第29話 大好きだけどそれはダメ!!!

「美鈴、シたい……美鈴とキス……んっ」


「んっ、柚希……や、やっぱりダメ……! ダメ、柚希……んんっ……ハァハァ……らめぇ、柚希……!」

 トマトみたいに真っ赤に熟れた黒ビキニ姿の美鈴が、とろんと気持ちよさそうな表情を一瞬きゅーっとして、キスを求める俺の顔を止める。


 その力は抵抗と呼ぶには弱くてふにゃふにゃだけど、でもしっかり意志がこもっている。色々な感情渦巻く中に、しっかりとキスはダメ、という感情が見えて。


「ハァハァ、ダメ? 美鈴、ダメ?」


「ご、ごめん柚希。そ、その……美鈴だって柚希とキス、シたい。本音を言うと、柚希といっぱいキスして、もっと気持ちよくなりたい……もっと柚希の事感じて、もっととろとろになりたい……もっともっと柚希にも気持ちよくなってほしいし。柚希と一緒に、もっともっと気持ちよくなりたい」


「そ、それなら良いでしょ? ね、美鈴、シよ? 俺美鈴と、キスしたい。美鈴ともっと気持ちよくなりたい、俺も美鈴にもっと喜んでもらいたい」


「うん、美鈴も……で、でもダメ。ダメだよ、柚希……美鈴もね、柚希と気持ちよくなりたい。柚希とシて、気持ちよくなって、それで……でもね、ダメ。ダメなんだよ、柚希……だって、戻れなくなるから。これ以上シちゃうと、美鈴、委員長に戻れなくなるから」

 汗とか他の液体で濡れる身体をゆらゆら揺らしながら、美鈴がそう呟く。

 その瞳に写るのは複雑な感情。

 欲しいのに、欲しくない。シたいけど、シちゃダメ……そんな色々な感情渦巻いて、どれが正解かわからなくなってる、そんな、感情。


「……美鈴!」


「あうっ!? ゆ、柚希? またそんな……あうぅ、ナデナデ……しゅき……」


「ふふっ、ありがと。美鈴に喜んでもらえるなら、俺よかったな。やっぱり美鈴は委員長に戻らないで欲しい。ずっと美鈴でいてくれた方が俺は嬉しい。委員長の時とのギャップも良いけど、やっぱりずっと、大好きな美鈴でいて欲しいし。可愛くて、大好きな美鈴でいて欲しい」

 そんなふわふわ感情が交錯している美鈴の事をさらに強く抱きしめて、柔らかくてむにむにの感触を楽しみながら、サラサラ髪の頭を撫でて耳元でそう囁く。


 お父さんとか色々あるのはわかってる、期待に応えなきゃいけないのもわかってる。

 でも俺はずっと美鈴と一緒が良い、美鈴といっぱい大好きしたい。

 だから戻ってほしくない、ずっと美鈴は美鈴は美鈴のままでいて欲しい。本当の自分をさらけ出せる美鈴のままで、いて欲しい……こういうえっちな姿見せるのは、俺だけでいいけど。こういう美鈴は、俺だけの美鈴でいて欲しいけど。


 そんな俺の言葉を、顔を埋めた胸の中でぴくぴく真っ赤な耳と身体を震わせながら聞いていた美鈴は、ぴょこっと恥ずかしそうに顔をあげる。


 そして俺の首元に軽くキスをして、照れ隠しした表情で俺を見上げて、

「んちゅ、ちゅぷっ……も~、柚希の欲張りさん……でも、美鈴も柚希とずっと一緒が良い。柚希と学校も放課後も夜も……ずっとずっと、一緒に居れたらいいと思うよ。美鈴も、ずっと美鈴のまま、柚希と一緒に居れたら嬉しいよ……えっちな姿は柚希にしか見せたくないけど。美鈴のこう言う姿は、柚希だけに見て欲しいけど……えへへ、柚希だけの美鈴だからね、私は」


