第二話「日常」 その4
「結構な時間話したし、そろそろ帰るか。と言いたいところなんだが、ちょっとトイレ行きたくなったから終わるまで待っててくれない?」
「あー、分かった。じゃあトイレ終わるまでここで待ってるから」
そう言い残したカナメは公園内のトイレに向かって歩いて行った。
この公園内には公衆トイレが一つあるが、その公園の広さに比例してか、まあまあ広い。
外層はかなり年季が入っているように見えるが、中は毎年大掛かりな掃除が行われているようで、結構綺麗な状態だ。
噂によると、最近便器を一新したらしいし。
そんな風にカナメを見送ってから、しばらく静かな時間が過ぎる。
何もせずに待っているっていうのも退屈なので、カバンの中から本を取り出し、読むことにした。
そういえば、こうやって本を読む習慣がついたのも、カナメの影響だったりするんだよなあ…。
おかげで活字には強くなったので、そこだけは感謝しないとね。
あいつはたしか小学生くらいのころにはもう図書室にこもってたりしてて…、とぼんやりと昔のことを振り返っていると、突然ウチの前に男三人組が近づいてきていた。
そして、そのうちの一人(リーダー格っぽい黒髪のセンター分けのやつ)が話しかけてきた。
「どしたん?話聞こか?」
で、出たああああああ!
思わず幽霊とか妖怪を見たときの反応をしてしまいそうだったが、なんとか声を抑える。
いや、まあ実際妖怪みたいな存在なんだけども…。
そうして、その妖怪ワンチャン狙い男は、こちらの事情も顧みずに話を続けていく。
「こんな時間に公園でひとり読書してるとかさあ、絶対なんかあったっしょ。うんうん、それは彼氏が悪いわ~。とりあえず俺らとどっかで話そ」
こいつ、はやく持ち帰りしたすぎて文脈がめちゃくちゃになってんじゃん!
こんなあからさまな奴に引っかかる女でもないし、別に困ってないので丁重にお断りすることにした。
「勘違いさせて悪いけど、別に何かあってここにいるとかじゃないんで。さっさとどっか行ってもらえます?」
「うほー、結構厳しく来るっすね。でも、そういう女こそわからせたくなっちゃうっていうか~」
「お前に拒否権なんてねえから」
「そう言わずにさ、悩みを隠し通して抱え込んじゃうとほんとに爆発しちゃうよ?マジ、俺らだったら相談乗るからさ」
三人はそう言ってぐいぐい近づいてくる。
ほ、ほんとにキモイ…。
このまま無抵抗なままだと、本当に何をされるかわかったもんじゃない。かと言って、逃げ切れる保証もない…。
ど、どうすれば…。
だ、誰か…。
カナメ、はやく助けに来て…!
「お前ら、そこで何してんの?」
「「「あ?」」」
妖怪ワンチャン三人組の後ろに立っていたのは。
「俺が一瞬トイレに行ってる間に何があったんだよ…。ほら、叶恵行くぞ」
そう言ってウチの手を引っ張ってくれたのは。
まぎれもなく、カナメだった。
「あ、ありがとカナメ…。ほんとに助かった…。」
「おい、勝手にその子連れ出して…、お前ナニモンだよ?」
「すまんなヤリチンども。これは俺の性奴隷なんだわ」
「助けてくれるのはいいんだけど、もっとマシな嘘ついてよ…」
もっとさあ、良い言い方あったでしょ…。
その、「俺の彼女なんだ」とか…。
なんだか恥ずかしいことを考えてしまう自分に後悔していると、未だに諦めていない例の三人組が突っかかってくる。
「でもさ、その子、めちゃくちゃ寂しそうだったよ?なんだか振られたみたいな雰囲気だったんだよなあ」
「そうそう、だからさあ、お前多分この子との相性最悪なんだよ。俺らなら話聞いてあげられるし、素直にこっちに渡してくんね?」
「俺らなら満足させてあげるよ?」
「ほーん。ならさあ…」
三人組の発言を拒否するようにウチを後ろに下げてくれたカナメは、おもむろにシャツを脱ぎ始め、その鍛えられた筋肉を見せながらこう言った。
「それなら、力ずくで俺からこいつを奪ってみろよ」
「うげ、なんだこいつ…!」
その筋肉を見た三人組の一人が若干ひるむ。
「ふん、どうせ見かけだけの筋肉だ。そんじゃあ…」
しかし、センター分けの男はひるまず、逆に挑発し返してきた。
そして、勢いよくカナメに接近し、右こぶしを顔面に向けて振りかざそうとする。
が、カナメはそのこぶしを見ようともせず、逆に自分の足を相手の膝めがけて伸ばす。
カナメの足は、相手のこぶしより先に相手の膝を踏むように命中し、センター分けの男は体勢を崩してしまった。
即座に、カナメは相手の頭を踏み、確実に相手の反撃を許さない体勢まで持って行っ
た。
す、すごい…。
素直に見入ってしまうほど、カナメは一瞬で相手の動きを封じてしまった。
「俺はただ体を鍛えてるだけじゃねえ。ちゃんと護身術も身につけるようにしてるんだわ」
「ち、ちくしょう…」
「お前らと俺とでは、モテへの執着が月とすっぽんだったってことだな」
「いや、それ全然決まってないよ…」
え、やっぱり体鍛えてたのってモテるためだったの?
そこはせめて弱い人を守るためとか、そういうかっこいい理由で相手を負かそうよ…。
「お、お前ら、もう行くぞ!こんな奴にかまってても、ろくなことにならん!」
「そ、そうだな!なんかキモそうなやつだし…」
そんな捨て台詞を吐いて、妖怪ワンチャン三人組は、すたこらと逃げるように公園を後にした。
ていうか、見知らぬあいつらにさえキモい奴認定されてんじゃん…。
なんだか本当に残念な奴だな、と思いながらも、あのタイミングで来てくれたことは本当に助かったので、お礼だけは言っておくことにした。
「カナメ、さっきはほんとにありがと。何されるかわかんなくて、怖かった…」
「ん?まあ、もうちょっと早く来てやればよかったな、とは反省してるけど…」
そう言って若干申し訳なさそうにするカナメ。
「でもま、礼を言われるようなことはしてねえよ。困ってるやつがいたら助けてやるってのは普通のことだしな」
「カナメ…」
なんだか…。
不本意だけど、今のカナメはかっこいいと思ってしまっていた。
いや、でも多分本当にかっこいいんだと思う。
ああやって助けてくれたのに、自分を安心させるためにこんな風にカバーまでしてくれる。
そんなウチの気持ちも知らずに、カナメはさっそく帰路につこうとする。
「んじゃ、帰るぞ。早く帰ってシャワー浴びたい」
「うん…。そうだね。じゃ、いこっか」
「ところで、さっきのセリフ、どうだった?なかなかかっこよくキメられたと思うんだが…。惚れたりしちゃった?」
「お前、ほんと最悪だわ…」
「お、おい!なんでだよ!俺はモテるためにお前を実験台にしてるだけで…」
「乙女の気持ちを踏みにじってんじゃねえ!」
「わ、悪かったって~」
ほんと、最悪な奴だ…。
ウチの変態幼馴染がとにかくキモイ レベルNデス @lv5death
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