第二話 村の外
時間は深夜。もしかしたらまだ父さんは自室で仕事をしているかもしれないけど、何も問題無い。
僕は深夜にパチリと目を覚ますと、ベッドから起きて窓から外に出る。
そして家の正面には行かずに裏へ回り、そのまま他の家の裏を通って村の入り口まで進んで、僕は何事も無く村を出た。
夜風がとても涼しく心地いい。こんな深夜に起きたのは初めてだ。
さて、僕の目指す先はフィールの都市だ。
夜の外は例え戦闘に慣れている人でも危険とよく聞く。だから早速身を隠せる場所を探したい。
と言っても辺りは真っ平な平原で何もないんだけど。
ああ、それと【弾き飛ばし】を全力でやったらどうなるかも試さないと。
僕は【収納】から一本だけ釘を取り出す。
そして釘を手の平に乗せたら、釘の先端を正面に向けて、もう片方の手で親指で中指を引っ掛けて止めるように輪っかを作り、中指に全力を入れて【弾き飛ばし】を発動。
親指を中指から離すことて溜まった力が一気に解放される。
手の平に乗せた釘を指で弾く。
釘は鉄なのでそこまで力強く弾くと流石に自分も痛い。
そして弾かれた釘はなかなかの速さで真正面に向かって飛び、静かに地面に落ちた。
今の速さは、おそらく人の顔面に当たれば下手すれば刺さる程だ。
ただ多分骨には刺さらない。でも結構痛いはず。
よし。予行練習はこれで終わり。後は魔物に向かって試そう。
僕はフィールの都市に向かってしばらく歩くと、目の前の地面をとても小さなスライムが這っていた。
よし、練習の成果を見せてやろう。と思ったけど、スライムくらいなら分解する時に使う道具で十分だろうと思った。
スライムはとても弱い。そう学んだ。
ただ戦う注意点としては、一度まとわりつかれたらどんどん体積を自ら膨張させて対象を丸呑みにするらしい。
だからそうなる前に素早く核を潰せとのこと。
それなら使う物はこのプラスドライバーだ。
僕は地面を這うスライムにそっと近づくと、勢いよくスライムの身体を鷲掴みにすれば、膨張する前に核らしき体の中央にある玉をドライバーで突き刺す。
ぶちゅっと音がすると、スライムは瞬く間にドロドロに溶けて原型を無くしていった。
あ、そうだ。スライムは分解できるかな?
僕はドロドロに溶けていくスライムに【分解】を発動する。
するとスライムからつるんとしててぷにぷにする丸く小さな水色の球体と、僕がドライバーで突き刺した跡のある青紫色の球体の二つに分かれた。
スライムの身体は見ただけで液体と核で構成されていると分かったから分解できたんだろう。ただ名称が分からない。
水色の球体はまるでゼリーみたいで、青紫色の球体は柔らかい泥団子くらいの硬さがある。
「……食えるかな」
青紫色の方は無理として、水色の球体はゼリーに見えると思ったらゼリーにしか見えなくなってきた。
魔物の肉なら何度も食べたことあるけど、スライムは流石に無い。
「どうせ死んでるから動くことは無いかな……」
僕は好奇心に負けてちゅるんと水色の球体を口で吸った。
味は……水だ。おそらく水では無いんだろうけど、確かに水の味だった。
口の中に入った瞬間、すぐに消えた。
「不味くは無い……」
ただ腹を壊さないか心配だ。とりあえず初めて知った素材だ。今度はスライムを見つけたら片っ端から分解して収納していこう。
僕はまたしばらくフィールの都市に向けて歩く。次は視界の遠くで狼の群れが見えた。
数は四匹。一体相手でも勝てるか分からないのに、四体相手は絶対に無理だと思う。
ただ狼は嗅覚と聴覚に優れているらしいから、多分ぐるりと回り込もうとしてもバレるかもしれない。
何か。何か役に立つ物は無いかな……。
僕は【収納】の中を覗く。
「うーん……バールは武器になるかもしれないけど、戦い方は教えてもらってない……。あ……」
僕はふと思いつく。さっきは指で釘を弾いたけど、実は【弾き飛ばし】というスキルになってからは、物体に何かしら衝撃を与えさえすれば発動することを。
「それならこれが良いかな……」
僕は【収納】から長めの釘を取り出す。とりあえず十本くらい。
それを地面から突出している自分の足程度の低く小さな小岩に乗せると、目一杯に足を後ろへ持ち上げる。
そして思いっきり釘を蹴ると同時に【弾き飛ばし】を発動。
指で弾くより絶対に力は強い。
釘は僕の足によって弾かれると、指で弾いた時とは比べ物にならないほどの速さを実現する。
まるで弓で射った矢。とまでは行かないが、かなり速い。
そうして真っ直ぐ飛んでいった釘は見事に一体の狼の横腹に直撃し、刺さった。とても痛そうだ。
「キャウン!?」
僕はすぐにしゃがんで暗闇に身を隠すが、何故か四体の狼は一斉にこちらを振り向き、走ってきた。
まさか暗闇でも目が見えているのか。これは想定していなかった。かなり不味い。
どうせ逃げても追いつかれるだけなので僕は次の釘を蹴る準備をする。まだ狼との距離は遠い。素早く弾けばあと三本は飛ばせる。
僕は急いで小岩に釘を乗せると、足で【弾き飛ばし】を発動する。
まずは一本目。弾かれた釘は横腹に釘を刺した狼の片目に直撃する。めちゃくちゃ痛そう。
「キュウン!!」
それでもその狼は体勢を崩すことは無かった。次に二本目。弾かれた釘は別の二体目の狼の前足に突き刺さる。これは効いただろう。
その狼は体勢を崩して地面を滑った。
最後に三本目。これが最後だ。狼との距離はかなり近い。弾かれた釘は勢い良くまた別の三体目の狼の脳天に突き刺さる。これはどうだろう?
その狼はがくりと一気に体勢を崩して、地面を滑ると動かなくなった。
あぁ、不味い。狼一体は倒したが、二体が今にも突進してくる距離で、もう一体は足に怪我を負って動かなくなっている。
そしてついに二体の狼が僕に飛び掛かってきた。
僕は何かないかとも考えずに、咄嗟に【収納】からバールを引き抜くと同時に、二体の狼を横に薙ぐ。
「うわぁ!!」
バールを持つ片腕に狼二体分の体重がのし掛かるのが伝わりながら、バールの尖った部分が狼の身体のどこかに減り込んだのか、良い手応えがあった。
すぐに狼が倒れているであろう方を見れば、一体の狼は大きく首元が抉れ、もう一体はすぐに立ち上がり唸り声を上げていた。
「ガルルル……」
僕は空かさず釘を適当に地面に投げて、足で弾く。唸り声を上げる暇があるのならと。
飛ばされた釘はしっかりと脳天に突き刺さった。
残るは足を怪我した一体と、首が抉れた一体。
僕は首が抉れた狼に近づき、渾身の力を持ってバールを狼の頭部に振り下ろす。
そうすればバールの先端が狼の顔面にぶっ刺さり、多分死んだ。
最後は足に怪我を負う狼だが、相当深く突き刺ささったのか。なかなか起き上がれずにジタバタしていたので、すぐに近づきこっちにもバールを勢い良く振り下ろした。
危ない。危ない。本当に死ぬ所だった。悪戯に狼の群れなんかに手を出すもんじゃない。
僕は新たに学んだ。
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