第二話「日常」 その2

 その日の放課後。

 ミキミキの家はウチの家と逆方向にあり、いつも学校の前で別れるようにしている。

 なので、基本的には一人で帰路につくのだが、今日はタイミング悪く、校門前でカナメと会ってしまった。

「どうせ家隣同士なんだし、一緒に帰るか」

「…(ダッ)」

「おい、逃げんな!」

 一緒に帰る姿をクラスメイトに見られでもしたら、いよいよ変人と親密な関係にあると決定されそうなので、ウチはもう脱兎のごとく逃げることにした。

 が、さすがにそこは身体能力の差もあり、すぐに腕を掴まれてしまった。

「…もしかして、俺との関係をほかのやつらに知られたくないのか?」

「そこまでわかってるんだったら…、放してよ」

「それなら大丈夫だ。もうみんなからお前は変人だって思われてる」

「うがああああああああ!!!」

 ………もうだめだ、ウチの平和な学校生活…。

「返してよ…、ウチの楽しい高校生活を…」

「大丈夫だ。もともとそんな生活はお前の所有物じゃないからな」

「主にお前のせいでな!」

 …まあ、いいか。

 幼稚園から始まり、中学校に至るまでこいつとの生活を続けてきたわけだし…。もう慣れっこだ。

 だからこそ高校で心機一転しようと思ったのにいいい!

「そんなに俺から離れたいんだったら、別の高校に行けばよかったのにな」

「あんたは勉強ができるからもっと賢いところに行くと思ってたんだよ!」

 そう高を括っていたら、近いからとかいう理由で一緒の高校を受けやがって…。

 腐れ縁もいいとこだ。

 もはや他人の視線を考えることが面倒くさくなったので、素直にこいつと帰ることにした。

「そういえば、この前ガタイと話す機会があったんだけど、あいつ裁縫も趣味らしい

ぜ」

「あのガタイで裁縫!?」

 ミスマッチ過ぎる!

「特に羊毛フェルトで小物を作るのが好きなんだそうだ。ガタイ攻略の参考にしてくれ」

「なにそのギャルゲーの友人ポジみたいなセリフ!」

 ていうか毎回思うけど、なんでギャルゲーとかラブコメの友人ってあんなに主人公に奉仕してくれるんだ。

 弱みでも握られてるのか?

「ガタイと裁縫のミスマッチさから推測して、もしかしたらお菓子作りも趣味なんじゃないのかと聞いてみたら、お菓子みたいな糖質の塊は筋肉にとってNGだからやってないとのことだ。誰かに作る目的なら、やってみたいとは言ってたが」

「意外とかわいい子なんだね、ガタイくん…」

 初顔合わせの時の熱血さの印象が強すぎて、完全にギャップ萌えのかわいさだが。

 なぜかガタイくんについての情報を聞きながら、すたすたと歩いている。

 しかし、こうしてこいつと話しながら下校するなんていつぶりだろうか。

 中学生の始めのころは、こいつもまだ純粋だった方だから結構一緒に帰るくらいのことはあったんだけど、中学二年生になるころには完全に変態と化し…。気づいたら少し距離をとる関係になっていた。

 といっても、こいつの方は何も考えずにぐいぐい絡んできたのだが…。

 そんなことを考えていると、カナメが交差点の手前で足を止めた。

 ウチらの家はこのまま真っ直ぐ歩いて行けば着くのだが、どうしたんだろうか。

「なあ、たしかここを左に曲がって少し行くと公園があったよな」

「え?ああ、ちっちゃいころよく遊んでた公園ね」

「なんかそれを思い出すとノスタルジックな気持ちになってきたからさ、そこで話でもしてかない?」

「うぇ、カナメってそんなこと言うタイプだったっけ…」

「俺だってノスタルジーくらい感じるわ」

 そんなやり取りをして、ウチとカナメは公園の方に足を運んでいく。

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