第二話「日常」 その3
この公園でよく遊んでいたのは小学生のころだ。
遊具があるエリアと広いグラウンドのようなエリアに分かれていて、遊具があるエリアでは結構高さがあるタワーのような遊具や定番の砂場、ブランコ、シーソーなど結構バリエーション豊富な遊具がそろっている。
グラウンドは子供がサッカーや野球をして遊ぶには十分な広さで、ときどきバスケやバレーの練習をしている人も見かける。
中学に入ってからはめっきり公園を訪れる回数が減ったので、たしかにこうして改めて公園を眺めているとなつかしさを感じてしまうものだ。
カナメもそんな風に思ってるのかな、と横を見るとさも当然のように鼻をほじっていた。
きたねえ!
「きたねえ!」
あまりの衝撃のせいで声に出てしまった。
しかし、なんでこいつは急にここに寄りたいと言い出したんだろうか。
とりあえず喋りやすいように近くのベンチに腰掛けて、その真意を聞いてみることにした。
「しかし、なんで急にここに寄りたいとか言い出したのさ。ここで昔遊んだことを急に思い出したりとかさ」
「まあ、お前と一緒に帰ったことで急に脳裏にあの頃のことが浮かんだってのもあるんだけど、ガキンチョのころここで会ったことを思い出してな…」
「いろいろあったけど、何を思い出したの?」
「そういえば、ここで初めて女子に告白されたなあってことをな」
「え!?」
ちょっと、そんなこと初耳なんですけど!
勝手に告白なんてされたことないって思いこんでたけど、どうやらウチの知らないイベントがここで起きていたらしい。
まあ、たしかに小学生のころとかは、今と違ってちょっと変なだけの美少年って感じだったからな…。
今は顔と身体が良いだけのただのド変態だけど、昔は少しくらいモテてても不思議ではない。
そんな気になる思い出話を始めてきたので、ついつい掘り下げる方に話を進めてしまう。
「もうちょっと当時の詳しいこととか、覚えてないの?」
その問いにしばし眉間にしわを寄せた後、カナメは当時のことを話し出した。
「たしかあのときはいつも通り友達と遊んでて…、その時のメンバーに告白してきた女子も含まれてたな」
「うんうん」
「んで、そろそろ帰る時間だって時にその子に手を引っ張られて人気のないところに
連れてかれて…、そこで前から好きでした、みたいな内容の告白をされた」
「うはー、なんだか初々しくてかわいいねえ!」
「おばさんみたいなことを言うな」
でもまさかカナメが告白されてたなんて…。
ただカナメが付き合っていたとかいう噂は今まで聞いたことがない。
ということは…。
「…もしかして、その告白断ったの?」
「…そうだ。当時の俺は、そんなの興味がなかったからな。確かその時俺が熱中してたのは…」
思い出そうとしているのか、空を仰いでしばし。
「そういえば、あの時の俺は女子の下着に心を奪われていたな」
「今とあんま変わんねえじゃん!」
「いや大いに違う!昔は女子の服の下に隠れた下着…、特に、なぜ本来隠したいはずの下着を無防備にもさらしてしまうスカートを履いているのかとか、そういうところに関心があったわけだ。しかし、今は女子の身体、下着含めてすべてに興味がある!」
「変態さのグレードが上がっただけじゃん!」
そんな声を大にして言うような内容だったか?
「んまあ、そんな感じで特に恋愛に興味もなかった俺は、その告白を断った。そして俺はそのことを今思い出し、とても後悔してるんだよ…」
「あー、なんとなく察したわ…」
どうせ、今こんな感じでモテなくなっちゃったから、あのとき付き合っておけばよかったとか、そんなとこだろう。
てか、今も黙ってれば(あと動かなければ)イケメンなんだから、それなりに普通にしたらモテるだろうに…。
ほんとに残念な奴だ。
そしてその残念な奴はというと、なにやら悩んだような表情をした後、こちらに向き直りこんなことを聞いてきた。
「なあ、俺はどうすれば昔みたいにモテるようになるんだ?」
「その変態さを表に出さなければさえすれば、モテるようになるんじゃない…?」
「…なら諦めてこの俺の変態性をも受け入れてくれる女性とお近づきになるしかないか…」
「変態さを自覚してるんなら頑張って隠せよ!」
「もう…戻れないところまで来ちまったみたいだ」
何かっこよく言ってるんだ。
人として踏み入れちゃいけない領域から帰ってこれてないだけだからな。
…そういえば、モテるモテないの話で思い出したが、ラブコメの主人公くらいハーレムを築いていたやつが同じ学校にいたな…。
ついでなので、そいつのことを教えておいてやることにした。
「そういえば、ウチらと同じ高校に通ってるやつでめちゃくちゃ女子にモテてるっていうか、ラブコメの主人公みたいなやつがいたんだけど。」
「なんだと!?」
「そ、そいつにいろいろモテる秘訣とか教えてもらえばいいんじゃない?」
「なるほど…、いい考えだ」
カナメはウチの考えにうんうんと納得したようにうなずく。
「それで…、そいつのクラスや名前、特徴とかわかる範囲で教えてくれないか?」
「えーっと…。名前は知らないんだけど、クラスは二組らしいよ。それで、特徴なんだけど…。なんというか、別に普通というか…」
思い出す限り、あのラブコメ野郎の外見的な特徴は特に思いつかないというか、当たり障りのない感じだったというか…。
そんなほどんど役に立たないような情報を教えられたカナメは、しかし自分の中で得心が行ったように頷き、独りごちる。
「なるほど、外見に特徴がないからこそ、なにかモテるための秘訣を持っているというか、そこで一工夫して周りとの差を埋めているのかもしれないな…。よし、分かった。明日くらいにさっそくそいつに接近することにする。」
「え、あ、うん。頑張ってね…」
こいつはほんとに興味を持ったことには真っ直ぐな奴だな…。
そんなふうに妙に感心したウチだった。
でも、なんだか普通に終わってくれそうにない予感がプンプンするんだよなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます