第三話 フィールの都市

 家出で村から出てから歩くこと三時間。ようやくフィールの都市に到着した。村までの道は良く小さいころに父さんに抱っこされながら来ていた記憶があるから得に迷うことは無かった。

 ただ夜なので道中、何度か魔物と遭遇した。狼の群れとやりあうのはきついと分かったので、遠目でも狼がいることを確認できたらすぐに敵がいないか、スライムがいる道へ迂回することで何事もなく来れた。


 フィールの都市には来れた。でも何故か都市の入口にいる兵士に呼び止められた。


「そこの君、どうしたんだい? こんな夜に。迷子かな?」


「……ケルク村から一人で来た。迷子じゃない」


「迷子じゃない……? もう深夜だよ? 親には止められなかったのかい? まさか君……」


 まさかこんなことで止められるとは思わなかった。もう六歳で言葉も分かるし歩けるのに、夜に外に出ることの何が悪いんだ。

 確かに父さんにわざわざ嘘を付いてここまで来たけど、僕はここまで一人で来れたとおり魔物も倒せるんだ。止められる理由が分からない。


「家出してなにが悪い。僕のことはほっといてくれ」


「うーん……流石にそうは出来ないな。まだ子供だから一時的孤児院にでも預けて明日、村に報告して親に連れ帰ってもらわないといけない。

 済まないけど一緒に来てくれるかな?」


 面倒くさいな……。なにがなんでも子供扱いしやがって。

 でもここで暴れるのは得策じゃない。なんとか抜けられないだろうか?

 あぁそうだ。どうせ今は夜だ。大人くらい簡単に撒ける。


 僕は兵士の言葉に無言で押し返して、そのまま町中へ全力で走る。今家に帰されたら次脱出するのが難しくなる。父さんに物の分解以外で怒られるのは勘弁してほしい。だから僕はとにかく逃げる。


「あ! ちょっと! 待ちなさい!!」


 都市の入口から大通りに出たらすぐに見える路地裏を通って、そこから見えた曲がり角を何度も曲がって後ろから追ってくる兵士の声が聞こえなくなるまで逃げる。

 そうすればすぐに撒けた。とても簡単だった。


 さて、これからどうしよう。兵士から逃げられたのは良いものの、迷ってしまった。とても暗く狭くてじめじめしてて、何処の家の裏を通っているのか全く見当が付かない。ここはどこだろう?