「俺だけの美鈴だよ、ずっと……だからさ、キスダメ? そんな風に思ってくれてるなら俺は美鈴とキスしたいし、それに……美鈴の恋人になりたい。本当に俺だけの美鈴に……俺の彼女になってほしい」

 美鈴をまっすぐ見つめながら。

 一世一代……なんて重いものでもないけど、でも覚悟とか色々込めて、美鈴に俺の気持ちを伝える。大好きな気持ちがちゃんと伝わる様に、ギュッと抱きしめながら。


「んんんっ、告白なんてずるい、嬉しい……で、でも、ダメなの、それ。最初はしたかったけど、でも……やっぱり、ダメなの。柚希と付き合ったら戻れなくなる。絶対私に、委員長に戻れなくなる……だからダメなの、柚希ダメなの。ごめんね、柚希……でも美鈴は、委員長にもならなきゃだから。お父さんと、みんなの期待に、応えなきゃだから」

 ……でも、その答えは決まっている。


 美鈴の答えは一緒だ、変わらない……土曜日はOKな雰囲気あったけど、次の日にこっそり電話した時には、既にこんな答えに変わっていた。

 期待に応えなきゃいけない、だから私と柚希はそう言う関係になれない―日曜日に言われたとおりのそんな答えが返ってくる。その時と同じ悲しそうな声で、表情で。


「そっか。ダメか、美鈴」


「う、うん……でも、その、美鈴も柚希の事、大好きで、だから、その……えっと、美鈴的には良いけど、委員長的にダメと言うか、その……」


「わかってるわかってる……おりゃ!」

 あわあわ焦ったように色々言う美鈴のわき腹をむにっと掴む。

 柔らかくて、温かくてむちむちで……ふふっ、大好き。やっぱり大好き、美鈴。


「ひゃう!? 大好き嬉しいけど、そ、そこ掴まないで、わき腹むにってしちゃらめ……また、美鈴、柚希で……ハァハァ、柚希のいじわる……あんっ、んっ……んんんっ! んんっ、ゆじゅき、あうっ……はぅぅ、ゆじゅ、ハァハァ……あんっ、んっつ、ゆずきの、いじわる……いじわるさんの柚希も、大好きだけど」


「アハハ、ごめんごめん。美鈴が可愛かったからついイタズラしたくなっちゃった。それに美鈴が俺の彼女になってくれないって言うから……こんなに大好きで、感じてくれてるのに、悔しくて。それでちょっと、イタズラしました!」

 恨めしそうに、でも嬉しそうに見てくる今の顔も。

 やっぱりどんな美鈴も可愛い、やっぱり好き……なんて出会って一週間の人が言うセリフじゃないけど、でもそれくらい俺は美鈴が大好きになってるというわけで。


 美鈴に会えない期間が、それを醸成して、美鈴の事を……ふふっ、本当に大好きになってるな、俺。

 美鈴じゃなくて、俺が美鈴の事に依存しちゃってる、俺が美鈴から離れられなくなってるな、これ。

「うぅ、柚希やっぱりいじわるさん……えへへ、でも好き。私も好きだよ、本当は恋人なりたい、柚希と一緒が良い。柚希ともっと一緒に居て、柚希にいっぱい見てもらって、それで……でも、ごめんね。ごめんね、柚希……私は美鈴だけど、委員長だから。だからごめん……柚希だけの美鈴だけど、美鈴だけにはなれない」


「ふふっ、それどういう意味?」


「そう言う意味だよ……あんまりいじわるしないで、わかってるくせに……んんっ、しゅき、柚希……んちゅ……ちゅぷっ」

 ぷくーっとした顔で俺を見上げた美鈴は、そのまま俺の身体に倒れこんで、また首元にキスをする。

 今度は深くて濃厚な、甘いキス。


「も~、美鈴はえっちだなぁ」


「う~、うるひゃい……ぷはっ、美鈴は柚希の事、いっぱい感じたいだけだもん……お付き合い出来ないし、普段は会えない分ここで……このタイミングで、柚希の事、いっぱい感じたいだけだもん」


