ナンパされているお姉さんを助けた

第1話

「え~、ゆず! 今日も七パイのとこ行っちゃうの~? お弁当、今日も一緒に食べられないの?」


「ごめんな、朱里。七瀬ちゃんに呼ばれて、ごめん。また一緒に食べよ、お昼ご飯。なんなら今日の放課後、ラーメンでも行くか?」


「ううん、それは大丈夫だけど……でもちょっとボク悲しいな~。今日こそゆずと一緒だと思ったからちょっと悲しいな~」


「ごめんよ、朱里。ホントごめん」

 9月の秋風涼しい昼休み、ぷくーっと拗ねたように美少女ほっぺを膨らませる高宮朱里たかみやしゅりに申し訳ない気持ちを存分に込めて深々と頭を下げる。


 そんな俺を見た朱里はあわあわその整った可愛い顔をぐるぐる回して、

「あ、別にボクは怒ってないよ、だから顔上げてゆず! 怒ってないから安心して! そんな頭下げないで、男同士の約束なんて軽いもので良いんだよ! ちょっと寂しかっただけ、また遊んでくれたら解決! 今日は無理だけど、また一緒に遊ぼうね、ゆず!」


「あはは、ありがと朱里。そうだな、また遊ぼうな、男同士の強い約束!」


「うん、約束! 指切りげんまん!」

 そう言ってスッと出された細くてキレイな朱里の小指に自分の小指を絡める。

 男同士、二言はなし。今度はちゃんとした約束だ。


 ……美少女だの可愛いだのキレイな小指だの色々言ってきたけど、朱里は男だ。


 サラサラの黒髪に長いまつ毛、女性アイドル顔負けのルックス。それに心配になるくらいほっそり美しい腰のくびれにすらっと長い美脚に軽くて小さな身体、高くて可愛い声―どっからどう見ても女の子だけど、朱里は男だ。

 クラスで男女問わず人気だし、よく女の子にメイクとかされたり男にしょっちゅう告白されてるけど男だ。

 一回女装(させられて)でお出かけした時は何度もカップルに間違えられたけど朱里は完全に男だ。


 え、証拠? ありますよ、俺と朱里は親友ですからね!

 夏休みに二人で海と温泉に行ったときに確認しました、ちゃんと立派なモノが付いてました! だから男です、男女問わず人気の男の娘が実は女の子だった!? 的な同人誌展開はなかったんや!!!


「えへへ、これで約束だよゆず! ボクとゆずの仲だからね、約束破ったらぷんぷんだからね! 夏休みの時みたいに絶対どこか遊びに行くよ! 親友のボクとの約束!」


「おう、わかってる! 遊びに行こうな、朱里!」

 そんな人気者で男の娘な朱里とは高校に入ってからの付き合いだけど、半年でもう親友と呼べる存在になっている。

 最初に仲良くなった理由は席が近いから、とか名前が朱里と柚希で両方女の子っぽいとかそんなありきたりな理由だったけど。


 でも趣味もあって、話してると楽しくてずっと遊んで……気づいたら高校1年生の9月、もう俺と朱里は親友、これからの高校生活をずっと楽しく過ごすパートナー……こんな言い方するとまたBL好き女子界隈から色々言われそうだけど、それは別に俺と朱里には関係ない話。そんな事実はないからね!


「ふへへ、絶対絶対だよ! またゆずと二人で温泉入ったり、ゆずの家お泊りしたり、七パイも……そう言う事、絶対しようね! 絶対絶対だよ!」


「うん、絶対! 絶対だぞ!」


「絶対絶対! えへへ、ゆずとまた、そして……えへへ。それじゃあ七パイのとこ急いで行ってあげて! また5時間目だよ、ゆず!」


「おう、わかってる! それじゃあ行ってくるな、朱里!」

 嬉しそうにぶるんぶるん手を振る朱里にそう言って、弁当を持って教室を後にする。


「え、良いよ! ゆずもいないし、一緒食べよ!」

 ちょこっと振り返ると、もうすでに朱里の周りには男女問わず人だかりが出来ていた。

 本当に人気だな、朱里は……そんな人気者の朱里と親友だなんてなんかちょっと優越感。大人気のアイドルを独り占めしてるような、そんな優越感が……


「っと、ごめん。大丈夫、委員長?」


「いえ、私は大丈夫です。ノート、落ちただけですから。手塚君こそ大丈夫ですか? ごめんなさい、私も前、見てなくて……ごめんなさい、手塚君。迷惑、かけちゃいました」

 ちょっとした優越感を感じながら廊下を歩いていると、前から歩いてきた少し地味めな女の子―委員長と少し肩がぶつかりそうになり、よけた拍子に委員長の持っていたノートが廊下に落ちる。


