23話 お茶会に参加します -5-
私は、第1王太子妃の話を最後まで耳を傾けて聞いていた。
最後まで聞いた上で、当然の質問をする。
「そんな話まで……ただの侯爵令嬢の私に話してしまって大丈夫なんでしょうか?」
「ただの侯爵令嬢ではないわ。カルムの魔法にわたくしを全快させる程の能力なんてないもの。リーゼリットがわたくしの回復を願ってくれたんでしょう? そのお礼よ」
第1王太子妃は私にウインクをして、昔話を先程の回復魔法のお礼だと言ってくる。
でも、私はそれに納得できないでいる。
「確かにゲネヴィア様の回復を願って歌いましたが、私にそんな力はないはずです。それに、子爵令嬢のユリカも"魔法使い"ですからその力のおかげでしょう」
「あら、そうなの? わたくしったら、勘違いしちゃったのかしら? わたくし、結構見る目はあるのだけれど」
どうやら納得のいっていない様子の第1王太子妃だが、私に魔法が使えたら苦労はしないのだ。
第1王太子妃はそれ以上の追求を諦めたのか、現在の時事についての話に切り替わる。
私が知っている限りの世情について話していると、いつの間にか会場がざわめいている。
(「まぁ、ラドゥス殿下がご出席なされたの?」)
(「今日は王子殿下は、誰もいらっしゃらないのかと思っておりましたわ」)
(「でも、ダリアン殿下がいらっしゃっていないのに意外ですわ」)
どうやら、ラドゥス王子がお茶会に出席しているらしい。
学園の制服姿以外のラドゥス王子。
……是非とも見てみたいわ。
第1王太子妃に断りを入れて、ラドゥス王子を探そうとすると、不意に手を引かれて会場の外に連れていかれる。
いきなりの出来事にびっくりしていたが、慌てて手を引かれていた相手を見上げると──。
──ラドゥス王子が、血相を変えて私の手を握っていた。
「ラッ、ラドゥス様?」
「リーゼリット………そなた、やってくれたな!!」
(私、やらかした!? 確かにお茶会開催前に、歌を披露するなんておかしいわよね!?)
「クソッッ、やっぱり僕も初めから参加すべきだったんだ!! ゲネヴィア妃に合わせる顔がないなんて……思うべきじゃなかった」
(やっぱりやらかしたんだわ!! どのような言い訳を述べたらいいかしら!?)
「シュジュアから、それとなく聞いていたのに。『リーゼリット嬢は、いつか絶対、やらかしかねないから気をつけろ』と」
(シュジュア様にも言われるまで!? どうしましょう!! 言い訳すら通じない感じだわ)
……こうなったら、覚悟して素直に謝るしかない。
「ラドゥス様、あまりにも"音痴"な歌を披露して申し訳ございませんでした──!!」
「
……あら?
思っていた、お怒りと違う!?
「能力……ですか?」
「そうだ! カルムから聞いたぞ。茶会前に歌を披露したそうだな?」
「はい、そうなんです。てっきり、そのことでお怒りなのかと……」
「僕はそのことで、そなたを咎めているのではない。……ユリカやカルムと
なんだ、そのことなのか。
ああすると、"魔法使い"達と脳内でコミュニケーションがとれるのだ。
「はい。そうすると、カルム達となんだかこう意識が繋がってくるというか……それがどうかしたんでしょうか?」
「……シュジュアが口止めしていたとはいえ、こうも天然だとは。恐れ入ったよ」
咎められている理由はわからないが、私の行動が褒められたものでなかったのはわかる。
「申し訳ありませんわ。公の場でいきなり手を繋ぐなんて、はしたないですものね」
「とことん回答がズレていくな。……もういい、これからそなたが王宮に来る際は僕が必ず傍に付いていよう」
その言葉だけを聞いたらプロポーズみたいだが、要するに要注意人物扱いだ。
有能な侍女が監視要員として側に付いてくるリーゼリットは、それだけはわかった。
「ところで、先程までゲネヴィア妃と何を話していた?」
「ゲネヴィア様と? ……ラドゥス殿下が幼い頃の話を聞いておりました。ですが、カドゥール様の事故のことまで教えてくださって……私がそんな話までお聞きしてよかったんでしょうか?」
