聖なる夜を嫌う男の物語
和扇
聖なる夜
12月24日 クリスマスイブ。
12月25日 クリスマス。
毎年この二日は町が浮かれる。
街中は電飾に彩られ、あちらこちらでケーキが売られる。
父親母親は何故か子供に隠れるようにおもちゃを買う。
カップルは電飾の街を見ながら、綺麗だね、君の方が、などと、
くっさいくっさいテンプレートを繰り広げる。
チッ、とりあえずカップルは爆発しやがれ。
どうせこの後、【ピーーーーーーーーーーーーーーー】なんだろ?
なーにが『聖なる夜』だ。
そのせい、字が違うんじゃねぇの?
雪がチラつけばホワイトクリスマス。
電飾の光と白い雪がコントラストになって綺麗。
さっみぃだけだよ、バカ野郎!
こっちは屋外仕事なんだよ!
天気め、もう少しこっちの身にもなれや!
あと数日すれば年越しだってのに、クリスマスは盛り上がる。
終わったらすぐに年越しの準備で蕎麦用意する癖に。
おい。
日本人。
大多数はキリスト教徒じゃねぇだろ。
なんでクリスマス祝ってんだよ。
ってか由来知ってる奴どれ位いるんだよ。
どうせお祭り事だから騒いでるだけだろ?
クリスマスなんて嫌いだね、ああ爆発しやがれ!
つっても仕事は仕事だからな。
やらねぇわけにはいかない。
俺の好き嫌いなんざ、クリスマス様は知ったこっちゃ無いからな。
ケッ、面倒臭ぇ。
オフィスビルに煌々と光るフロアライト。
ああ、社畜共、お前達は俺の味方だな。
お互い頑張ろうぜ。
ケーキ屋の呼び込みしてるミニスカサンタの女の子。
くっそ寒いだろうに、あれやらせてる店長、鬼畜かよ。
風邪引くんじゃねぇぞ。
自転車で突っ走る〇ber。
その中身はチキンか?ピザか?
事故るなよ。
宅急便のトラックを運転する配達員。
いつも世話になってます。
あったかい缶コーヒーとか差し入れしてやりてぇな。
電車やバスの運転手。
浮かれてる連中を運ばなきゃいけなくて大変だな。
アンタらにはみんな感謝してるだろうぜ。
タクシーの運ちゃん。
客探し大変だな、そこの角にさっきのカップルいるぞ。
どーせ行先は決まってんだろうけどな!
カラオケ入っていった野郎ども。
お前らは相手がいないんだな、男の友情も良いじゃねぇか。
今日は思う存分歌いやがれ。
受験のために勉強してる少年少女諸君。
その一分一秒が未来の選択肢になる。
俺みたいになるんじゃないぞ。
ネットカフェの住人ども。
あ~、なんだ、元気出せ。
クリスマス過ぎればケーキ安くなるからな。
カップルに呪いの視線を送ってる非リア充。
気が合うな。
うまいもん食って鬱憤晴らすんだぞ。
俺と似たり寄ったりな連中も多いな。
全員が全員、クリスマスに浮かれてるわけじゃねぇ。
今日はクリスマスイブじゃねぇ、ただの12月24日だ。
何の変哲もない、ただの日だ。
そうだろう?同胞たちよ。
まあ、ぶっ壊せ、なんて言わねぇよ。
小さな子供達の夢を壊すのは忍びねぇからな。
良い子にはプレゼント、悪い子には炭、だな。
しっかし、日本人は
どいつもこいつも働き者だ。
俺とは大違いだな。
こんな日ぐらい、ちっと手ぇ抜いたって罰は当たらねぇよ。
肩の力抜けや。
ほれ、なんか猫とか犬とかの動画でも見て癒されろ。
さてと、俺も準備するか。
作業服に着替えて、手袋付けて、っと。
長靴動き辛ぇ。
うし。
ま、こんな所か。
ん?
お、社畜共が解放されてやがる。
死んだ魚の目してるが・・・。
おお、社屋出た瞬間元気になったぞ。
あいつらは飲みに行くのか。
一人猛ダッシュで駅に向かって走り出したぞ。
途中の洋菓子屋、さっきのミニスカサンタの子のとこだ。
ケーキを持って?
ああ、家族サービスか。
子供が待ってる家に急げ急げ、終電が来てんぞ。
間に合わねぇんじゃねぇか?
信号トラブルでちょっと止まりやがれ。
お、偶然言った通りになりやがった。
よかったな。
世にあまねく幸せを、ってとこか。
どいつもこいつも幸せそうな顔しやがって。
こりゃ、俺も気張らねぇとな。
今日は忙しくなるからな。
っと、こいつを忘れるところだった。
おう、相棒達、調子はどうだ?
よしよし、絶好調だな。
荷物を載せて、よっこらしょっと。
相変わらず座る所が低いんだよな。
前任のジジィに合わせてあるから、しゃあねぇか。
よぅし、出発だ。
空を駆けろ、
世界中の良い子に
おっと、決め台詞を忘れるところだった。
「メリークリスマス!」
聖なる夜を嫌う男の物語 和扇 @wasen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます