46話 悪役に誘拐されました -3-
地下牢の入口から入ってきたのは、ターナルだった──。
「ターナル様!? いったいどうしてここに……」
私は意外な人物の到来に驚いてしまう。
「……知っている奴なのか?」
「私の知り合いで、ノラやカイと同い年の人よ」
「リーゼリットさんのお知り合いなんですね」
ノラとカイは先程まで怯えを見せていたが、それが収まっていく。
「──リーゼリット殿! ご無事で何よりです」
ターナルは地下牢の檻の前まで来る。
私は地下牢の中から、足の鎖ののびる限り檻の前まで歩く。
「ターナル様! どうやって、こんなところまでいらっしゃったんですか?」
「シュジュア殿からのリーゼリット殿誘拐の情報と、ラドゥス殿下の国王への進言により、ロイズ公爵家の大規模な家宅捜索が行われているのです。本来の捜索は騎士団のみではありますが、叔父の許可により私が参りました」
ガラティア侯爵の弟であり、ターナルの叔父は王国騎士団の団長だ。
騎士団団長の許可により、ターナルも私兵として認められたということだろう。
「ロイズ公爵の屋敷については、今までからひそかに調べられていたそうです。その調査によって地下牢があるのが判明し、私が情報を
「そうだったのですか。ご捜索ありがとうございますわ。ところで──」
私は地下牢の檻の扉を指で示す。
「こちらの檻の扉の鍵は、ございますか?」
「…………リーゼリット殿の無事を確認したいばかりに失念していました」
どうやら、鍵はないようだ。
しかし、脱出するなら上が慌てふためいている今のうちだろう。
「ノラ。貴女の爆発魔法で、檻の扉は吹っ飛ばせるのかしら?」
「あたしの爆発魔法は安定性がない。あんたやカイも巻き込んじまうぞ」
「吹き飛ばせるのなら問題ないわ。ターナル様、できる限り檻の扉から離れてください。ノラ、私と手を繋いでちょうだい?」
ターナルは言われた通り、檻の扉から離れる。
ノラは頭に疑問符を浮かべた顔をしながら、私と手を繋いでくれる。
「──!!」
『びっくりしないで、大丈夫よ。私と意識を繋いだだけだから』
「なんだこれは! おい、リーゼリット! どういうことだ!」
「どうしたの、ノラ!? リーゼリットさん、ノラは手を繋いだ途端になんで驚いているのですか?」
ノラが大声を出したせいで、カイまでびっくりしている。
「カイ君、返事はちょっと待っててね『ノラ、檻の扉に集中してちょうだい』」
初めは意思疎通に驚いていたノラだが、徐々に落ち着いていく。
『できる限り、小さな爆発にするわよ。檻と扉が繋がっている蝶番の部分に集中するの』
ノラは私の心の声に頷いていく。
『いくわよ……そう!!』
その瞬間、檻の扉に小さな爆発が起こる。
それと同時に、檻の扉がバタンと落ちる。
「成功したわ!」
「こんな精密にできたのか、あたしの魔法……」
「すごいよ、ノラ! リーゼリットさん、いったいどうやったの!?」
カイにどうやったのかを聞かれたので、私は自身の能力について話す。
「私の能力は、"魔法使い"と意思疎通や感覚を共有することで、魔法の威力と精度を上げることができるわ」
「「そんなことができるのか!?(できるんですね!?)」」
ノラとカイが目を輝かせているが、そこまで大層な能力ではないはずだ。
「檻の扉も開いたことだし、手枷と足枷も同様に爆発させて脱出するわよ」
「わっ、わかった。やってみるさ」
ノラとカイの手枷と私の足枷も、できる限り小さい爆発を起こして鎖を壊す。
枷は付いたままになってしまったが、流石に肌に付着している部分の爆発は難しい。
「脱出の準備はできましたわ。ターナル様、案内してくださいまし」
「わかりました。ひとまず、退出路を確保しておりますのでそちらへ案内します」
私達は、ターナルの案内に従って地下牢を出る。
だが、そこで待っていたのは、悲惨な光景であった──。
「敵も味方もボロボロじゃない! あの小さな丸玉を使ったってこと!?」
屋敷は既にぐちゃぐちゃになっていて、敵となる屋敷の者も、味方となる騎士団も吹っ飛んでしまっていた。
「あたしの力をこんなことに使いやがって!」
ノラは魔法を勝手に使われたことに激怒している。
「……ターナル様。やっぱり私、ロイズ公爵に一言申し上げないと気が済みませんわ。ノラとカイを頼みます」
「──!? いや、あたしも行く! あいつは怖いが、こんなまま救出されても嬉しくない!」
「──!? ぼくも一緒に行きます! 怖いのは本当ですが、自分自身で決着をつけたいんです」
私はノラとカイを先に保護してもらおうとしたが、2人に反対をされる。
私達3人の申し出にターナルは戸惑っていたものの、渋々了承してくれる。
「……わかりました。私の力で3人もお護りするのは難しいですが、ロイズ公爵のところへ参りましょう」
急遽行き先を変更し、ロイズ公爵のところへ向かう。
ロイズ公爵の居場所の可能性については、ノラとカイの案内によりほとんど判明していた。
「あいつはいつもあの隠し扉の中に隠れているから、たぶんそこにいるはずだ!」
「ぼくも同じ意見です! 隠し扉の中で、今頃証拠を隠滅しようとしているところでしょう!」
「証拠を隠滅!? なら、尚更早く対処をしないと!」
途中で屋敷の者が邪魔をしてきたりしたが、ターナルがそれを防いでくれる。
それでいて、相手が小さな丸玉を発動しようとしたときは、私とカイが手を繋いで流水魔法で対処していた。
「最初はぼくも驚いてしまいましたが、本当にすごいですね! 見事に相手の頭の上だけに、バケツをひっくり返したような水を浴びせるなんて!」
「カイ君のお陰よ! 私一人じゃ、何もできないに等しいもの」
そのまま相手が戦闘不能になっていくのを確認したと同時に、私達は隠し扉へと着実に進み出していた。
「それにしても、広いお屋敷だからキリがないわね!」
公爵邸ということもあって屋敷は広く、地下牢のあった場所から隠し扉へは距離があった。
「こんなときに、サロメがいればなぁ……」
「サロメさんは、ぼく達なんかに魔法は使ってくれませんよ」
ここで、初めて聞く名前が出てきた。
「サロメさんって、誰なのかしら?」
「転移魔法の使い手。あいつのお気に入り」
「あの人のお抱え"魔法使い"で、人を転移できる魔法の持ち主です」
どうやら、ロイズ公爵は3人もの"魔法使い"を従えていたようだ。
爆発魔法のノラ。
流水魔法のカイ。
転移魔法のサロメ。
しかも、ノラとカイに至っては、今まで奴隷"魔法使い"として扱っていた。
そのうえで、私の能力まで利用しようとしていた。
したたかな面も持っている、到底許せない男である。
「「──この部屋だ!(です!)」」
ノラとカイの2人の案内によって、見つけた部屋の先には──。
既に誰かが捜索した後はあったが、中には誰も人はいなかった。
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