24話 お茶会に参加します -6- ~ラドゥス視点有~
シェイメェイ王国第4王子であるラドゥスは、今回の一件により、侯爵令嬢リーゼリットのことをとんでもない女性だと感じるようになった。
──ノーマン侯爵家の令嬢、リーゼリット。
第1王子であるダリアン兄上にいちいちくっ付いてきては、特に脈略のない話をしてきて、それで満足している邪魔な女。
間抜けなせいで、ダリアン兄上の方が尻拭いを手伝うこともあり、下手に関わるとこちらが割を食う羽目になる面倒な女。
それが、今までのリーゼリットに対するラドゥスの印象だった。
ダリアン兄上にくっ付いてこなくなってせいせいしていたが、今学期はまさかの同クラスになるということで、気分は既に最悪だった。
まぁ、この学園で
──だが、久しぶりに見かけたリーゼリットの雰囲気は変わっていた。
学園でリーゼリットの不正の噂を囁いている者達の声を聞いて、彼女は教室に入ることを
あの傍若無人のリーゼリットがか? と本気で疑った。
その後、ターナルに宥めてもらっているのを見て、それが狙いだったのかと腹が立った。
だから、教室で堂々と振る舞いを叱ってみせた。
でも、冷静に考えてみたら、リーゼリットに語りかけていたのはターナルの方だった──。
監視を続けていると、リーゼリットの方から声を掛けるのは勉強の話くらいで、シュジュアやターナルの方が彼女に世間話を持ちかけていた。
そんなある日、彼女の絵が非常に上手いことを知った。
──僕自身がリーゼリットを推し量りたい。
そう思って、美術室に呼んでラドゥスの悩みについて話してみた。
以前のリーゼリットのように、ろくでもない回答で終わらせようものなら追い出して、二度と関わらないつもりだった。
リーゼリットは真剣な提案をしてくれ、まさか伝記漫画を描くようになるとは思わなかったが、彼女との合作は興味深かった。
実際に、伝記漫画を描いていく日々は楽しかった。
──そんなときのことだ。
幼馴染のシュジュアと話をする機会があり、彼女に関する忠告を受けたのは。
『リーゼリット嬢は、"魔法使い"の力を飛躍的に伸ばす能力を持っている。だが、彼女は自身の能力に気がついていない。ラドゥスにも、親しみ深い"魔法使い"がいたな。いいか、彼女と引き合わせるときは気をつけろ』
そんな能力者がいるなんて、見たことも聞いたこともないと半信半疑で聞いていたが、シュジュアの目は本気だった。
『リーゼリット嬢は、いつか絶対、やらかしかねないから気をつけろ』
そう、シュジュアに念を押された。
──そんな矢先だ。
ゲネヴィア妃の茶会の開催前に、リーゼリットとユリカ、それにカルムで合唱を行ったと聞いた。
それだけなら、リーゼリットはゲネヴィア妃の労いに歌という選択肢を選んだんだなと、その程度だった。
しかし、その歌を聴いたゲネヴィア妃の心痛が全快したと聞いて、事情は変わった──。
リーゼリットの能力がこれほどまでとは、思いもしていなかった。
カルムの歌は、ゲネヴィア妃の
そのような能力を公の場で披露したことで一大事となった。
今のところは、ユリカとカルムという"魔法使い"2人の合唱によるものとなっているが、真実に気づき始める者がいてもおかしくはない。
ゲネヴィア妃は、その真実にたどり着いた一人だろう。
だから恐らく、リーゼリットにカドゥール兄上のことを話したのだ。
……ロイズ公爵。
僕の兄、カドゥール第2王子を殺した真犯人。
それを知っているのは、王族とキュール公爵に、ノーマン侯爵。
あとは今回、ゲネヴィア妃が話したリーゼリットのみ。
いつかは必ず、彼奴を討ち果たしてみせる──。
「"魔法使い"の力を飛躍的に伸ばす能力だと? そんなもの、彼奴が知れば格好の
ロイズ公爵が真実を知れば、絶対にリーゼリットの能力を悪用するはずだ。
