第3話

「La~~LaLaLa~」


 上機嫌に口遊みながらビルの屋上から学生やサラリーマンが行きかう人混みを眺めていた。


「クッハハハッ!!」


 嗚呼、気分がいい、過去一最高に満たされている気分だ。そして、近々起きるであろう社会の変革が楽しみで仕方がない。


「動くな!白黒の頭髪に黒色の角が生えた男、お前には荒木一家焼殺事件の容疑がある。最悪の場合銃の仕様も許可が下りている。大人しく投降しろ」


 警察か・・・ん?、銃の許可が下りているということは俺の事もある程度聞かされているのだろう。

 つい最近だった、自身に変異が起き気が付けば強大な力と肉体を手に入れていた。万能感に酔いしれた俺のした事は、家族への恩返しだった。

 くそったれな日常だったがこんな最高の時代に生んでくれた母や今まで生かしてくれた家族に恩返しをしてあげなければ親不孝者といものだろう。そのため、意味も含めて俺なりの最大のを捧げたというまでだ。


「何を言っているのかよくわからないなぁ、お巡りさぁん?俺は親孝行をしただけだぜ?これまでの感謝に最大の返礼として暖かい抱擁を交わしただけだぜ?」

「その結果を見ろ!家ごと炎に飲み込み夫妻と弟くんを焼殺だ、荒木秀一。これ以上の問答も不要だろう、大人しく捕まってくれ」


「クッハハハッ!本当に笑えてくる・・・。で俺をどうにかできると思っていることに面白くて仕方ねぇよなぁ!!!」

「っ!!!」


 銃声が鳴り響く。それと同時に俺は、手をかざし力を発現させた。


『ソル=フィスト』


 掌に白炎を纏う。襲ってくる銃弾は、手に到達するより前に溶解し塵となった。


「っ!?報告通り化け物か・・・」

「そりゃあ、こんな角も生えてるし一目瞭然だろう?そのうえで確保に来たんじゃないのか宗助兄さん?」


 諦めも悪く拳銃を撃ち続ける兄に一歩一歩近づいていく。


「いやぁ、ゲームの能力そのまんまに引き継がれてるとか最高の気分だ。多分この変化は俺だけじゃないぜ?世界中でこういった事が起きてるだろうよ?」

「っ何が言いたい・・・」


「いやぁ?これから起きるだろう変化が楽しみで仕方がないなって話さ?」

「ぐっ!」


 魔法を解除と同時に壁に向けて兄さんを投げ飛ばし声をかけながら近づいていく。


「俺が危険なのはわかりきってたことなのに一人で来るとか馬鹿だなぁ?それじゃ、行くけど次からはちゃんと俺みたいなやつ対処できるように準備しなよ?俺じゃなかったらとっくに死んでたぜ?」

「げほっ!ぐうぅ!ま、待て・・・」


 おっと大事なことを忘れてた。俺は、この身体に生まれ変わったんだ、ならちゃんと名前を覚えてもらわないと社会にも示せないってもんだろう。


「そうそう!言うのを忘れてたなぁ、荒木秀一はあの日死んだ。今兄さんの目の前にいるのは鬼火と恐れられた【ロキ】だ。このキャラ気に入ってるんだ覚えておいてくれよ」


 そうして意識を失った宗助をその場に放置しビルを後にした。

 工場区画の路地裏を暫く歩いたところで周囲に気配を感じるのがわかった。


「なんだぁ?今度の相手はどこの誰でどういった要件だ?」

「おや、この装備でバレるとは思わなかったよ」


 紺色の忍者もどきの恰好をした男が驚いた様子で上から声をかけてくる。


「こんだけ数いりゃ嫌でもわかんだろ。んで、何の用だ?」

「いやぁ、面白そうな人材がいたもんだから観察と勧誘さ」


「勧誘?」

「そう勧誘。その角とさっきの白い炎。君も変異した人間だよね?」


 忍者もどきは、さっきまでの様子も見ていたようで面白そうに顔を歪めながらこちらを見下ろし言葉を続ける。


「そう、私も君と同じ変異した人間でさ。君も感じてるだろう?各地で同じ変異した人間が現れているだろうことに。そして、その先にあるものは秩序の崩壊。常識という名の柵もなくなり真の自由の世界が訪れるということさ!」


 建物から降りてきて、語りながら少しずつ近づいてくる。


「しかし、一時の争乱もいずれ落ち着きも見せるだろうね?同じような立場の人間が秩序を新たに作るだろうからさ」


 手を伸ばせば触れる距離。尚も愉悦に顔を歪めながら男は語る。


「君も私が所属している組織で自由に力を揮ってみないかい?国側が用意する戦力もきっと魅力的で楽しい闘いの日々になると思うよ?」


 そういって男は手を差し出し握手を求めてきた。

 答えは決まっていた。俺は迷わず腕を振るう。魔法を発現させながら。


『ソル=フィスト』


「おっとぉ!交渉は決裂かい?」

「ふんっ、俺は変異した時からずっと自由だ。誰も俺を止めること出来ねぇよ。秩序の崩壊だがなんだか知らねぇが、戦力の集中とかつまんねぇことしてねぇで俺は俺でやりたいようにやってるわ。勧誘は他所にしな、次は消し炭にすっぞ」


 避けられる距離じゃなかった。しかし避けられた。それが忍者もどきの能力なんだろう。


「そうか、そりゃ残念だ。勧誘を諦めるつもりもないが脈無しみたいだし今は引き下がるとするよ」

「おう、視線が鬱陶しんださっさと失せやがれ」


「私たちはいつでも君を歓迎するよ。ロキ君」


 去り際にそう呟き飄々とした様子で瞬きの瞬間を縫うように姿と気配が消えていった。


「何だったんだろうなぁ。あいつら・・・」


 わかったことと言えばあの回避能力の高さ。恐らく範囲攻撃か自爆覚悟じゃないと捉えることも出来ずに地を舐めるのは自分になるだろう。となると今やるべきことは。


「能力の把握と可能であれば増強、そして情報収集か」


 自分がプレイしていたゲームのキャラ以外にも変異しているという情報は大きい。確かに強大な力だがああいった手合いに対処の難しさがわかったんだ。次は徹底的に痛み付ける為の策を用意しといてもいいだろう。


「確かあの装備は狩りゲーで出てきた装備だったな。てことはモンスターとかいづれ出てくんのかな?だとしたら猶更楽しみだ」


 興奮を隠すことが出来ない。これから訪れるであろう混沌とした世界に期待に胸が膨らむ。


「ハハハッ!!ヘハハハ!!!」


 愉悦に染めたその笑い声は、闇の中でどこまでも染めるかのように響き渡っていった──。







 ──四方院病院にて、【アナスタシア】こと神代雪夜かみしろゆきやは、病院での検査結果を聞いていた。


「神代さんの検査結果として、特別異常なことはないんですがわかることも確かにありました」


 検査結果として大きな異状は見られなかった。しかし不明点を発見することもあり、何よりDNAについてハッキリわかることがあった。


「神代さん、いえ雪夜くんのDNAが変質した名残がハッキリと出ているのがわかりましてね。つまりは、確かに君は神代雪夜君だったんだけれど何らかの原因で内側から侵食していき、結果今の姿になったみたいなんだよ」

「原因、わからないんですか?」


「わからないねぇ。実のところこの症状について君が初めてじゃないんだよね」

「・・・え?」


 そこから先生から語られていく内容は想定してはいたが予想とは別の形でのものだった。

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カオスフィクション SNOW @Snow0206

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