 しばらく暗い道を迷って歩いていると何か大きな壁にぶつかった。

 すぐに上を見上げるとこちらをすごい形相で睨む大きな大人だった。


「おい……ここはガキが来る場所じゃあねぇぞ……?」


 また大人か。また僕をガキ扱いする。でも兵士ならまだしもこの人はきっと僕を簡単には逃してくれないだろう。

 ただ別にこの人は狼ではない。ちょっとちょっかい出したくらいで殺されることは無い。ここも強行突破しよう。


 僕は無言で【収納】から釘を取り出すと、静かに足元に釘を落として、大人の脛に向かって【弾き飛ばし】を発動する。

 人は脛を思いっきりぶつけるととても痛い。経験済みだ。ただ今回はぶっ刺している。どんな痛みかは想像出来ないな。


「ぎゃあっ!? このクソガキ! おい待てやゴラァ!」


 どうせ人も同じく、足を怪我すれば僕を追いかけることも出来ないだろ。

 僕はすぐに捕まれる前に大人の横をすり抜けるように突破した。ざまぁみやがれ。


 そうして僕はしばらく路地裏を逃げ回るがどれだけ入り組んでいるのか分からないけど、一向に大通りに出られる気がしない。

 逃げ回る間、何度もさっきと同じような人と肩と体をぶつけるせいで逆に逃げる理由が増えてしまうことは予想外だった。


 逃げても逃げても後ろから怒鳴り声が聞こえて来る。別に僕は喧嘩を売ったつもりは無いのに、何故か執拗に追いかけてくる。

 このままじゃまずい。殺されることは無いと分かってても何をされるか分かったもんじゃない。


 さらに僕は段々と体力の限界も感じてきた。僕の体力は他の大人達には負けないと思っていたが、人数が多ければそれも意味を無くす。


「はぁ……っはぁ……っ! 大通りに出ることさえ出来れば……!」


 僕は何度も追いかけてくる人がいないかと背後を確認しながら逃げていると、ついに真正面から来た他の人にぶつかり転けてしまった。


「うっ!」


「大丈夫か君!? 何をそんなに急いでるんだい?」


「来るなっ!」


 誰だか知らないけど僕は差し伸べられた手を退かして立ちあがろうとする。

 だがまさかこんなところで立ち上がる体力が残っていなかったことに気がつく。


「クソっ!」


「クソガキだ! 大通りに出られる前にぶっ殺せ!」


 おいおい。脛に釘を刺されたくらいでそんなにブチ切れるかよ。

 面倒くさいなぁ……。


「あぁ、そういうこと。全く……何をしたらこんな人数に追いかけられるんだか……」


 立ち上がれない僕の背後を見つめる、僕がぶつかった人は何故か呆れていた。

 男の人ではあるが、兵士には見えない。その人の背後を見れば先に大通りに出られる街灯の光が見えることに気がつく。

 この人に任せて僕は大通りに出たい所だが最悪なことに本当に体力がない。


「まぁそこで見ていなよ。俺がすぐに片付けてあげるから……。

 そこで止まれお前ら! この先は大通りだ。家まで道案内してやるから今すぐ戻れ!」


 僕はその場で動けないでいると、男の人は追いかけてくる人たちに向かって叫べば、片腕を上にあげると片手が眩しく光りだし、間髪入れずにそれを光線のように発射する。

 人に対してやり過ぎじゃないかと一瞬思ったけど、男の人の顔を見ればまるで当たり前かのような顔をしていた。


「ぎゃあああっ! 畜生! なんで俺らが悪者みたいになってんだ!! 逃げるぞ!」


「ふぅ……片付いた。さてと、君はこんなところで何をしていて、どうして追いかけられていたんだい?」


 僕は追いかけていた人たちは、物凄い光に晒されながらそそくさに逃げていった。

 そして男の人は僕にまた手を差し伸べる。

 一体誰なんだろうか。この人は僕を助ける理由なんて無いのに。


「あぁ、ごめん。俺はこんな見た目でもここの兵士なんだ。全く怪しい人じゃ無いよ」


「っ……」


 僕はどこまで逃げても捕まるのか。小さく舌打ちする。


「全く何をそんなに警戒してるんだ。君は身なりからしてスラムの出でも無いだろうし。こんな深夜に町に出て……なんかやりたいことでもあったのか?」


 この人は強い。入り口の兵士や脛に釘を刺した人とは比べ物にならない。

 しかも僕には体力がない。もう諦めたほうが良いのだろうか。

 いくら考えてもここから逃げられる策が思いつかない。


 もういい。今回は大人しく家に帰ろう。


「はぁ……もういいよ。さっさと孤児院なりどこかに僕をぶちこめよ」


「……? あぁ、そういうことか。外からここまで来たんならそう言ってくれ。

 なに俺は入り口の兵士みたいなことはしないさ。

 外からこんな時間に町に、しかも一人で来たってことは家出でもしたんだろうな。

 別に何も悪いことじゃないさ。嫌ならいくらでも出てって好きなことをすれば良いさ。

 俺も同じだからな」


 僕は諦めて力を抜くと、男の人は何を言っているのか。ニヤリと歯を見せて僕がここまで来た理由と、原因まで全て分かった顔で言う。

 そして今日は自分の部屋で泊まったらと提案までしてきた。

 一体何なんだこの人。普通の兵士とは全く違う。子供が深夜に町で出ることにたいして悪くないと思うなんて。


 まぁいい。僕にとっては都合が良い。僕のことを許してくれるんならここは素直になろう。


「分かった……」


「そうと決まれば帰ろうぜ。こっちだ!」


 僕はそうして謎の兵士の後をついていって、その人の家で泊まることにした。

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ゴミの分別してたら【分解】スキルを覚えたので、色んな物を分解するお話 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs

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