61話 決闘を応援します -6- ~ラドゥス視点有~
シェイメェイ王国第4王子のラドゥスは、ノーマン侯爵令嬢のリーゼリットを心から好いていることを自覚してしまった。
当初は長兄ダリアン王子のくっつき虫であるイメージしかなく、はた迷惑な印象しか持ち合わせていなかった。
学業に努めはじめたと噂になっても、悪評の多いリーゼリットがまた何かやらかそうとしているのではと信じて疑わなかった。
だが、同じクラスとなって過ごしているうちに、以前のリーゼリットとは違うと感じるようになった。
美術室で伝記漫画を合作して描いているときには、すでに彼女に嫌な雰囲気は感じないようになっていた。
──それからのラドゥスは、リーゼリットに関わっていくうちに少しずつ好印象を感じるようになっていった。
ゲネヴィア第1王太子妃の快復の件は叱りこそすれ、心境的には感謝ばかりだった。
リーゼリットの能力が判明して、彼女の監視をすることになった際も、なんだかんだ説教をしつつも嫌われたくはない思いが生じるようになっていた。
──それもあってか、建国記念祭ではダンスに誘ってしまっていた。
"天啓"の話を聞いたときは非常に驚いたものの、リーゼリットならそれもありうるかと納得してしまっている自分がいた。
そして、彼女の隠せていない喜怒哀楽を見ているうちに、自然と心が和んでラドゥス自身もびっくりするくらいに笑ってしまっていた。
こうしてリーゼリットと過ごしているうちに、彼女に心を許していくことになっていったのであろう。
──そんな中で、兄のサトゥール王子との決闘が決まってしまった。
リーゼリットに決闘の話を告げるのは、とても勇気がいった。
だが幼馴染のシュジュアや他の相手ではなく、なぜか真っ先に彼女に話したかったのだ。
彼女は大層驚きながらも、ラドゥスの言い分を否定しなかったのには何よりも安堵した。
──とはいえ、あろうことかリーゼリットが一緒に鍛練に参加しようとするとは思いもしなかった。
以前からサトゥール王子との件に関しては、これでもかというほどに忠言してきていたが、まさかそれがラドゥスを助けたいがための言葉だとは思いもしなかった。
それだけリーゼリットが、自分のことを気遣ってくれているとは考えが及んでもいなかった。
そのときに、漠然だった気持ちがはっきりとしていき、リーゼリットを好いてしまっていたことに気がついた──。
リーゼリットが、ラドゥスのために汗水垂らして行動してくれている。
彼女自身に身体強化の魔法までかけて、特訓に一緒に挑んでくれている。
今までからもリーゼリットのことをひそかに思ってはいたが、こんなにも溢れる感情を抑えきれなくなるとは意外だった。
だからこそ、リーゼリットのために決闘に勝利して安心させたい。
その勝利を分かち合って、彼女と心から抱きしめ合ってみたい。
これを恋と呼ばずして、なんと呼ぶのだろうか。
ラドゥスは決闘前夜に、リーゼリットに対して強い恋情を噛みしめつつ、思いを募らせるのだった──。
*****
──いよいよ、決闘の日当日。
場所は、王宮の闘技場の一部を貸切としておこなわれることになった。
立場的には、サトゥール王子が加害者側で、ラドゥス王子が被害者側となった。
決闘の主な理由は、『ダリアン王子への中傷の阻止』と『私闘による権力争いの防止』だ。
立会人は王族と一部の高官。
本来介添人は親しい間柄が務めることとなるが、正式な王族同士の決闘であるために、このような人選となったのだろう。
そして、証人は国王陛下である。
「それで、この神聖なる決闘になぜ私が呼ばれているのでしょうか?」
「我は昨今の事情に疎いからな。今代の王に、補佐役としてお前を指名したら許可された」
「陛下が許可なさったのですか!?」
私──リーゼリットは、この限られた人間しかいない場所になぜか呼ばれていた。
その発端が、聖ワドルディであったとは思いもしていなかった。
国王が私を介添人の補佐役として許可したことに驚愕する。
国王はいったい、私のことをどのくらい知っているのだろうか?
聖ワドルディが、どこまで私の情報を渡しているのかも気になってくる。
いろいろと疑問が生じながらも、もうすぐ決闘がはじまる。
いくら介添人の補佐役として選ばれたとはいえ、私はほとんど見守っていることしかできない。
一緒に鍛錬することしかできなかった自分に無力さを感じながら、願いを込めてラドゥス王子を見つめる。
ラドゥス王子が私の目線に気づいて、わずかに微笑む。
思わずドキッとしてしまうが、少しでもラドゥス王子の緊張が和らいでくれていることを望む。
対してサトゥール王子は、この試合にかなり複雑な感情を抱いているのか機嫌はよくなさそうだ。
決闘自体も内容が内容でなければ、断っていたであろう雰囲気が窺える。
だが、いざ佇まいを整えるとその雰囲気がガラッと変わる。
弟王子相手とはいえ、負ける気は一切ないという気概がこちらにも伝わってくる。
サトゥール王子とラドゥス王子の2人が、闘技場の一画に入場する。
緊迫した空気が闘技場内を包んでいる。
「試合開始──!!」
国王の声により、決闘がはじまった。
サトゥール王子とラドゥス王子の長剣がぶつかり合う音が響く。
2人とも
やはり、サトゥール王子の方が強いのか、ラドゥス王子は防戦一方を強いられている。
ラドゥス王子もこの一ヶ月で鍛えた剣術で挑もうとするが、巧みに剣を操るサトゥール王子には届かない。
まともに戦ってしまえば、剣技に長けたサトゥール王子が勝ってしまうのが目に見えていた。
ダリアン王子から教わったサトゥール王子対策の戦法で、ラドゥス王子はなんとか致命的な剣撃を押しのけてはいるが、サトゥール王子に付け入る隙はない。
ターナルから学んだ苛烈な剣術も、サトゥール王子の熟練した剣さばきにはなかなか通用しない。
このまま決闘は、サトゥール王子の勝利で決まってしまうかのように思えた──。
それまでの間、防戦に徹していたラドゥス王子が、サトゥール王子と競り合いになる。
そこでラドゥス王子は、接近時にシュジュアの体術を応用した、剣を用いながらの組技を使いはじめた。
これにはサトゥール王子もさすがに予想していなかったのか、ほんの一瞬の隙が生まれる。
ラドゥス王子はその隙を見逃さずに、競り合いのまま思いきり足払いをかけてサトゥール王子を押し倒した。
そして、ラドゥス王子が手に持った長剣をサトゥール王子の首の皮寸前まで振るう。
「そこまで──!!」
国王の声が、会場に響き渡った。
「この勝負、第4王子ラドゥスの勝利──!!」
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