16話 鉱山を見学します -5-

 ──次の日。

 私、ターナル、シュジュア、ジオ、シュジュアの護衛、私の侍女とメルの7人は、改めて"聖石"の鉱山へ向かった。

 鉱山には、昨日の職人たちが既に集まっていた。

 ターナル一行を見て丁寧に挨拶をしてくるが、皆メルを目にすると絶句してしまう。

 そうしている間に、昨日の職人の代表が声を掛けてくる。


「ターナル様、今日も来てくださったのですね。ありがとうございま……。メル、なんでまた来ちまったんだ!?」


 その発言にメルはビクッとするが、私とジオが優しい声音で安心させる。


「大丈夫よ、メルちゃん。来ても安全だとターナル様が判断できるくらい、力のコントロールが安定してきたから一緒に来たのよ。私が付いているから、前と同じようにはならないわ」

「そうですよ、メルさん。ちゃんと、自分の感情を抑えられるようになってきたじゃないですか。それにリーゼリット様が付いていらっしゃいますから、きっと危ないことは起こりませんよ」


 その言葉にメルは励まされたのか、職人たちに訴えかける。


「みんな、昨日はごめんなさい。わたし、もう少しで優しくしてくれるみんなを傷つけるところだった。でも、わたしを信じて。昨日必死に練習したから、魔法の使い方が上手くなったの。前みたいにだれも傷つけようなんてしないから、わたしをここにいさせて」

「昨日って……。まさか、昨日ずっとお前ん家がグラグラ揺れていたのは、メルの魔法だったのか!? 本当に大丈夫……大丈夫なのでしょうか、ターナル様?」


 言っていて心配になってきたようで、職人の代表はターナルに判断をあおぐ。


「問題ありません、と言いたいところですが……。それを確かめる為にこの鉱山に来ました。それにメルがまた魔法をコントロールできないようであれば、今後一切鉱山の出入りを禁止すると本人の了承を得ています」

「では……。しかし、成人前の女子に掘削くっさくをさせるのでしょうか?いくら"魔法使い"だとしても、それはあんまりではないでしょうか?」


 職人の代表の痛切な言葉に、メルは今朝話し合ったことを職人の皆に伝える。


「大丈夫だよ、おじちゃん。"せいせき"のくっさくは、力をちゃんとした形で使えるように大人になってからって、ターナルさまたちと約束したから。今日はそれを伝えにきただけだよ」

「本当か!? あのわからず屋のメルが、本当に納得してくれたのか!?」

「その辺りのお話は、メルの両親にもきちんと伝えてあります。もし"魔法使い"として役立てる力であったとしても、成人するまでは無闇に使ってはならないと私と約束しましたから」


