15話 鉱山を見学します -4-
メルの突然の涙に、男性陣たちはおろおろしている。
「メル、申し訳ありません……。私の力が及ばない為に、こんな事態を招くことになってしまいました」
「メル嬢、どうか泣き止んでくれ。魔法は万能ではない。魔法だけでなんとかしようとするのは難しいことだ」
「メルさん、あのときに僕は何もできなくてごめんなさい。びっくりしたけれど、お父さんや職人さんたちのためになんとかしようとしてくれていたんだね」
メルがターナル、シュジュア、ジオに三者三様で慰められるさまは、さながらお姫様のようだ。
だが、ターナルとシュジュアの慰め方は、8歳の少女には不向きに思えて正直いただけない。
推し2人の女の子への慰めは苦手分野……と、私は頭の中でメモをする。
案の定、メルはジオに一番懐きはじめていた。
とはいえ、一時的にメルを慰めても根本的な問題は解決しない。
メルが"聖石"の採掘できる鉱山の破壊魔となってしまっている以上、実害が出れば彼女自身の身柄も危険になってくる。
この件はまたも
「メルちゃん、ちょっといいかな」
「なあに、おねえちゃん」
「メルちゃんの力は上手く使えれば、お父さんも職人の皆さんも凄く助かる力よ。なら、お姉ちゃんと一緒にコントロールの特訓をしてみない?」
「ほんと? おねえちゃんといっしょに特訓して、わたしが力をコントロールできるようになったらみんなを助けられる?」
その言葉に、ターナルが首を振る。
「いいえ、それは難しいです。メルの両親が、何度か力をコントロールできるように尽力しましたが結果は全くの駄目でした。……リーゼリット殿には荷が重いことでしょう」
その言葉がズシンと突き刺さる。
でも、やれることはやってみたい。
どうするべきか迷っていると、シュジュアが待ったをかける。
「……いや、ここはリーゼリット嬢に任せてみよう。コントロールできるに越したことはないのだから、それからでも遅くはあるまい」
「シュジュア殿、無責任すぎます。万が一、リーゼリット殿が怪我をしたらどうするのです」
どうやら推し同士で言い合いがはじまったが、シュジュアが信じてくれた以上やれるべきことはやりたい。
「ターナル様、お気遣いありがとうございます。でも、私が特訓を言いだしたんですもの。心配ご無用ですわ。シュジュア様も、私に任せてくれようとしてくださりありがとうございます」
そして、私はメルに笑顔を向ける。
「さぁ、コントロールの特訓を始めましょうか──」
──特訓は困難を要した。
私は言い出しっぺでありながら、まず初めに何をするべきか迷ってしまった。
だが、"物作りの達人"である"魔法使い"のラニとの時を思い出す。
ならばと私は、メルと手を繋いで魔法がどんなものであるかを探る。
(ラニのときは、確か感覚の共有ができたのよね。こう頭の中に浮かんだインスピレーションをどうにか繋げようとしたら、突然
手を繋いで心を通わせた途端に、メルは突然の共感覚にびっくりしたのか家を揺らし出す。
「あ、あれ? なんで、わたし? ……なにこれ?」
混乱しているのか揺れは止まらない──。
「……なんだ、これは! どうなっているのですか!?」
「……わああああ!! 揺れが止まらない!」
「……リーゼ、リーゼリット嬢! 揺れを止めたまえ!!」
ターナル、ジオ、シュジュアも叫び始めて、まさに
『メルちゃん。メルちゃん、大丈夫よ。びっくりしないで。私が付いているから。』
リーゼリットは何度も何度も心の中で、メルにそう呼びかける。
「……う、うん。……わかった」
次第に揺れは収まっていった。
「……なんだったのでしょうか? さっきのは一体!?」
「今からメルちゃんには、この衝撃に慣れていってもらいます。それまで、揺れや破壊は続くかもしれません」
ターナルは混乱しているようだが、私はあえてそう断言する。
「……正気か!? 先に家が壊れるぞ!!」
「どういうことでしょうか? 衝撃に慣れるとは!?」
シュジュアはどうやら何かを察したようだが、ターナルは話に着いていけてなくて何がなにやらちんぷんかんぷんらしい。
だが説明すること自体がどうにも難しいので、それ以上何も言わずに感覚の共有の続きを始める。
メルが共感覚に完全に慣れるまで揺れは続き、部屋にあったものがいくつも破壊し尽くされてしまった。
後からになって、メルの家でやり続ける必要はなかったのではと勘づいたが、今ではもう遅い。
特訓が終わった頃には、メルと私以外の皆がふらふらな状態になっていた。
「ごめんなさい。家のものたくさん壊しちゃって……」
「……メルちゃん、違うの。ここで特訓をやろうとしたお姉ちゃんが悪いのよ。後でちゃんと弁償するからね」
「うう……。きもちわるい……」
「……本当に、なんだったんでしょうか──??」
シュジュアに至っては
とはいえ、私との感覚の共有に成功したメルは、今日一日であきらかに魔法の使い方が上達した。
破壊対象を定められるようになり、感情が揺れ動いても破壊衝動を抑えられるようになった。
これだけでも、まずは大きな第一歩だ。
メルが私と手を繋いでいるときは、より的確に魔法を使えるようになり結果的にコントロールの特訓は成功した。
「ありがとう! おねえちゃんが心の中でずっと応援してくれたからだよ!」
「メルちゃんが皆のために頑張ろうとしてくれたからよ。こちらこそ、私を信じてくれてありがとう」
私──リーゼリットとメルは、完全に2人の世界に入り浸っている。
ただ特訓に巻き込まれたせいで、全然そんなどころではない男性陣はげんなりとしていた。
本当は、今日中にガラティア侯爵邸に帰宅して宿泊予定だったが、鉱山の地割れや特訓など色々あったせいで明日の帰宅となってしまった。
その代わり、村の民宿で6人全員寝泊まりすることになった。
なんだかんだで、今日一日疲れた私は侍女と共に、男性陣より先に眠ることにした。
「それではおやすみなさいませ、皆様。また明日もよろしくお願いしますわ」
*****
その晩、シュジュア、ターナル、シュジュアの護衛の3人で秘密会議が行われた。
「一体今日のあの出来事は、なんだったのでしょうか? ……シュジュア殿、あなたは何やら知っている様子でした。ぜひとも、教えていただきたい」
「……俺にも知り合いの"魔法使い"がいる。その"魔法使い"とリーゼリット嬢が今日のように手を繋いだ時、神秘を超える神秘が巻き起こったのだ。それも一度きりならず何度もだ。彼女は底知れない何らかの能力を持っている。そうだな、イルゾ?」
シュジュアは自らの護衛に声を掛ける。
「はい、私めもこの目でしかと見ました」
その言葉にターナルは頷く。
「……どうりで。本来メルには、あれだけの地震を起こす程の気力と体力はありません。しかも、何度も。あれではまるで、"聖石"の鉱山で起こった出来事と似通っています。……いや、それ以上です」
「そうか。やはりあれは、リーゼリット嬢が傍にいたからこそなんだな。……だが、過去の文献やあらゆる情報を辿っても、"聖石"以外に"魔法使い"の力を高める存在なんて見つからなかった」
「私もそんな話は、今まで見たことも聞いたこともありません」
シュジュアとターナルは、口を合わせて同じ疑問を挙げる。
「「では、彼女はいったい何者なんだ──?(なんでしょうか──?)」」
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