そんなことすら少しもわかっていない、天然のリーゼリットには大変苦労しそうだが仕方あるまい。
これから起こりそうな騒動に頭を抱えながらも、ラドゥスは波乱が予想される明日以降の出来事の為に、就寝を優先することにした。
*****
そして、約束されていた昼休み──。
お叱りの続きということで、私──リーゼリットは少々憂鬱な気分であり、いつもより少し美術室に向かう時間が遅くなった。
いつもみたいに美術室に入ると、今日はラドゥス王子だけでなく、シュジュアやターナルまでいた。
3人は美術室にある椅子を4つ四角に並べて、会議のようなスタイルで話し合っていた。
美しい顔が3人も揃って話していると、なんだか視界が眩しく感じる。
(推し3人の集結!! 私の理想の空間だわ~~!! でもよりによって、それが私のお叱りを受ける日に起こるなんて……)
最高と最悪の気分が合わさって、なんとも言えない顔をしている私の方を振り向いて、ラドゥス王子が睨めつける。
「ようやく来たか、リーゼリット。遅いぞ」
「申し訳ありません。お叱りを受ける前に、心の準備が必要で……」
ラドゥス王子の一言に、私は謝罪しながら少しばかり言い訳をしつつ、余っている席に座る。
だが、ラドゥス王子はその謝罪に疑問符を浮かべる。
「お叱り? 何を言っているんだ?」
(お叱りではない? では、怒られたりはしないということ?)
私は思わず、歓喜の表情になる。
「これは説教だ」
ラドゥス王子は、とても良い顔をして笑った──。
シュジュアは私に向けて、説教とやらを開始する。
「俺は言ったね。『その"天啓"を披露するのはもう少し控えた方がいい』と。なのにリーゼリット嬢は、なぜ自分から危ない方に首を突っ込むのかな?」
「あれはてっきり、ラニとの共同開発に関しての意味だと……。ハイ、スミマセンデシタ……」
シュジュアに凄まれて、私は思わず片言で謝ってしまった。
美形の推しに凄まれると、なんとも恐ろしい。
「……まぁ、俺がターナルと共に周囲を口止めした結果がこれだ」
「私もまさか、同時に"魔法使い"2人の能力を向上させることまで可能なんて思いもしませんでしたから……」
シュジュアは溜め息をつき、ターナルは弱々しい声音で返答をする。
ただ、ターナルの返答に気になる言葉があったので、思わず聞き返す。
「えっ? 能力を向上??」
私は、その言葉にきょとんとしてしまう。
「「「やはり、気づいてなかったのか(ですね)」」」
私が無知であることを、推し3人に三者三様で非難されてしまった。
シュジュアには呆れられ、ターナルには奇妙な表情をされ、ラドゥス王子には頭を抱えられた。
流石に心外である。
3人に同じ言動を言われてしまい、私はこのまま無知ではいけないと焦る。
昨日寝転がって眠りながら、私の能力についてを考えていた気がする。
必死に頭を回転させて、思い出したことを口に出す。
「私の能力というのは、"魔法使い"の脳内に語りかけたり、感覚を共有したりできることじゃないんですか?」
私の疑問に、シュジュアが答える。
「確かにそれも興味深い能力であるが、君の能力はそれだけではない。脳内に語りかけたり、感覚を共有することで、"魔法使い"の能力をさらに引き伸ばすことができるんだ──」
えっっ?
じゃあ今までのあれは、"魔法使い"自身が自分で魔法の力を限界まで引き上げていたんじゃなくて──。
私の能力で、魔法の力をさらに引き伸ばしていたってこと───!?
(そんなことってありえるの!?
だとしたら………これが、転生者として得た本物の"異能"~~~!?
リーゼリットは、その場でそのまま気絶しそうなくらいに仰天した。
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