47話 悪役に誘拐されました -4-

「ということは、あいつはまだ見つかってないということかよ!?」

「どうします!? ぼくたちだけで、進んでしまっていいんですかね!?」


 騎士団が入ってきたような痕跡はあるが、隠し扉が発見されているような証はない。

 私たちだけで、ロイズ公爵と相対するのにはリスクがある。


「行きましょう。念の為、隠し扉は開けたままで。証拠を完全に隠滅される前に」

「リーゼリット殿!? たしかに証拠の隠滅はあってはならないですが、私やあなたたちだけで行くのは……」

「……いいぜ、行こう。どうせ今までから、ろくな扱い受けたためしがないんだ。今度も一緒さ」

「……それもそうですね。あの人に行方をくらませられる方が納得いきません。行きましょう」


 ターナルは私の意見に躊躇したが、ノラとカイからは賛成される。


「……わかりました。リーゼリット殿が行くつもりなのなら、私も行きましょう」


 ほんの少しの間を空けて、ターナルも承諾してくれた。


 ノラとカイが隠し扉の開け方を私とターナルに伝授し、4人で力を合わせて扉を開ける。

 扉は機械的に稼動し、新たな道が表れる。


「リーゼリット殿は一番後ろに。ノラ殿とカイ殿は真ん中で。私が一番先に行きます。」


 表れた道が狭いので、ターナルが行く順番について指示を出す。

 私達3人はその指示通りに並んで、4人で少しずつ道を歩いていく。


「これは──」


 ターナルの声が聞こえたと同時に、道は開けて大広間へと出る。



 その大広間の中心には、ロイズ公爵家の"ホープ"が大大と飾られていた。


「こちらの"ホープ"が光っているということは──」

「既に"ホープ"に血を垂らして、願いを叶えてもらっている最中ということになりますわ」

「その通りだよ。私は願った!『もっと富を! もっと至福を!!』とね」


 ターナルの疑問に私が答える。

 するといつの間にやら、私達の前にロイズ公爵が現れた。


「よくここまで来たね、諸君。愚か者めが何人集まっても同じだが、騎士団共の節穴に比べたらまだいいのかな?」


 ロイズ公爵の声に、ノラとカイが震えはじめたので私は2人と手を繋ぐ。


『大丈夫よ。大丈夫。私がいるわ』


 2人に向けて、心の声で安心させる。


「おや? 魔法を使うつもりかね? 無理だよ、その二人の奴隷は私がしつけているからね。私に向けて、魔法など使えないんだよ」

「どこまでも、卑怯なことを!」


 私はロイズ公爵を思い切り睨みつける。


「なんとでも言いたまえ、ノーマン侯爵令嬢。それで君に相談があるのだが、こちらに来ないか?」

「誰が行くものですか」

「君が来ないと、他の人間が危ないよ。私は私の邪魔をする者に容赦はないのでね。王族だろうが、私の敵ではないさ」


 私はその言葉により、何を意味するかを察する。


「やっぱり貴方が、カドゥール第2王子を殺害した犯人……」

「"スモール"を渡したのが私だが、実際に手をくだしたのは私ではないよ。そこの奴隷"魔法使い"の魔法で、勝手に溺れてしまった・・・・・・・・・・だけさ」

「えっ!? もしかしてぼくの魔法で人が死んだ──」


 カイが硬直し、あきらかに絶望した顔をしている。


「そっちの奴隷だけではないよ。どちらの奴隷"魔法使い"も、知らぬ間に人を殺した・・・・・・・・・ことがあるのだよ」


 今度はノラまで震えて、絶望した表情を浮かべている。


『ノラ、カイ君、落ち着いて。ロイズ公爵の口車に乗せられちゃ駄目』


「まぁ、その子たちを守りたいなら、こちらへ来ることだ。ノーマン侯爵令嬢、悩んでいる暇はないと思うがね」


 その言葉を聞き、私は"魔法使い"の2人と手を繋いだままに、一歩ロイズ公爵の方へ歩きだす。


