のクラスは四年二組だったよね。

 多分、君のクラスにも図書委員がやってきたと思うんだ。


 僕も一応、図書室の先生だからね。

 みんなのを見てやってみようかなって。


 絵本はね、適当にとったよ。

 どうせ長くても十分とかだと思うし、僕こう見えて読み聞かせには自信があるんだ。


 じゃあそこの椅子に座ってね。

 それでは、読み聞かせの始まり始まり〜。


『泣き虫なあちゃん』


『ある街に、なあちゃんという女の子がいました。なあちゃんはとても涙脆く、いつも綺麗なお目目は涙で溢れていました』 


 へぇ、もしかして悲しい事でもあったのかな。

 君はどう思う?


 分からない……? だよね。人の悲しみはその人にしか分からないからね。


『朝起きると涙がポロポロ。

大好きな朝ごはんを食べても涙がポロポロ。

学校に行っても、友達と遊んでも。なあちゃんは泣くことをやめません』


 そんなに泣いてたら、体が干からびてしまいそうだよね。

 水分とかちゃんと摂らないと。

 って、そんなこと関係ないよね。


 ごめんごめん。

 

『そんなある日。クラスのお友達のりんちゃんは、なあちゃんを元気付けようとしました。休み時間には一緒にお外に連れて、一緒にかくれんぼをしたり、給食ではりん廻ちゃんの大好きな焼きプリンタルトをなあちゃんにあげたり、一緒になあちゃんの好きなお歌を歌ったり、りん廻ちゃんができることは全てやりました』


 そうだ。

 この前ね、君がいじめられていることを君の担任の先生に伝えたんだ。


 そしたらね。先生、なんて言ったと思う?


 先生、「なんのことでしょうか?」って平気な顔をしてたんだ。

 僕、びっくりしちゃって。焦っちゃったんだ。

 まさか、いじめを否定するなんて思ってなかったんだ。


 その様子だとお母さんとかにも言えてないんだよね。

 なら、僕が直接君のご両親に伝えてみるよ。


 え? そんなことしなくていい……?


 でも、流石にクラスメイトの殆どの人が無視をするのは可笑しいよ。巫山戯てだとしてもおいたがすぎる。担任の先生がうまく取り合ってくれないのなら、僕が話すよ。


 うーん。……分かった。

 君がそこまで首を横に振るのなら、僕も君の気持ちを尊重するよ。

 おっと、話がずれてしまったね。 

 どこからだっけなぁ……。あ、次のページからだね。


『しかし、なあちゃんの瞳から涙が引っ込むことはありませんでした。それどころか、なあちゃんの泣き声は激しくなるばかりです。そして……』


 わぁ、この絵って、なあちゃんの目かな。こんなにドアップで書かれているんだね。

 ふふ、小学生の君が見るのには少し抵抗を感じてしまうくらいリアルに描かれているなぁ。


『なあちゃんの涙は溢れんばかりに溢れ、床に垂れ落ち、水浸しになってしまいます。なあちゃんの洋服もフリフリのスカートもびしょ濡れになってしまいました。そして、なあちゃんの涙は、自分のお家、学校、大好きな公園に隣町へと広がりました。やがて、涙は世界を覆い尽くすほどの量となり、地球は水の国と変わりましたとさ』


 これでおしまい。

 な、何だか、不思議な絵本だったね。いや、少し変だったかも。


 君もそう思う? だよね。なんか、最初から最後まで不思議な気持ちで読んでいたな。


 どうしたの……? 何か気になる事でもあった?

 なあちゃんのお目目の所をもう一回見せて欲しい…?

 

 いいよ。この絵が気になるのかい?

 え? 瞳の所が膨らんでいる…?


 あ。確かに、なんか膨らんでるね。一体、なんだろう。うーん。中身を切るのは勿体無いなぁ。でも、もし虫だったら嫌だなぁ。


 この本、出版社どこだろう。

 後でまた買い直そうかな。

 ちょっとカッターあるから、切ってみるね。



 え、待って。これ……。


 お札……? なんか黒ずんでいる。

 しかも、他に紙切れが二枚も入ってる。


 怖い? 僕のそばにいて。ぎゅって目を瞑ってていよ。大丈夫、君のことは守るから。


 どれどれ。


『悲しいよ。悲しいよ。だれも気づいてくれない。苦しい苦しいよ。だれでもいいから誰か気づいてよ』


 悲しい……? 苦しい……?

 これは一体……。

 じゃあ、もう一枚は……?



『みいつけた』



 うわ!?


 び、びっくりした……!!

 さっき男の子がそこに居て……。


 ごめんね。君を怖がらせてしまった。

 大丈夫、こんなものは作り物だから。きっと、作者のちょっとした悪戯さ。


 これは処分しておこう。

 君はもう帰りなさい。

 大丈夫、後のことは僕に任せてね。


 また明日もお話ししてあげるね。




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