43話 閑話 -3- ~シュジュア視点~

 ──とある休日。


 俺──シュジュアは、侯爵令嬢リーゼリットと情報屋の事務所前の喫茶店でお茶をしていた。


 以前"ホープ"紛失事件に遅くまで付き合ってもらったことを理由に、食事に誘おうとしたが断られてしまった。

 ならばとも思い、『リーゼリット嬢は俺の詫びを受け入れてくれないのか』とお茶に誘えば、今度は頷いてくれた。


 そのときの断るべきかどうするべきかを懸命に悩んでいるリーゼリットの姿を見ていたら、愛おしくてたまらない。

 俺は、俺のことで頭をいっぱいにして考えている彼女を大層好んでいるらしい。


 リーゼリットを愛していることを自覚してからの俺は、なんだか浮かれているようだ。


「あの……シュジュア様?」

「なんだ? リーゼリット嬢」


 リーゼリットが、俺に少し言いづらそうに問いかけてくる。


「その……最近、私との距離が近すぎませんか?」

「そうか?」

「今日だってそうです。対面席とはいえ、なんでそんな……前のめりでお話してくるのですか?」


 リーゼリットに視線を向けて首をかしげてみせると、彼女は赤面してうつむいてしまう。


「まぁ、距離感については君に意識してほしいからだよ。リーゼリット嬢、今も俺を意識して、君の赤面している顔を見ると愛しいと思っている」

「~~~!? そっ、その美形の心からの微笑みは卑怯だと思いますの!」


 リーゼリットは、とうとうプイッと顔を背けてしまった。

 よく見ると、彼女の赤面していた顔は更に真っ赤になっている。


「(そもそも、私はシュジュア様を推しているのであって、すっすっすっっ好きという感情では!)……私をもてあそんで、喜んでいるなんてひどいですわ!」


 リーゼリットはボソボソと独り言を言っている。

 そんな姿の彼女すら楽しんでいたら、どうやら俺の顔に出ていたらしい。


「弄んでなんかいないさ。君の表情の変わり具合が、なんだか好ましくてね」

「~~~!! そっ、それを弄んでいると言うのですわ! 私の表情で楽しまないでくださいまし!」



 リーゼリットの表情の変化を楽しむのはこれくらいにして、お茶に誘った経緯の話をする。


「実は……お茶に誘ったのは、リーゼリット嬢に俺の話を聞いてほしくてね」

「私に……ですか?」

「ああ、君に聞いてほしいんだ」


 リーゼリットは、俺の話を聞く形に入ってくれる。


「俺は……少なくとも学生でいるうちは、今の情報屋を続けようと思っている」

「──!? それは、大丈夫なんですの? 以前みたいに、ご体調を崩されそうなほどに駆け回ったりはしませんか?」


 こうして面と向かって心配をしてくれる、リーゼリットの存在をありがたく思うと同時に嬉しく感じる。


「ああ、前みたいに四六時中情報収集に励むということはしないさ。あくまで、趣味程度に続けるつもりだ」

「それならいいのですけれど……。あまり、無理はしないでくださいましね?」

「──! そうだなっっ! 気をつけておこう」


 リーゼリットが首を傾けるだけで、心臓が鳴り止まなくなってしまう俺は、だいぶほだされてしまっているのだろう。


「私はシュジュア様が健やかに過ごしてくださるだけで、幸せになれますの。ですから、これからも息災でいてくださいませ」

「ありがとう、リーゼリット嬢。君のために、俺は俺の体を気遣っていこう」

「そっ、そう言った発言は心の準備が必要なので、ほどほどにしてくださって!」


 嘘ではないのだが、どうやらリーゼリットはこう言った発言に弱いらしい。


「俺は……俺は俺のために、情報屋を続ける。だから、これからも見守ってくれるだろうか?」

「ええ、当然ですわ。シュジュア様のお決めになったことを応援するのが、私の信条ですもの──」




 それから、リーゼリットが邸宅まで帰るのを見送って別れた。

 彼女は遠慮していたが、もしも何かあってからでは遅い。


 そう。

 俺は俺のため、つまりはリーゼリットのために情報屋を続ける──。


 リーゼリットの"天啓"とやらで、判明しない部分を俺が補う。

 彼女の"天啓"による苦悩を、俺ができる限り取り除いてみせる。


 そして、リーゼリットは、"魔法使い"の威力を高める能力者でもある。

 ならば、俺は俺のやり方で、彼女の能力を狙う者達から護ってみせよう。


 俺──シュジュアは、そう決意して帰路についた。

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