サメ映画——何も考えずに楽しめる、その愛すべきおバカ映画ジャンル

たけや屋

サメ映画——何も考えずに楽しめる、その愛すべきおバカ映画ジャンル

 皆さんサメ映画見てますか?

 スティーブン・スピルバーグ監督の名作『ジョーズ』のことではありません。21世紀に入ってから爆発的にその作品数を伸ばしている、おバカ映画ジャンル【サメ映画】のことです。


 決してメインストリームにはなり得ないが、しかし根強いファンを獲得しているサメ映画。

 その特徴と魅力は何なのか?


 それは、圧倒的なまでのB級っぷりです。低予算映画は俗に【B級映画】と呼ばれますが、サメ映画はそのあまりにもあんまりな内容からB級を突き抜けた【Z級映画】とも呼ばれています。界隈だけの自虐的名称かもしれませんが。


 おバカでB級ともなれば、これはもうなにも考えずに楽しめます。これぞ娯楽の王道ではありませんか。


 サメ映画はマイナーなのでほとんど日本語吹き替えされていません。ですが字幕版でも問題ありません。だってなにも考えずに楽しめるンですから。

 サメ映画とは、ストーリーではなく雰囲気を楽しむものです(個人的な感想です)。


 サメ=海ということで、水着美女を前面に押し出すのもサメ映画の特徴。


 これは、エロが全面禁止だった時代のキリスト教世界においてエロい絵を描くため『これは神話・伝説のシーンを描いたものだからエロではなく教養にして芸術』と強弁して堂々と丸出し素っ裸のエロ絵を描いていたかつての西洋画家に通ずるものがあるじゃありませんか。


 このように、サメ映画は西洋美術の文脈に沿って作られている文化作品なのです。

 序盤だけはお色気シーンなどで視聴者を引きつけようとはしているんですが、ご安心ください。すぐにおバカ映画的世界観が始まります。


 サメ映画……その独特の世界観とは?

 それは、主役であるサメの圧倒的なバリエーションでしょう。


 巨大、超巨大、メカ、生体改造、幽霊、多頭化(サメの頭が3つ4つに増える)などなど、サメに不可能はありません。

 少年漫画の主人公ですら、頭がいっぱい生えてるなんてキャラはちょっと居ないんじゃないでしょうか(主役じゃなくていいなら某阿修羅男とかですかね)。


 このように多種多様な最強生物たちが人間たちを襲いまくるパニックホラーが魅力です。


 サメに抗うライバルも種々雑多。

 貧弱一般人だけでは飽き足らず、霊媒師からアメリカの英雄、巨大タコ、メカの巨大サメ、巨大ロボットなどとの血湧き肉躍るバトルが楽しめます。


 そしてその生息域も様々。

 空を飛び、宇宙空間に進出し、時空を超え、地面の中を泳ぎ、トイレやタンスの中から飛び出してきて、ついにはサメの出ないサメ映画まで作られる始末。


 これら要素が組み合わさった、異様で独自の世界観を感じるのです。鑑賞するのではなく雰囲気にひたるのです。


 なぜサメ映画をじっくり鑑賞しないのか?

 それは、精神を守るためでもあります。


 サメ映画は大変にトンチキです。シュールギャグ作品のようなものです。そんな作品を大量摂取しては後々フラッシュバックに悩まされるかもしれません。サメ映画は用法用量を守って正しく楽しみましょう。


(どーせ真面目なストーリーじゃないんだから、流し見でもいいよね? と言ってはいけません)


 しかもサメ映画は大変に低予算です。そして主役のサメは大抵がCG制作。低予算とCG……これ以上に相性の悪いものがあるでしょうか。サメ映画のごとき低予算CG作品を大画面でじっくり鑑賞してしまうと、予算相応のチープさがばっちり見えてしまうのです。


 なのでサメ映画は画面の片隅に配置して、ウェブ小説やニュース記事でも読みながらチラリチラリと流し見ましょう。これでCGの粗(あら)は目に付かなくなります。


 真面目に鑑賞ると馬鹿をみる。流し見しても馬鹿笑い。

 そんな愛すべき低予算映画が、なぜこうも作られ続けているのか?


 普通に考えたら、金ナシ知名度ナシの超マイナージャンルは次第に衰退していくのが世の定めだというのに。


 ここでサメ映画界の超有名人からの言葉を紹介しましょう。たしか日本人からのインタビューに答えたものです。


『俺らが何でサメ映画を撮ってるかって? そりゃアンタら日本人が面白がって見るからじゃねーか! 中途半端に売れちまうモンだから、俺らがサメ映画を撮るハメになってるんだよ!』(意訳)


 どうでしょうか。

 サメ映画という世紀のトンチキ映画ジャンルがここまで増殖してしまった——その全ての責任は日本人にあったのです。

 これはもう日本人として責任を取らなきゃなりますまい。


 さあ皆さん、サメ映画を見るのです。


 各社動画配信サイトで『サメ映画』と検索すれば結構な数が出てくるでしょう。

 軒並み【★★☆☆☆〜★★★☆☆】とかの低評価ばかりですが、地雷臭にひるんではいけません。


 覚悟を決めて再生ポチれば、そこには独特の世界観が待っているでしょう。


 こういうサブスク配信サイトで再生数が伸びれば、制作側にも利益が還元されるはず。それが次なるサメ映画の土壌になる。

 年末年始は有名歌番組や大作映画ではなく、ぜひサメ映画を。1本1本が短めなのでサクサク見られます。


 サメ映画という映画界の怪物を世に広めてしまった責任を取るために、サメ映画を見まくるのです。

 そこからいつか、名作【ジョーズ】を撮ったスティーブン・スピルバーグ監督のような才能が出てくると信じて。


 ※ちなみに本作は、某幽霊的サメ映画をピクチャ・イン・ピクチャで流し見ながら、上映時間【1時間9分】の間に書き上げました(映画はスタッフロールまで見る派)。


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