「リーゼリット殿! 行ってはなりません!!」


 そんな私を、ターナルは止めようとする。


「ええ! ロイズ公爵のもとへ行く気など、もとよりありませんわ! やるわよ、ノラ!! カイ君!!」


 私のその言葉に反応して、決心した表情のノラとカイがロイズ公爵の方を向く。



 ──それと同時に、ロイズ公爵の顔の隣で爆発が起こる。


「なっ、なんだ!?」


 爆発が終わったと思えば、今度はロイズ公爵の顔に水が思い切りかかる。


「なんだ、これはぁぁああ~~!?」


 ロイズ公爵の顔に水がかかり終わったと思えば、顔の横で爆発が起こり、爆発が終わったと思えば、また顔にすごい勢いの水がかかる。

 まるで、新手のドッキリのようだ。


「きっ、貴様らぁぁあああ~~~!!」


 さすがにロイズ公爵は、私の制御付きのノラとカイの魔法だと気付いたようだ。


「ゆっ、許さんぞ! もう貴様らの死など、知ったことか!!」


 そして、ロイズ公爵は以前まで見かけていたものより、少し大きめの丸玉を取り出す。


「これは"スモール"の中でも、特別製だ! 使えば、貴様らはひとたまりもないだろうな!!」


(まさか、ロイズ公爵の必殺兵器"スモール"って、あの丸玉のことだったの!? "スモール"という情報だけじゃ、全然結びつかなかったわよ!)


「それでは、これで一旦退かせてもらおう。行くぞ、サロメ。君たちは残念だが、ここでくたばりたまえ」


 その言葉と共に、1人の女性が現れる。

 その女性が現れてすぐに、ロイズ公爵は私達の方向に取り出した"スモール"を投げつけてくる。


 投げつけて来た"スモール"は光を放ち、魔法を発動しようとする──。


(嘘っっ!? これで私達は死んでしまうの? 駄目、駄目よっ! まだ、全部終わってない! この子たちやターナル様を巻き込んでまで死ぬなんて、何がなんでも私自身が許さないわ!!)


 だがそんなことを思っている間にも、"スモール"は瞬く間に光を輝かせている。


(ああもうっっ! こうなったら──!!)


 私はノラとカイの手を離し、できる限りの全力で走ってその"スモール"をつかもうとする。


「リーゼリット殿! 近づいてはなりません!!」

「ははっっ! とうとう気を違えた行動に出たか、ノーマン侯爵令嬢!」


 ターナルとロイズ公爵が何やら言っているが、今はそれどころではない。


(お願い! 間に合って──!!)


 私はスモールを何とかしてつかみ取り、全力で願う。


『止まれ! 止まれ! 止まれ~~~~~!!』


 その途端、発動の片鱗を見せていた"スモール"の光が少しずつ収束していく。

 やがて光は完全に収まり、"スモール"はただの丸玉となった。


「なにが起こった! 一度発動しようとしていた"スモール"が、魔法を発動しなかっただと! ありえない、ありえないぞ!!」


 ロイズ公爵がわめいて、先程起こった出来事を否定しようとしている。



「そのありえないことをやってのけるのが、"聖なる乙女"だ。なぁ、ろくでもないことを"ホープ"に願ってくれた愚かな男よ」


 その声を聞いた瞬間、私の頭上から人が降りてくる。


「──!? 貴様は誰だっっ!」


 ロイズ公爵は、突然現れた人物に至極当然の質問をする。


「肖像画で見たことはないのか? 愚かな男、お前は我の顔すら知らんのか?」


 私はその声に聞き覚えがある。

 私はその顔に見覚えがある。


「貴様はっ、いえ! 貴方様は──!!」


 ロイズ公爵は、先程までの見下した言葉を言い改める。


「聖ワドルディ様──!!」

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