「ふふっ、俺もだよ。俺も美鈴の事、いっぱい感じたい……ちゅぱっ、ちゅぷっ……」


「えへへ、同じ気持ち、嬉しい……あんっ、柚希来た、柚希……あっ、んっ……ハァハァ……んちゅ……」

 そうしてまたお互いに首元に濃厚なキスをしあう。

 今の俺たちに出来る最大の好きを、一番の大好きを噛みしめて、いっぱい感じるように抱き合って、密着して。

 美鈴の甘い首元を、ぽよぽよ柔らかい双丘を、お腹を、すらっとむちむちなふとももを、濡れてびちょびちょになったところを……全部全部感じながら美鈴とキスして、愛し合って。


「んちゅ、ちゅぷっ……美鈴、美鈴……ハァ、あんっ……」


「ちゅぷっ、れろ、あむっ……んっ、柚希、柚希……んぅっ……んんっ!!!」

 そうして玄関での俺たちの行為は続いていく。

 誰も知らない、二人だけの世界は、まだ広がっていく。



 ~~~

「んっ、柚希、柚希……んんんっ!!!」

 ―やっぱり好き、大好き……先週は嘘で、吊り橋もあったけどやっぱり好き、柚希の事、やっぱり好きだ……大好きだ、柚希の事。大好きすぎて、自分を止められない。


「あんっ、んんっ……んんっ……」

 ―でも、怖いんだ、私。美鈴がどれだけ背中を押して、大好きって言ってくれてもまだ怖いと思ってる『私』がいる。美鈴がどれだけ好きでも、私がまだ怖がってる。


「ハァハァ、柚希、柚希……もっと、柚希……あんっっっ!!!」

 ―お父さんに失望されるのが怖いんだ、捨てられるのが怖いんだ。


 ―あの日みたいに、寒空の下震えるしかなかったあの日みたいになるのが怖いんだ、お父さんに捨てられて、誰にも頼れず捨てられて……そうなってしまうのが怖いんだ。お母さんとかお姉ちゃんみたいに、お父さんに捨てられるのが怖いんだ。


「柚希、柚希……んちゅ、ちゅぷっ……ハァハァ……」

 ―どれだけ柚希と大好きして、どれだけ柚希が大好きって言って……それでも、お父さんの言葉が頭の中を渦巻いてしまう。あの日の記憶と、お父さんに言われた言葉がフラッシュバックしてしまう。


 ―『お前は勉強だけしていればいい』『お父さんの言う人と結婚すればいい』『友達も恋人も無駄だ、そんなもの作る必要はない』『あんな出来損ないの姉みたいになってはダメだ。お前は勉強だけしろ。お父さんの言うとおりにするのが一番幸せになれるんだ』『お前には失望した。出てけ、子供だからって容赦しない』『こんな奴は家にはいらない。お前も出来損ないなのか?』……そんな言葉の数々が頭をよぎって、集中できなくて。柚希だけに溺れることが出来なくて。


「柚希、好き、大好き……大好き、柚希……ハァハァ、んちゅ……」

 ―だからごめん、柚希……私は柚希の恋人にはなれない、柚希と一緒にはなれない。


 ―お父さんが怖いから、失望されて捨てられて、寒空の下で一生ドアを叩き続ける……あんな経験、もうしたくないから。


「大好き、大好き……んんっ、あっっっ……ハァハァ……大好き、柚希……ちゅぷっ……」

 ―やっぱり付き合えない、柚希。私は美鈴だけど委員長で、それにお父さんの娘だから。お父さんの子供で、まだ養ってもらってるから。


 ―だからごめんね、柚希……美鈴は大好きだけど、『私』がダメだから。私は私を失って、あんなことになりたくないから。



 ★★★

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