思春様とのお昼

「良き人は、ほらーは苦手でしたか?」

「うん。私、ラブロマンスが好き」

「おれんじじゅーすと、ぽてと、でよかったですか?」

「うん。私、それだけあれば十分。あんまり食べて、夜にママのご飯食べられなくなってもいやだから」

 チケットをかざして、私たちは指定された席に向かう。

「やはり、大きな画面で観るのはよいですね。いまはなにかとすまほでできてしまいますが、こういう古風なのもたまにはよいものです」

「古風って、思春様がいた頃には全然無かったものばかりじゃん」

「情緒ですよ、良き人よ。物事には、情緒というものがあるのです。私の話し方が、良き人といる時にだけ変わるようにね」

「ふうん、そういうもの?」

「そういうものですよ。?」

 思春様は、いつものドスの効いた声でいった

「どっちでもいいよ。私は、思春様を愛してる。それだけだから」

「左様ですか。ならば、私はこちらの話し方を致しましょう」

 さっきまでのトーンに戻る。

「さあ、始まりますよ。私の手を握りますか?良き人よ」

「うん。私、思春様の手を握って観る映画、大好き」

「私もですよ。あなたとこうしている時間が、なによりも幸福を感じる時間ですから」

 二人で観る「フランキーとジョニー」は、いつもより少しだけ、潤んで見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の頭の中の家族1 櫻春亭梅朝 @yumi23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