62話 決闘を応援します -7-
国王の一声により、ラドゥス王子の勝利が決まった。
(ラドゥス様が勝った! 勝ったのだわ!!)
私が心の中で、ラドゥス王子の勝利を大いに喜んでいた直後だった。
「お申ししたいことがございます、国王陛下!!」
そのとき、サトゥール王子が国王に対して発言の許可を申し出る。
「なんだ、申してみよ」
国王はサトゥール王子に、続きを促す。
「この決闘に敗退すればと、前もって考えていたことがございました。俺、いえっっ、わたくしサトゥールから王位継承権を剥奪くださいませ!」
(王位継承権を剥奪してほしい? まって!? これは、こじれにこじれて特典小説ルートの一部内容に入ってるじゃない!?)
攻略対象者4人目の隠れ攻略対象キャラクターは、他でもないサトゥール王子だ。
とある理由により、実質王位継承権がないに等しいサトゥール王子は、ヒロインからの愛によって王位への執着を諦める。
そして、国王陛下に王位継承権の剥奪を願うのだ。
その理由とは──。
「ここにいる皆は、ご存知なのでしょう? わたくしサトゥールは、シェイメェイ王国王家の血筋を継いでおりません!」
そう、サトゥール王子は、本国王家の血筋を継いでいないのだ。
第2王太子妃は、他国の公女だ。
他国王太子の元婚約者で、婚姻直前で急遽破談となる。
その際に婚前交渉をした子を身ごもったまま、本国の王太子に嫁ぐ。
亡くなったカドゥール第2王子と、その双子の弟のサトゥール第3王子は、本国ではなく他国の王家の血筋を継いでいるのだ──。
(まさか、こんな形で特典小説ルートに関わってくるなんて!? たしか、このあとの展開は!)
「ならぬ、ならぬぞ。サトゥール、おまえはこの国の王子だ。よいな?」
「……はい、かしこまりました。それでは学園卒業を機に、臣籍降下をお許しいただけませんでしょうか?」
「……おまえの意思が固いのなら、余も許すしかあるまい。だが、学園卒業までまだ時間はある。よく考えるといい」
「誠にありがとうございます、陛下」
サトゥール王子は国王に礼を尽くし、着崩れを整えて颯爽とこの場を去ろうとする。
それをラドゥス王子が呼び止める。
「お待ちください、サトゥール兄上! そこまで兄上が思い詰めていらっしゃったとは……。僕が決闘を申し出たばかりに」
「気にするな、これも天の思し召しなのだろう。俺の方こそ、いろいろ悪かったな。ダリアン兄上にも、ラドゥスの方からよろしく伝えておいてくれ」
それだけ言って、サトゥール王子は今度こそ闘技場から離れていった。
*****
「サトゥール様……」
私は闘技場から去っていったサトゥール王子に思いを馳せる。
すると、隣に聖ワドルディがやってきた。
「お前は応援していた王子の兄の方まで心配をするのだな」
「ですが、聖ワドルディ様。これでは、あまりにも……」
聖ワドルディは私の肩に手を触れ、"魔法使い"と私特有の意思疎通で語りかけてくる。
『我の魔力を分け与えただろう? もっとお前の自由に使用すればいいのだ。』
『そうは言いますが、魔力は貴重です。下手な物事には使用できません』
『ははっ、言うなぁ。むすっっめ…………』
『聖ワドルディ様……!!』
急に体調を崩したかのようで、いつの間にか顔色が真っ青になった聖ワドルディが私にもたれかかってくる。
『すまんな……。近頃は魔力が減少しているせいで、体が鉛のように重くてな……』
『そんなご体調で、私に魔力を分け与えたのですか!? いったい、なぜ!?』
『言っただろう? お前はお前の生きたいように生きればよいと。それが、我の幸せなのだと』
『聖ワドルディ様……。本当に、私の幸せを願って……』
聖ワドルディは辛そうにしながらも、私の方に顔を向けて微笑む。
だが、すぐにその顔を歪めてしまう。
『すまぬ……。あとのことはまかせた、娘よ……』
それだけを意思疎通で話すと、私にもたれかかっていた聖ワドルディは瞬く間に姿を消した。
「聖ワドルディ様──!!」
(まさか原作通りに、聖ワドルディ様が衰弱していくなんて!?
国家問題にも関わってくることだが、国王は既に闘技場から退出してしまった。
それに私は、あくまで介添人の補佐役としてこの場にいるだけなので、またの機会に
「どうした、リーゼリット?」
「いえ、ラドゥス様。ちょっと考え事をしていただけですわ」
「そうなのか? えらく思い詰めていた顔をしていたが……」
やはり私は、顔に出やすいようだ。
首を振って、一転して笑顔を浮かべる。
「それよりも、ラドゥス様。この度は決闘の勝利、誠におめでとうございます」
「ああ、ありがとう。ただ、純粋な強さで勝てたらよかったのだがな。……勝ちにこだわりすぎたのかもしれない」
「何をおっしゃいますか。サトゥール様は、普通に戦っては勝てなかったお相手です。多少の戦法は必要でしょう」
純粋な強さでいえば、サトゥール王子が圧倒的に強者なのだ。
いかに勝つかを考えたら、工夫を凝らすしかなかった。
「それで……リーゼリットよ」
「はい、なんでしょうか?」
「今、この場にはもう誰もいない。以前言っていた、抱擁を交わしてもいいだろうか?」
(ほっ、抱擁? そう言えば、そんな約束をしたわね。本当に、抱きしめあってしまって大丈夫なのかしら?)
ラドゥス王子の言葉に反応して周りを見渡してみると、いつの間にかすでに誰もいなくなっていた。
とはいえ、いざ抱擁するとなると緊張するので気合いがいる。
「誰もいないとはいえ、王宮の一画ですよ。もし、誰かに見られでもしましたら……」
「だが、もう待てない」
そう言うと、ラドゥス王子は私をそっと抱きしめてきた。
(ラッ、ラドゥス様と私ってば、本当に抱きしめあってしまっているわ!?)
はじめこそラドゥス王子から離れようとしていたが、その肩が震えていることに気づき、私はそっと抱きしめ返す。
「リーゼリット、ようやく
「ラドゥス様……」
本来のただただ勝利を喜ぶ抱擁とはまた違っていたが、私とラドゥス王子は静かに抱きしめあっていた。
「僕はとにかく勝てばいいのだと思っていた。勝てば、兄上同士の私闘を止められると。だが、それは間違っていた。サトゥール兄上の居場所をなくす行為を、僕はしてしまった」
「そんなことはありませんわ。あのままでは、私闘はさらに悪化していたでしょう。それに居場所をなくしてしまったのなら、つくればよいではありませんか?」
私はラドゥス王子の肩の震えが落ち着くまで、抱きしめて返していた。
「居場所をつくる……? どうやってだ?」
「私はその居場所に心当たりがございますわ。ラドゥス様、手伝ってはくださいませんでしょうか?」
私は抱きしめる手がゆるんだラドゥス王子から、ゆっくりと体を離す。
ラドゥス王子は名残惜しそうな顔をしていたが、それ以上抱きしめてはこなかった。
「わかった。それで、僕は何をすればいいのだ?」
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