お姉ちゃんとのお昼

「昼下がりにいちごちゃんとこうして飲むコーヒーは、やはりエスプレッソに限るわね」

 お姉ちゃんは二人分のコーヒーを作ってくれた。

「なんで?」

「そりゃ、もちろん、いちごちゃんと最初に出会った時に私が作ってあげたコーヒーですもの。忘れたの?」

「う~ん、覚えてないや」

「ひどい。ま、あなたは子どもだったから、無理もないわね」

「で、どう?浩輔おじさんとは上手くいってる?」

「いってるいってる。上手くいきすぎよ。それで喧嘩しちゃうくらい。この前なんて、私に似合う下着は何色かっていうので、三時間も喧嘩しちゃったんだもん」

 お姉ちゃんはぷくと頬をふくらませたけれど、でもすぐに、笑顔になった。

「私は絶対黒だと思うの。いちごちゃんはどう思う?」

「う~ん、白、かな」

「……、いちごちゃんまで……」

 ちょっぴり、お姉ちゃんは悄気てしまった。

「あ、大丈夫大丈夫。黒もお姉ちゃんは似合うよ」

「それって、フォローになってる?」

「なってるなってる。だからさ、今日は黒の下着で、私に膝枕してほしいな」

 もう夏にも、時折爽やかな風が吹き始めていた。

「スカート、覗く気?」

「もちろん。見えないショーツに意味なんてないでしょ?」

 お姉ちゃんは呆れる。けれど

「まあ、いいわ。ほら、来て。膝枕。ちょうど、黒だから。ストッキング履いてるから、バッチリ見える、ってわけにはいかないけれど」

 ポンポンとお姉ちゃんが膝を叩いてくれるから、私はごろりと横たわって、目を閉じた。

「あら?見ないの?私のショーツ」

「いいよ、黒っていうのはわかってるから、私はそれだけで十分。それに、さ」

 私はちょっと照れながら

「本当は、黒とか、白とか、どうでもいいの。お姉ちゃんが着たい服が、お姉ちゃんに一番似合う服だから。だけど、なんかさ。それだけだとなにか物足りなくって。私は、お姉ちゃんとこうして言い争ってる時間が、幸せなの。なんかこう、かけがえのない時間っていうかさ。こういうのって、変なのかな?でもさ、私はやっぱり、幸せ。お姉ちゃんと、こんな他愛のないお話ができるのが」

 そういい終えて、私の顔はちょっと赤くなっている。

 だけど事実だ。こういう時間、話が、私は、幸せ。

「……いちごちゃんも、浩輔と同じこというのね」

 お姉ちゃんが優しく頭を撫でる。私は微睡んで、お姉ちゃんと出会った時の夢を、見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る