37話 始祖と邂逅します -2-
「それで、ユリカさん。私と学園祭の歌唱部門でデュエットしてくださらないかしら」
「えっ! えっ……と、本気……ですか?」
私は放課後にときどき、ユリカと一緒に魔法の練習を行っている。
魔法の練習が終わった後、学園内のカフェテラスで、早速ヒロインのユリカに歌唱部門でのデュエットを提案してみた。
案の定、ユリカは戸惑っている。
「それが本気なのよ。私もあまり人前で歌うのは恥ずかしいのだけれど」
「ソウナンデスカ……」
どう返せばいいのかわからないのか、ユリカは片言になっている。
本当は私だって、生き恥を晒したくはない。
「ユリカさんには、本っ当に申し訳ないのだけれど……ね?」
ユリカはとうとう固まってしまった。
私はこれではいけないと焦ってしまう。
「ユリカさん、ごめんなさいね! 返事はすぐでなくていいから! ユリカさん!!」
「わっ! わかりました! わかりましたから! そんなに慌てないでください……」
とうとう、私の勢いに呑まれてしまったようだ。
ユリカは、思わず返事をしてしまったことを後悔しているような顔だ。
「………デュエットするからには、ちゃんと練習なさってくださいね」
「ありがとう、ユリカさん! 恩に着るわ!」
やっとのことで、ユリカと一緒にデュエットで歌唱部門に出る権利を得た。
*****
──その日の帰り。
この学園は全寮制ではなく、邸宅から通う通学生と寮生がいるが、私は前者だ。
シュジュアやラドゥス王子も前者の通学生で、後者の寮生はターナルやユリカなどがそうである。
私はいつも通り、迎えの馬車に乗って帰宅していたところであった。
私以外に誰も乗っていない馬車に、ふと金の髪がふわり目の前に浮かんで見えた──。
「お前が新たなる"聖なる乙女"か──?」
私は突然現れたその存在に驚きを隠せず、反応が遅れてしまう。
「──やはり、
いきなり出現して、堂々と馬車の中に佇んでいる目の前の金髪の人は私を
その言葉が非常に気になって仕方がない。
私はいつの間にやら馬車に乗っている目の前の人物を無視して、考えに没頭する。
ユカリ、ゆかり、ゆ・か・り、由・香・里、由香里………。
由香里??
(お………お姉ちゃん??)
『由香里お姉ちゃん、流石にヒロインの名前をお姉ちゃんの名前をもじるだけって安直すぎるよ〜』
『いいのよ。どうせみんな、自分の名前を当てはめて想像するんだから。気にしちゃいないって』
『由香里お姉ちゃん、なんで攻略キャラクターが3年生でヒロインは1年生なの? これだと、弟の1年生の非攻略キャラクターの方が仲良くなりそうじゃない?』
『恋愛は垣根があってこそよ。そもそも、このお年頃のカップルは年齢に差があってもおかしくないの。この小説の世界では、年の差恋愛が王国を救うのよ』
『由香里お姉ちゃん……お願い、死なないで。なんでお姉ちゃんが体が弱くて、わたしがこんなに元気なの? おかしいよ……』
『心配しないで。年の離れた妹が、こうして元気でいてくれるだけで幸せなんだから』
『じゃあ、お姉ちゃんが書いてくれたこの小説。ずっと大事にするね。わたしのバイブルにするから』
『こちらこそ、──がこの小説に挿絵を描いてくれたお陰で、世界観がさらに広まっていったわ。ありがとうね、──』
「由香里お姉ちゃん……」
私はとっても大切な人を思い出した。
この
(そうだわ、この
「姉!? 今、
目の前の人物が私の呟いた言葉に驚愕しているが、私は考えに没頭したままで頭に入ってこない。
「お姉ちゃん……おねぇちゃん……おねぇ───」
とうとう私は声を上げて、泣き出してしまった。
「おい! どうした!?
目の前の人物が慌てているが、私は全然泣き止まない。
それから、ひたすら泣いている時間がしばらく続いた──。
私は泣いて泣いて、それから少しずつ涙が収まっていった。
目の前の人物は途中から、私が泣き止むまで待ってくれていた。
「まさかあそこまで泣かれるとはな。我が軽率だったか……」
「いえ。突然見知った名前を聞いて、思わず泣き出してしまいましたわ。淑女がみっともないところをお見せして申し訳ありませんでした」
「そうか、気にするな。愛しい者との決別は辛いものだからな」
(なんでこの方は、私が決別によって泣いてしまったことを知っているの?)
疑問が浮かぶが、今は後回しにする。
「えーと……私は貴方を一方的に知っているのですが、当ててしまってもよろしいでしょうか?」
「いいとも」
相手が誰かは、自分自身が挿絵を描いていたのですぐにわかってしまった。
許可を得たので、言い当てることにする。
「貴方は200年前の建国時代の英傑、"大魔法使い"聖ワドルディ様ですよね?」
「いかにも」
"魔法使い"の始祖。
"大魔法使い"聖ワドルディ。
黄金色の髪に紅蓮の瞳。
あの"ホープ"を造った、"大魔法使い"聖ワドルディが自ら、私の馬車に乗り込んでくるとは恐れ入る。
「実は我も、お前を知っているぞ?
「えっっ? お姉ちゃんから!? そもそもなんで貴方は、私の前世の姉を知っていらっしゃるの??」
"魔法使い"の始祖、聖ワドルディは口元を小さく緩めて笑う。
「200年前にもいたのだ。お前と同じ"聖なる乙女"。それが、お前の前世の姉だ」
「……"聖なる乙女"??」
私の疑問に、聖ワドルディが失態に気付いたような顔をする。
「あぁ〜〜〜……そうだったな。
今、目の前の"大魔法使い"はとんでもないことをサラッと言った気がする。
「"聖なる乙女"は我が付けた名だ。"魔法使い"の魔法の威力を飛躍的に高め、意思疎通や感覚共有も行うことができる。別名、歩く"聖石"──」
「うそっっ、それって私の能力──」
「そういうことだ。つまりお前の姉は、お前と同じ能力を持って200年前に転生してきた」
(お姉ちゃんも転生していたの!? しかも、よりによって今から200年前に!?)
一気に舞い込んできた情報量が多すぎて、全く整理しきれない。
「ちょっと一気に情報が増えてしまって、頭の中がこんがらがってきました」
「そうだろうな。それに我の魔法も今はもう、これで限界のようだ。また会おう──」
(ちょっと待って! まだまだ聞きたいことが!!)
そう思って引き伸ばした手に、聖ワドルディから本を渡される。
「これを。必要だろう?」
私は渡された本の内容を見る。
「これは……
「……まぁ、お前の姉に託されてな」
更に情報を増やされてもう頭がごちゃごちゃだが、本当に時間がなさそうなので、どうしても彼に聞きたかったことを聞く。
「聞きたい話は他にもたっくさんありますが、とりあえず……"ホープ"の中で
聖ワドルディは少しばかり首を傾げたが、すぐに納得のいく顔をする。
そして、ある方向に指を差し示す。
「お前も他の人間に世話を焼く
それだけ言って、聖ワドルディは馬車の中から姿を消した──。
それと同時に、馬車は再び動き出す。
先程まで時間が止まっていたことを自覚した途端、私は全身から力が抜けた。
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