「──! (……そうか、ロイズ公爵の動向に警戒しろということか。そこまで話したということは、リーゼリットも既に目を付けられている可能性が高くて、今後は危険だということだな)」
ラドゥス王子は、私に聞こえるか聞こえないか程度の声で独り言を呟いている。
独り言を終えたあとも未だ考えている最中のようであったが、あまり会場に戻るのが遅いとろくでもない噂が流れても困るので、私は会場に戻った。
その後は取り留めのない会話が続き、お茶会はお開きとなった。
「つっ、疲れたわ~~……」
馬車に乗ってノーマン侯爵邸に帰宅した私は、手早く夕食と入浴を済ませて、ベッドに寝転がる。
転生自覚後、お茶会に参加するのが初めての"私"は、すこぶる疲れてしまった。
以前の
……いや、もしかしなくてもやりたい放題やっていただけかもしれないが。
ゲネヴィア王太子妃は、思っていたよりも気さくな方だった。
お茶会がお開きになるときにも、第1王太子妃は私に声を掛けてきた。
「また会いたいわ、リーゼリット。ぜひまた、王宮にいらしてちょうだいね」
そう言って、私に向けて優雅に小さく手を振ってくれた。
「はい、私もゲネヴィア様にまたお会いしたいです」
私も小さく手を振ってそう返した。
第1王太子妃と別れて、会場を後にしようとした矢先にラドゥス王子が声を掛けてきた。
ラドゥス王子は額に筋を立てて、私の方を睨めつけている。
「先程は僕が悩んでいるうちに、そなたはいつの間にやら会場に戻っていたな?」
「申し訳ありません。ですが、ラドゥス様と私が一緒にいない時間が長いと、その……変な噂が流れてしまったら困るでしょう?」
「噂などを気にしている問題ではないと、知らないのは本人ばかりだな。……続きは学園で話す。いいか? いつもの時間に、絶対に来い」
「わっ、わかりました。絶対に行きますね」
学園でもまたお叱りの続きを受けそうなのをわかっていて会うのは、いくら推しでも正直ごめんだが、仕方あるまい。
なんだか、ラドゥス王子には叱られてばかりな気がするが、怒らせてしまう私の方が悪いのか。
ラドゥス王子は、言いたいことだけ言うと会場をあとにしていった。
ラドゥス王子の後ろ姿に私は小さく手を振り、その後会場を出た。
私は寝転がったベッドでうとうとと眠りつつ、今日の出来事を思い返す──。
*****
ゲネヴィア第1王太子妃の心労を労るために、参加したお茶会。
第1王太子妃は、入場の際に既に顔面蒼白状態で、いつ倒れてもおかしくない状態だった。
このままお茶会開催になれば、すぐにでも倒れそうな第1王太子妃を私は見ていられなかった。
私は"魔法使い"の子爵令嬢ユリカと、同じく"魔法使い"で宮廷音楽師のカルムとともに、お茶会開催前に歌を披露した。
2人の"魔法使い"の言霊と歌が重なり合った結果なのか、魔法の効果は絶大で、第1王太子妃の心痛は全快した。
そのお礼として、第1王太子妃から王子たちの昔話を語ってくれた。
そういえば、第1王太子妃もラドゥス王子も、歌の絶大な効果を私の能力だと言っていた。
私──侯爵令嬢リーゼリットは、"魔法使い"ではない。
それに、"聖石"以外で魔法使いの能力を引き伸ばす方法はない。
だとしたら、2人が言った私の能力とはなんだろう?
そういえば、今まで普通に思っていたけれど、"魔法使い"の脳内に直接語りかけたり、心身の感覚を共有する能力なんて聞いたことないわ。
……もしかして、私の能力というのはそれなのかしら?
──どうやら"私"、リーゼリットは一風変わった能力を持っていたらしい。
でも、この能力を公に披露することが危険だというのは……正直よくわからない。
私にこの能力があったって、力を発揮するのは"魔法使い"なのだから。
結局疑問は解消せずに、悩みが増すだけだったので、話の続きは学園で聞くことにしたのだった───。
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