31話 社交界デビューします -3- ~ターナルver~
「リーゼリット殿。お次は私と一曲踊っていただけませんか?」
(どういうことなの? お次はターナル様から、ダンスのお誘い!? もちろん、答えは決まっています! 踊らせていただきますわ!!)
先程まで疲れていた体を気にせず、私はターナルの手のひらの上に、自分の手のひらをのせる。
「よろしくお願いしますわ。あの……私ダンスにあまり自信がないので、適度にリードしていただけますと嬉しいです」
「わかりました。リーゼリット殿の期待に応えてみせましょう」
ターナルは私のリードしてほしいという言葉に応じてくれた上、これまた完璧にエスコートしてみせてくれる。
再びオーケストラが奏でる音楽が始まり、会場の皆に合わせてダンスを踊り始める。
一度踊り終わって無駄な力が抜けてきたからか、私のダンスにブレはなくなった。
オーケストラの演奏が曲に入ったところで、私はターナルに問う。
「それで、どうしてターナル様は私をダンスに誘われたんですか?」
「実は私も今一度、あなたとゆっくり二人でお話をしたくて。近頃のあなたは、常に誰かといらっしゃいますから」
(シュジュア様と似たような返答ね。まぁそれだけ私も、誰かといることが増えたということね)
侍女のジェリーは別として、誰かと一緒にいるようになったのは
取り巻きすらいなかった、以前の"わたくし"からしたら驚くべきことであると思う。
「それで、ターナル様は私に何を聞きたいのでしょうか?」
「前に誤魔化されてしまった、"天啓"というものについて教えてほしいのです。あれはきっと、言葉の綾だけではないですよね?」
("天啓"の話がきてしまったわ……。シュジュア様にお伝えしている以上、いつかはターナル様にもお伝えしなきゃと思っていたけれど、その機会がなかったのよね)
「実はある日、これまでの生活を戒めるように"天啓"を授かりまして。それで私は勉学に励んだり、今までとは違う行動をとるようになったのです」
「なるほど。しかし、勉学に励むことと、我がガラティア侯爵家の採掘事業に支援することに繋がりはないように思いますが?」
(痛いところを突かれたわ!? 確かに、主旨は全然繋がっていないわよね)
「そうなのです。実は"天啓"は二つありまして。その一つに、ターナル様を含めた3名の行く末を眺めてみたいという願望の記憶が、突然蘇ってきたのです」
(シュジュア様にも言ったけれど、信じてもらうにはやっぱり無理があるわね! でも、あらかた本当のことなのよ──)
案の定、ターナルの目が点となっている。
私に説得力がほしいものだ。
「そうだったのですね──。それで、我が家の採掘事業を支援し、鉱山見学を申し出たと?」
「はい。それで合っています」
なぜだかわからないが、ターナルはすんなり納得してくれた。
私自身、苦しい答えだったと思うのに不思議に思う。
「鉱山見学の際はお騒がせしました。まさか、メルが鉱山に入ってくるとは……」
「私の方こそお騒がせしました。あのあと、メルの家を半壊してしまって……。しかも結局、ターナル様が補填金で修理してくださいましたし……」
メルの家の修理は私が推し活金でおこなうつもりだったが、結局ターナルが補填してくれることになった。
あのときのことは、私もかなり反省している。
「メルの家を半壊させてしまったのにはかなり驚きましたが、結果的にメルのコントロールには成功しましたので」
「結果的にですよ。それに、メルが私を受け入れてくれたからこそです」
その言葉の通り、メルが感覚の共有を受け入れてくれたからこそ、力の配分ができるようになったのだ。
「しかしあのときは、あなたが能力者とは知らず、メルのコントロールについて一度断ってしまいました。あなたには、あなたなりのやり方があったのに──」
「私もあのころは自分が能力者なんて知りませんでしたから、やりたい放題やってしまったので……。盗賊事件で、賊の武器を壊していったのも同様でしたし──」
ターナルは本当に、心から申し訳ないと思っているようだ。
(私のやりたいようにやってしまったのだから、謝るのは私の方なのに……)
「私は盗賊事件の武器破壊については、不問にすると言いましたよ? あれはあれで、良かったのです」
不問にすると言ったのは、あれから少し経って盗賊事件が片付いたときの話だ。
ターナルは私を宥めるように語る。
「メルも今は怪我の回復した父親を、村でちゃんと待っています。成人するまで鉱山に入らないという誓いを守ろうとしているのです。だから、それで良いのです」
そう言ってターナルは、私に向けて柔和な笑みを見せてくるので、私はこれ以上何も言えなくなる。
「そんな顔をしないでください。あなたには他にも、感謝していることがありますので」
「……感謝していること、ですか?」
私は思い浮かばずに、疑問についてそのまま問う。
「ええ。あれから兄は、ユリカ殿と交流があったからか、張りつめていた空気が少し緩和しました。ユリカ殿にそうお願いしたのは、リーゼリット殿でしょう?」
「……そうですね。ユリカさんにザネリ様のことをお願いしたのは私です」
私がヒロインのユリカと交友関係を持つようになって、まずお願いしたことがあった。
それは非攻略キャラの兄達である、攻略キャラクター4人のうち、3人の精神面を癒すことだった。
攻略キャラクターの精神面を支えるのは、ユリカにしかできないことだと思い、頼ることにしたのだった。
そろそろ曲が終盤に入ってきたので、私はターナルにも聞きたかったことを聞く。
「ターナル様は……、なぜ今こうして私とダンスを踊っているのですか?」
「そうですね──。初めにあなたにガラティア侯爵家の実情の改善をお願いしたときは、苦し紛れでした。」
そこで、ターナルは一区切り置く。
「ですが、今は違います。あなただからこそ、頼ってみたくなりました。確かにあなたは予想できないことばかりをしますが、それでも魅力的な方なのです──」
「みっ魅力的だなんて……。あの、ありがとうございます──」
ターナルはまた柔和な笑みをみせる。
私の方がなんだか照れてしまって、ターナルと踊った一曲は終了した。
(最後は照れてしまったけれど、ターナル様とはゆっくり踊れた分、あまり体力は消耗しなくてよかったわ)
ターナルは、最後まで丁寧な動作でエスコートをしてくれた。
私がお願いしていたようにリードしてくれて、的確なダンスを踊れた気がする。
ターナルとも別れ、私は会場の隅でさっきと同じく休憩をしていた。
そうしていると、不意に横から声をかけられる。
今までの相手のように、正面からの応対ではなかったので、私は思わずギョッとしてしまった。
声をかけてきたのは、やや疲れた様子のラドゥス王子だった。
「王族は挨拶回りが多いから本当に疲れる。あとは僕がいなくてもいいだろうと、途中で抜けてきたんだ」
「それは、大丈夫なんですか……?」
「さぁな。そういや、そなたは先程シュジュアやターナルと踊っていたな」
「はい。今までの出会いについて、語り合っていました」
「──やはりそうか。シュジュアやターナルに抜けがけされたのは、なんだか許せないな」
そう言ってラドゥス王子は、手のひらを上に向けて差し出し、先程の乱雑さを感じさせない優雅な仕草で私をダンス会場へと誘う。
その瞬間、私の瞳とラドゥス王子の翡翠の瞳の視線が絡み合った。
「リーゼリット。今度は僕と一緒に一曲踊ってくれないか?」
(今度はまさか、ラドゥス様からダンスのご指名をいただけるなんて~~~~~!!)
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