63話 決闘を応援します -8-
私はノーマン侯爵邸に帰宅し、食事と入浴をしっかり済ませたあと、私室のベッドでまた悶えはじめる。
ダリアン王子とサトゥール王子の私闘問題については、今回の決闘で決着がついた。
ラドゥス王子は勝ちにこだわりすぎたと思っているが、勝たなければサトゥール王子は王位に諦めがつかなかったかもしれない。
サトゥール王子も国王に臣籍降下を申し出た以上は、ダリアン王子との権力争いは断念するだろう。
ラドゥス王子の不幸な事故は、これで回避されたのだ。
そして私は、ラドゥス王子からも告白をされてしまった。
はっきり『好きだ』と言われてしまったのだ。
それに抱擁までされてしまっては、私もラドゥス王子の気持ちを無視することはできない。
まさかの推し3人全員に、愛されることになろうとは思いもしなかった。
自分のために推しを救済したことが、恋愛に発展するとは考えてもいなかった。
私はただ無我夢中なだけだったのだ──。
やったわ!
3人目の原作改変にも成功したわよ!
これで、推し3人の全ルート改変ができたわ!
私は推したちの幸福ルートを無事に実現できたのよ~~~!!
でも想定外のことがあって、ラドゥス様からも告白されてしまうなんて!?
抱擁の約束まで交わしてしまったのは誤算ね。
今でも、抱きしめあったときの感触が忘れられないわ。
こう優しくて、触れても大丈夫か確かめる感じで。
『ようやく触れることができた』
きゃああぁぁぁぁぁああ~~!!
今回も私はただ見守っているだけで、何もお手伝いできなかったのに。
むしろ、特訓に勝手に参加して邪魔していただけかもしれないのに。
私は推しをこよなく愛するだけの、ただの侯爵令嬢なのに~~~!!
だが、まだまだ課題がある。
サトゥール王子の孤独の件と、聖ワドルディの衰弱の件だ。
サトゥール王子の件は、学園の新学期がはじまり次第作戦を実行予定で、ラドゥス王子と計画を立てている。
問題は聖ワドルディの件だ。
自分一人では解決できないうえに、見立てによっては国王の手を借りる必要がある。
だが私がもし謁見できたとして、許可を得られるとは限らない。
推し3人の原作改変成功は喜ばしいことだが、悩みは尽きないものだ。
それでも、次の目標に向けて進んでいくしかない。
私は頭の中がごっちゃごちゃのまま、明日以降のためにも就寝することにした。
*****
──新学期初日。
結局悩みが解決しないまま、三学期がはじまってしまった。
侍女のジェリーに無理やり起こされる事態は避けられているが、そろそろ安眠療法を試した方がいいのかもしれない。
私は眠気が覚めきらないまま、ターナルのエスコートでクラス教室に入った。
「おはよう、リーゼリット……嬢? 顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「おはようございます、シュジュア様。私は問題ありませんわ」
「私も心配しているのですが、問題ないの一点張りなのです」
「ターナル様もエスコートいただきありがとうございます。私は本当に大丈夫ですのよ」
実際は授業中に突っ伏して寝てしまいたいくらいだが、痩せ我慢も必要だ。
「大丈夫なわけがあるか。教師には伝えておくから、保健室で仮眠しておけ」
「ラドゥス様、おはようございます。そんな……私は問題ありませんのに」
「おはようございます、リーゼリット様。わたしがご一緒しますので、保健室に参りましょう?」
「ユリカさん? ああ! 今学期は同じクラスになれたのね、嬉しいわ」
ユリカと同じクラスになれた喜びを分かち合おうと思ったら、ターナルにエスコートされたそのままに、推したちに保健室に連れていかれてしまった。
そして、ユリカの魔法のこもった歌を聴かされて、私は保健室のベッドでぐっすり眠ることになった。
目が覚めてすぐの私は、保健室に連れていかれたことを忘れて、知らないベッドで眠っていたことに一瞬パニックになった。
時計を見るといつの間にかお昼前で、思いがけずに眠り込んでしまった自分に驚く。
だがそのおかげで、だいぶ頭がスッキリして体も動きやすくなった。
そのとき、仕切りのカーテン越しに声がかけられる。
「リーゼリット、ようやく目が覚めたのか。それほどまでに眠れないほど、何かあったのか?」
「ラドゥス様!? お気遣い感謝いたします。少し考え事をしていたら熟睡できず、こんなにも眠ってしまいました」
「そうなのか……。リーゼリット、新学期が始まったら行動に移したいと言っていただろう。準備はできているのか?」
ラドゥス王子のその言葉で、私はサトゥール王子の居場所をつくる計画を思い出した。
こんなところで寝ている場合ではないと、急いで体を起こす。
「申し訳ありません、寝ているどころではありませんでした! 今、そちらに向かいますね」
「いや。準備ができていないのなら、今日はもう休んでおけと言おうと思っていたところだ。体の方は大丈夫か?」
「はい! おかげさまで良くなりました。痛み入りますわ」
「そうか。無理はするな」
ラドゥス王子の気遣いに感謝しながら、私はカーテンで仕切られている部屋を出る。
「~~!? リーゼリット、服装を確認してから開けたまえ!」
ラドゥス王子にもう一度部屋に押し込まれて、カーテンを閉められる。
制服をよく見ると、シャツの上のボタンが開いたままだった。
寝苦しくて、無意識のうちに開けてしまっていたのだろう。
「本当に申し訳ありません~~~!!」
私はラドゥス王子に謝って、慌てて制服を正すのだった。
──今日の放課後。
私はとある合流予定場所にて、ラドゥス王子を待っていた。
その場所とは、私が前世の記憶を思い出すきっかけとなったダリアン王子の隠れ休憩場所だ。
「ラドゥスよ。学園内で、私とサトゥールまで呼んでどうしたのだ」
「ラドゥス! なぜ俺と合わせて、ダリアン兄上を呼んだんだ。もういい、帰るぞ」
「サトゥール兄上、お待ちください! 今から大事な用事があるのです」
ラドゥス王子は私との約束通り、ダリアン王子とサトゥール王子を連れて合流予定場所まで来てくれた。
ダリアン王子は、学園内で弟王子に呼ばれたことを純粋に疑問に思っているようだ。
サトゥール王子は、ダリアン王子と合流したことに苦い思いがあるのか、すぐさま帰ろうとする。
「リーゼリットではないか? 貴殿がここにいるのはどういうことだ」
「リーゼリット? あの決闘を観戦していた令嬢か」
「ダリアン様、サトゥール様、お待ちしておりました。今はとある方をお呼びしている最中です」
(その前に、大事なことを忘れていたわ──)
私は聖ワドルディから分け与えてもらった魔力で、目くらましと防音の魔法を周囲にかけていく。
バレないように魔法をかけたつもりだったが、不慣れのせいか3人の王子は気づいてしまったようだ。
「リーゼリット、貴殿はユリカ同様に魔法が使えるのか!? そのうえ、高度な魔法を!」
「令嬢は"魔法使い"なのか!? それも、難易度の高い魔法をいとも
ダリアン王子からも、サトゥール王子からも、質問が絶えなくなってしまった。
(「……リーゼリット!! 兄上たちに誤魔化しが効かなくなったではないか! どうしてくれよう!?」)
(「申し訳ございません!! これでも注意して、魔法を使ったつもりだったのです!」)
私は自分のポンコツさを悔いているところだった。
「リーゼリット様? ですよね。ここに呼ばれたので来たのですが、なにやらお邪魔でしたか?」
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