 そのノートを拾うことなく、委員長は真面目な表情で、ペコペコ申し訳なさそうに俺に何度も頭を下げて……ちょいちょいちょい!

「俺は全然大丈夫だよ! それにさっきのは俺の前方不注意、委員長は謝らないで! 完全に俺が悪いから、今のは。はいこれ、落としてたよ……って、へー」


「いえ、私も俯いてましたし……ってあれ? どうかしました?」


「あ、いや、何でもない。何でもないよ、委員長。ごめんね、迷惑かけて! ごめんね、じゃあね!」


「あ、いえ、こちらこそ。ごめんなさい、手塚君。本当に迷惑、おかけしました」


「アハハ、良いのに、もう」

 去り際まで堅苦しく謝ってくる委員長に少し苦笑いしながら、俺は七瀬ちゃんの待つ場所に急いで向かうことにする。


 ―それにしても委員長、綾瀬美鈴あやせみすずって言うんだ、ずっと委員長って呼んでたから知らなかった。割と話したこともあったし、二人で色々作業したこともあったけど、マジで知らなかった。

 それに綾瀬美鈴って、名前の響きも漢字も凄い可愛いな。何というか、その……失礼だけど、委員長の名前って言われるとちょっと意外だったかも。


 委員長ってものすごく真面目で地味な印象があったから。

 基本無口で、笑顔どころか友達と話してるところも見たことなくて。お手伝いしてる時も、基本は何も話さず、業務連絡だけで。

 話してもあんな感じで、真面目というか堅苦しいというか……まあ、そんな感じで、ぶっちゃけ愛想は良くないし、地味で堅苦しい真面目ちゃん、って感じの人。


 身長は割と高めでおさげと黒ぶち眼鏡と白いマスクがトレードマーク。

 ダボッと制服を着て休み時間もいつも机に向かって勉強してる色々地味な印象の真面目ちゃん―それが俺、というかクラス全体の委員長へのイメージ。


 だから綾瀬美鈴なんて名前も名字もどっちも可愛いなんてちょっと意外……ってやめよう、もうこの話は。

 あんまり人の名前とか容姿ついてとやかく言うのは良くない、それにこれからの学校生活で委員長の事委員長以外で呼ぶことなんてないだろうし。

 だから名前覚えてはおくけど、委員長は委員長―という事で早く七瀬ちゃんのとこに向かおう、かなり遅くなったし! もしかしたら怒ってるかもだし!



 ☆


 呼びだされた旧理科室。

「お~い、七瀬ちゃん? 俺だよ~」


「むむむ……ん、ゆず君? ゆず君! ゆーず君!」

 少し埃っぽいその扉をコンコンとノックすると、中から唸り声とともに俺を呼ぶ声が聞こえる。

 お、こりゃ怒ってるな、今日の七瀬ちゃん。


「うん、俺だよ、柚希。という事で入って良い?」


「もちろん! ていうか早く入って、ゆず君!」


「はいはい、ありがと。それじゃあ、失礼しまーす……おっと」

 扉を開けるとポーンと俺のお腹にゆっくり飛んでくるゆずのぬいぐるみ。

 いつも七瀬ちゃんが持ってる、俺の姉ちゃん特製のゆずのぬいぐるみ(繭付き)。


「アハハ、ごめんね、七瀬ちゃん。ちょっと遅くなった」


「も~、ホントだよ、遅いよゆず君! 私の事待たせすぎ! ホントだったらマイナス50七瀬ちゃんポイントなんだからね! ぷんぷんなんだからね!」

 部屋の少し奥の方でちょこんと椅子に腰かける七瀬ちゃんが、少し顔を赤くしながらそう言った。



 ★★★

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