 その後も職人の代表とターナルとで細々と話し合っていたが、どうやら職人たちの方が折れたらしい。


「じゃあ成人するまでの間、こうやって山に来ていいのは今日だけだぞ! わかったな、メル!!」

「うん、ありがとうおじちゃん!! みんな!!」


『今朝方の話し合いが功を奏したようで何よりだわ』と、緊張が緩んだ私はホッと吐息をついた。




 そうしてまた一行は、昨日同様採掘仕事の続きを見学していると、ゾロゾロと知らない輩たちが集まってくる。

 いかにもな武器を持ち、こちらを見てその輩たちはニヤニヤとしている。


「なんだぁ~? お貴族さまたちも一緒にいるのかぁああ〜〜?」

「知らねぇぞ~? そんな情報~。どっかから漏れてやがったのかぁああ~~?」

「放っておけ、俺たちは指示通り動くだけだ。"聖石"をありったけ盗めとのな」


 どうやら、狙われているのは私たちではなく"聖石"のようだ。

 リーダー格までいるようで、部下たちに指示を出す。


「掘削してある"聖石"を盗み出せ! 優先順位を間違えて、いちいち喰ってかかるなよ! だが、抵抗してくる奴らにはやり返してもいい! ボコボコにしてやれ!!」


「「「へい!!」」」


 リーダー格から指示を受けた盗賊たちは、一斉にこちらに向かってきた。


「イルゾ!」

「ジェリー!」


「「はっ!」」


 シュジュアは自らの護衛、私は侍女に指示を出し、盗賊の行く手を阻む。


「なんだぁ〜? 邪魔をするのかぁ~? だったら、ボコボコにしていいよなぁああ~?」


 まるでそれを待ってましたというように盗賊たちは武器を構え、こちらを威嚇してくる。

 ──だが、2人はそれには動じない。



「もういい! こうなりゃやっちまえ、お前ら!!」


 痺れを切らした盗賊たちは、一斉に飛びかかってくる。

 それを護衛のイルゾと侍女のジェリーは、的確に相手を戦闘不能にしていく。

 だが多勢に無勢の為、2人をすり抜けた輩たちがリーゼリット達に向かってくる。

 その輩たちをターナルとシュジュアが、剣撃で上手くあしらっていく。


「危ないので、職人の方々は離れていてください!!」


「リーゼリット嬢、ジオ、メル、君たちもだ!!」


 その言葉に従って職人たちと私、メル、ジオは、奥の方へと離れてその場に隠れる。


 イルゾとジェリーの2人をすり抜ける輩たちが少しばかり増えてきたが、ターナルの剣撃は留まることを知らない。

 バッタバッタと、すり抜けてきた敵の盗賊を戦闘不能にしていく。

 ──ガラティア侯爵家が、騎士の家系・・・・・でもあることは伊達ではないようだ。


 戦況は今のところこちらの方が優勢に思えたが、いかんせんキリがない。

 盗賊は思ったよりも大規模の賊のようだ。


 これでは時間がかかる上に、体力が消耗してくるとこちら側の方が危ない。

 それならと思い、私はメルに話を持ちかける。


「メルちゃん、昨日みたいにお姉ちゃんと手を繋いでもらってもいいかしら?」

「いいよ、おねえちゃん。でも、昨日みたいなのだとターナルさまたちも危ないよ。どうするの?」

「ありがとう、メルちゃん。昨日特訓をしたから、ターナル様たちには大丈夫なようにできるわ。手を繋いだら、また心の中で話しかけるからその通りにしてくれないかしら?」

「……わかった。おねえちゃんを信じるね」



 そうして、私はメルと手を繋ぎ、昨日みたく感覚を共有する。

 メルは昨日みたいに動じたりはしなかった。

 そして、心の中でメルに伝達する。


『いい? メルちゃん。あの盗賊たちの武器だけを壊すのよ』


「……え? どうやって!?」


『難しいことは考えないで。あの武器邪魔だなぁ、壊しちゃおう! そんな考えだけでいいのよ。いい? 集中して……そう!!』


 そのとき、盗賊たちの武器が突然壊れ出す。


「なっっ!? なんだぁああ~?」

「ん!? 今、何が起こった!!」


 盗賊たちは自分の手元の武器を見て焦り出すが、そうしているうちにもどんどん武器が壊れていく。

 その様子に違和感を感じたターナルやシュジュアたちが、一斉に私とメルの方を向く。


「リーゼリット殿!? ……あなたは一体、何を?」

「リーゼリット嬢!? ……もしや、これは君が?」


 なんだか、味方まで混乱させてしまっているようだ。

 だが集中を切らす方が危ないと感じた私は、盗賊たちの持っている武器に目を凝らしていく。

 そうこうしている間に大半の盗賊たちの武器を壊し、後の敵はリーダー格の男だけになった。


「なんだ!? つまり俺たちは、なにやら女子供の"魔法使い"にやられちまったってことか? ははっっ! ついてねぇなぁ……」

「そういうわけです。大人しく投降してください」

「うーん……。投降したくても、俺達の親玉が許してくれそうになくてな? 成功しなかった時点で殺されそうなんだわ。……ってことで、あばよ!!」


 そう言い残して、唯一壊されることのなかった自分の武器で盗賊のリーダー格は自決した。




 その後、奥に隠れていた私とジオは、残った盗賊たちを縛りあげていくのを手伝っていく。

 メルも手伝おうとしてくれたが、それはやんわりと断っておいた。

 ふと先程、自決した盗賊の男の方を見る。


「……やってしまったわ。一番先に、彼の武器を壊しておけば良かったわ」

「……いや、ここで捕らえていてもいずれ何らかの形で死んでいただろう。それより、先程の魔法はなんだ?」

「私もそれが気になります。あまりにも突然、敵の武器が壊れていくので驚きましたよ」


 盗賊がなぜ"聖石"を盗もうとしたかなどよりも、先程の魔法についてをシュジュアとターナルは聞きたいようだ。


「なんだと言われましても……。あまりにも多勢に無勢なので、こう……武器が壊れたらなんとかならないかな? と思いまして……」

「わたしはおねえちゃんの言う通りにしただけだよ。そしたら、悪いひとたちの剣がパーンってはじけ飛んでいったの!」


「「……………」」



 私──リーゼリットとメルの言葉に何も言えなくなってしまったのか、シュジュアとターナルの2人は完全に口を閉ざしてしまった。

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