第一話 ウィル・アルバート

 そこはフィール国のケルク村。

 長閑な平原のある人口は僅か二十人の小さな村。

 そこにある日、一人の子が新たに生まれた。二十一人目の村人である。


 性別は男で名はウィル。ウィル・アルバートと名付けられた。

 ウィルが生まれたアルバート家は、ケルク村の村長の家で、村ではウィルの誕生に村人は皆喜んでいた。


 生まれたウィルは一歳で立ち上がり、三歳で言葉を理解し、四歳になってから好きなことが芽生えた。


 それは、物の分解と分別。きっかけは村長であり父のケルク・アルバートが村人の壊れた物を修理していた光景を見てからで、ウィルは父の真似事で家にある物を分解して楽しんでいた。

 ただ当然分解した物を直せるわけもなく、何度も父に怒られては、全て父が直していた。


 何故そこまで分解することにこだわるのかといえば、それは分解した時に出て来る様々な素材が、全て別の物で作られているからと知ったからである。


 例えば木で作られた開閉が出来る蓋つきの立方体の箱は、鉄で作られたネジと釘が埋め込まれていた。

 また時間を指す時計は、硝子の天板に木の枠組み、鉄の針と大小様々な歯車で作られていた。時計に至っては分解するのに一苦労するほどに繊細に作られていたことにウィルは感動したという。


 そんな趣味を持ってウィルは六歳になるまで二年間、村の中にある小さな学舎で自分が住むフィール国に関する知識と、生きるのに必要不可欠な魔法とスキルについて学んだ。

 そして六歳を迎えたウィルは、スキル【分解】を得意とする様々なスキルを会得した。


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 僕はウィル・アルバート。六歳でとにかく分解が好き。それと良く無口で何を考えているのか分からないと言われる。

 あと初めて覚えたスキルは【分解】。その物体の構造さえ理解していれば、大抵の物はバラバラに瞬時に分解できるとても楽しいスキル。


 ただ初めから色んな道具を使って分解するという楽しみは消えちゃったけど、逆に僕の想像していなかった物がその物体に入っていたことがある時に、感動を得られる。


 僕の覚えるスキルは【分解】の他にも【収納】や【火起こし】とか色々ある。

 特に【収納】は【分解】をする時にとても良く使っている。

 【収納】には勿論入れられる限界があるけど、数ではなくどれだけの重さが入っているかで判断されるため、物を分解してから収納する分、僕の【収納】には物凄い大量の物が入る。


 とは言っても直せるほどの知識は無いから、大事な物はそのまま入れるようにしている。

 大事な物まで分解しても楽しいかも知れないけど、治せなかったら意味がない。ただ損するだけだ。


 それで、僕は今六歳なわけだけど、そろそろ村を出てフィールの都市に行こうかと思っている。勿論一人で。

 なぜかといえば、単純に飽きたから。もう分解できる物は分解し尽くした。

 だからもっと色んな物を知って分解してみたい。きっと役に立つ時もあるだろうから。


 そして何故一人なのかと言えば、分解を邪魔されたくないから。

 何が必要か、何を捨てるべきかは人それぞれで違うし、捨てるべきものばかり渡されて分解しても僕は何も面白くない。

 だから一人で行きたい。


 ただ一人で行くとなると、当たり前だが魔物っていう凶暴な動物も出てくる。

 僕に戦う術はない。でも覚える気も無い。やるなら【分解】でどうにかしたい。

 だから必死にどうすればいいのか考えた末、僕は一つの解を得た。


 分解して得た部品や素材だけでも十分に武器になり得るって。

 それで凶暴な魔物を倒せるかどうかは置いといて。僕はそれしか無いと思った。


 まぁ、後は戦闘に唯一使えるスキルなら【弾き飛ばし】がある。

 暇つぶしに分解で得た釘やネジを指で弾いていたら覚えたスキル。

 釘もネジも弾いて自分の手に当てたりすると意外と痛いから。多分使える。


 という訳で僕はすぐに父さんを説得する。


 父さんは村長の家でいつも一人で仕事をしている。話しかける程度ならきっと邪魔にはならないでしょ。

 僕は家に入って、父さんの部屋の扉を開ける。


「父さん。一つ頼みたいことがあるんだけど」


「んー? どうしたウィル」


 父さんは自分の机にある何かの紙に何かを書いている。


「そろそろ一人で村を出たいんだけど良いかな?」


「え……? なんだ? 唐突に」


 父さんは仕事の手を止めて僕の方を向いてくれた。


「うん。もう村で暮らすのも飽きたからさ」


「おぉう……お前は以前から物を真っ直ぐ言うな。何が飽きたんだ? 友達ならいるじゃ無いか」


「うーん友達と遊ぶのは良いんだけど僕の趣味ってだからさ、正直いって一人で分解やってる方が楽しいんだよね」


「おっと、それを友達の前で言うなよ? まぁ、別に村を出ることは構わないが、一人で出ることは絶対にダメだ」


「それは魔物がでるから?」


「当たり前だろ。だから、外に出たいなら力自慢の村の者を連れていくといい」


「やっぱりそっかぁ。じゃあ諦めるよ」


「なんだ? 諦めるのか?」


「うん。もっと護衛なんて要らないくらいに強くなってからにする」


  僕はこの時、家出をしようと考えた。

 別に父さんが嫌いになったり、村のことが嫌になったわけじゃない。

 この方法はバレるかもしれないが、途中で止められることはないからだ。決行は今日の夜。村のみんなが静まり返った頃だ。

 僕は深夜に家を出て、村の外に出る。これで決まりだ。


「そうか。分かった。それなら良いだろう」


「じゃあ僕はもう寝るよ」


 そうして父の説得は失敗しながら、僕は自室のベットで寝た。

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