【第2章】 駆け引き
36話 始祖と邂逅します -1-
──"大魔法使い"聖ワドルディ。
魔法使いの始祖。
200年前に突如現れた英傑で、シェイメェイ王国建国を導いた存在。
天変地異をも起こし、この世のありとあらゆる常識を覆せる人物。
その魔法の威力は計り知れない。
そんな存在ではあったが、とある思い人を亡くしたことで姿を隠したとされている。
今では伝説上の存在だ。
──"ホープ"。
聖ワドルディが作成した宝玉。
見た目は水晶玉だが、"聖石"を原石としている。
聖ワドルディの魔力が込められていて、その色彩は彼の髪色と同じ黄金色だ。
その宝玉は、ただそこにあるだけで祝福をもたらすとされる。
シェイメェイ王国が200年間安寧であり続けたのは、この"ホープ"の力によるものと伝えられている。
そして"ホープ"には、どんな願いをも一つ叶えられる力がある──。
ただし、その血筋の者にしか願いは成し得られない。
その血筋の者が血を垂らすことで、"ホープ"は反応し発光する。
この国に"ホープ"は4つある。
──王家。
──キュール公爵家。
──ロイズ公爵家。
──ノーマン侯爵家。
今まで"ホープ"に、己の願望を願うものはいなかった。
そう、いなかったのだ──。
だが、そのバランスは今まさに崩れようとしている。
ホープに己が願望を願った者がいたのだ──。
そのバランスを元に戻すのが、私──リーゼリットの目的である。
「眠る前に考える癖はやめた方がいいのかしら。いつもすぐ、何を考えていたか忘れちゃうのよね。今回はまだ、なんとか思い出せたからいいのだけれど」
ノーマン侯爵邸の私室で、私は
「でも、私は今手にしている
ダリアン第1王子ルートは全3巻だ。
他の2人のルートは1巻ずつで、後の1人が特典小説扱いなので、
1巻は、ヒロインの子爵令嬢ユリカが1年生の一学期編だ。
今は既に、10月中旬。
2巻の二学期編が、切実にほしいところである。
「9月のお茶会の件だって、私の記憶で思い出したことだもの。やっぱり、
そもそも、原作改変は既に始まっているので、
それに、伯爵令嬢ガーネットが持っていた小さい丸玉などは、
聖石を元にした丸玉、"ホープ"の模倣品──。
………そう、載っていなかった"はず"だ。
では、お茶会のように、記憶を頼りにして即興で行動した方がいいのだろうか──?
──いいや、私の記憶は信用できない面もある。
前世の頃なら完璧に覚えていたであろうに、今の私はなぜだか記憶が曖昧な点もあるので、実は自信がなかったりする。
「あああああぁぁぁ、もうどうすればいいのかわからなくなってきたわ~~~!!」
「お嬢様。独り言が大きいです。もう少し静かにしてください」
侍女に怒られ、私は口を
明日からは、また学園の登校日だ。
それに明日は、11月の学園祭に向けて立候補者と推薦者を決める日であった。
私はラドゥス王子と合作した、伝記漫画の頒布会があるので、何も立候補するつもりはない。
立候補するつもりはなかったのだが……。
ヒロインのユリカの歌唱披露の際に、"アクシデント"があったことを思い出したのだ。
ユリカがただでさえいじめを受けて、塞ぎこんでいる面があるというのにあまり負担はかけたくない。
私は原作の通り、実情は嫌々ではあるが、歌唱部門に立候補することを決意したのであった。
*****
「────というわけで、歌唱部門に立候補しました」
「止めておけ! 今からでも辞退したまえ!!」
次の日の昼休み。
学園祭で歌唱部門に立候補した理由を報告したら、ラドゥス王子に断固反対をされてしまった。
「あのあと、カルムから聞いたぞ。そなた、極度の音痴らしいな。直す以前の問題なほどの」
「ええ。ですから、子爵令嬢のユリカさんとデュエットしようと思いますの」
「なぜそうなる!? それは流石に、ユリカが可愛そうであろう!?」
ユリカとは放課後集まる予定なので、そのときにデュエットについて相談するつもりだ。
断られたら断られたでそのときであるが、できれば一緒に歌いたい。
「そなたはなんでよりによって、事後報告なのだ。言ったではないか、報連相は大事だと」
「先に言ったら、さっきのように反対されるかと思いまして」
「確信犯か!? なおさら、タチが悪いではないか!」
こうなるから報告するのは嫌だったのだが、なにせ同じクラスであるためにすぐバレてしまったのだ。
それで問い詰められて、今に至る。
「もう立候補してしまったのなら仕方ないだろう。それより、トーン貼り…? はこれで合っているのか?」
「理由のない限り、立候補からの辞退は印象悪いですからね。このベタ塗り…? は、結構難しいですね。」
私と推し3人は、伝記漫画頒布に向けて、引き続き漫画を描き続けていた。
下書きとキャラクターは、ラドゥス王子。
背景とセリフに含めて監修は、私。
ベタ塗りと消しゴムは、ターナル。
トーン貼りと修正は、シュジュア。
伝記漫画は、この役割分担で行うことに決まった。
「ターナル様、後で修正を行うので多少のはみ出しは気にしないでください。どんどんいきましょう。シュジュア様、トーン貼りは慎重に。カッターは危ないので、お気をつけて使用してくださいね」
ちなみにこの世界になかった画材は、シュジュアお抱えの"物作りの達人"、ラニに作ってもらった。
ラニ様様である。
「今回の頒布はお試しなので、20ページ程度ですわ。お昼休みしか時間がないので、サクサクいきましょう。ラドゥス様、そういうわけでよろしくお願いします」
「どういうわけだ!? さてはそなた、僕の反対意見をなかったことにしようとしているな。もういい、わかった。そなたが恥をかいても知らないからな!」
ラドゥス王子は、完全に拗ねてしまった。
それでも、手は動かしているので、漫画を完成させるつもりはあるようだ。
「私だって、私自身が超絶音痴なのを自覚していて歌うのは本当は嫌ですの。でも、"天啓"による"お告げ"がある以上、無視はできませんわ」
私は推し3人に、改めて申し出てみる。
「そなたがそう思うのなら、そうすればいい。僕はもう知らん」
「俺はその"天啓"が何か、未だによくわかっていないからな。君が"お告げ"に従いたいのならば、そうした方がいいのだろう」
「リーゼリット殿がそう思うのであれば、それはきっと必要なことなのでしょう。私はあなたを応援しますよ」
ラドゥス王子、シュジュア、ターナルと、同じようにみえてバラバラの意見が返ってきた。
ラドゥス王子は私の申し出を突っぱねているし、シュジュアは提案に近く、ターナルは意見を認めてくれている。
様々な意見であるが、出会った当時に比べると、それぞれ言葉の裏に優しさがこもっているのが嬉しくてたまらない。
「勝手に決めて申し訳ありませんわ。でも決めてしまった以上、やるからにはやります。ラドゥス様、シュジュア様、ターナル様、応援してくださいましね」
そうして私は、学園祭の歌唱部門出場に向けて、決意を固めたのであった──。
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