ドリーム・アンダーザローズ

村上 耽美

ドリーム・アンダーザローズ

ドリーム・アンダーザローズ



 このごろ流行りのグルメ系サイトに、裏サイトならぬものができたらしい。最初こそ僕は突っぱねていたが、やはり、皆その裏サイトを使っているようで、そうなると僕も気になってしまうのであって。

 こうなっては仕方ない、スマートフォンで早速その裏サイトを探す(かなり大変だった)。メールアドレスと、パスワードの登録をした。スマートフォンの指紋認証で、ログインが楽になるらしいのでそれも。

 それから1時間ほどスマートフォンを弄っていたが、なんだかよく分からない店が多い。近場にも何軒かあるのだが、そんな店あったか?というほど目立たない店なのか、存在すら怪しかったりするのだから、その日はとりあえず寝ることにした。まあ、会員登録もしたわけだから、また明日確認しよう。


 小鳥がさえずる朝、寝起きで無意識にスマートフォンで裏サイトを確認する。なんだこれは。僕の家にピンがささっているではないか。驚くだとかそんな簡単な感情では言い表せないくらい気がおかしくなりそうだった。

 顔を冷たい水で洗ってから洗面台の鏡を見ると、後ろに若い美青年が微笑みながら立っていた。ぎゃっと小さく叫びながら腰を抜かすと、彼は手を差し伸べ、

 「大丈夫ですよ」

と囁き、なんとか立ち上がれた。そのまま彼は

 「お客様、此方へいらしてください。もうお昼ですので、ブランチでも如何ですか」と僕の手を引いてリビングに向かった。

 リビングの机は赤のギンガムチェックのクロスが敷かれ、オシャレなグラスに赤い液体が注がれていた。そしてキッチンにはまたこれも美青年、2人のコックと、先程の美青年を入れた3人のホール担当とみられる5人が優雅に調理をしたりだ、皿を運ぶだなんだとしている。

 「此方へお座りくださいませ」

皆口を揃えて言うもんだから、不信感や不安はあるがとりあえず座ってみる。椅子の生暖かさがまた不気味だった。


 美青年たちはとても華奢でなだらかな体つきと振る舞いをしていた。肌も卵のように白く、死んでいるような黒い瞳と紫の唇が肌によってより目立っていた。死んでいるような黒い瞳とはいうが、彼らは本当に生きていないのではないかなどとも考えられる。彼らを眺めながらろくでもないことを考えていると、

 「お食事の準備ができました」

 「本日のブランチはブラッドオムライス、スペルマのスープ、ヘアーサラダです」

 「ブラッドオムライスのケチャップにはRhマイナスのAB型の美青年の血液を」

 「スペルマのスープは3人分のスペルマをふんだんに使い」

 「ヘアーサラダは17歳の若い美青年からより質の良いものを選ばせていただきました」

 ほう、なんとなくヤバい物がでてきたが、見た目は普通に美味しそう。昨晩もあまり食べていないし、とりあえず出されたので食べよう。

 「い、いただきます」

オムライスにスプーンをめり込ませる。すると1人の美青年が激しく痙攣して苦しそうにしている。そのままそれを口に入れ、咀嚼する度に彼は穴という穴から血を流しピクっとする。なるほどそういうことか、僕はスープを一気飲みする。3人の美青年たちは嬌声にもならない音を喉から発し、床に崩れ落ちる。とても愉快だ。そしてサラダをゆっくりフォークで持ち上げると、最後の1人が大きな声で叫び頭を抱え悶えている。僕は彼らが苦しんでいるのを楽しみながら黙々と食事をした。


 時計を見るともう13時を過ぎていた。彼らはまだそこにいる。何人かは息もしている。それに何故だか怒りが湧いて、血だらけの美青年を引っ張りあげて首を噛みちぎる。彼はもう動かないでいた。スペルマの彼らのモノは、どれだけ弄ってももうこれ以上はなにも出ないようだった。髪の毛の彼は会話が出来そうだったので、無理やり椅子に座らせて話を聞くことにした。

 「これはなんだ」

 「はい、今回登録されました裏サイトの会員様の性癖からオススメの料理を無料でお出しするサービスでございます」

 「ふうん、夢みたいだな、素晴らしかったよ、しばらくは人を壊さないで済みそうだ」

 「はい、全く同じものをご提供できるわけではありませんが、似たようなサービスを今後は有料でさせていただきます、またこちらお客様の夢の中だけでのサービスの為、ある意味やり放題でございます」

 「そうか、じゃあ君も壊していいのかい」

 「はい、壊し放題です」


 この辺から先はよく覚えていないが、彼の表情がぐちゃぐちゃになるほどに壊したこと、その時の彼の声や言葉だけが頭に残っている。ふと我に返った時にはすでに夕方になっていた。夢精した下着を取り替えリビングに行くと父が夕飯の準備をしていた。

 「今日のメインディッシュは何がいいかい」

と訊くので、

 「オムライスが食べたい」

とだけ言って席に座った。スマートフォンで裏サイトを見て、僕の家にさされたピンをタップすると星4.6の評価がついていた。レビューには「あの人に首ったけ」「精巣が空になるほどの絶頂期」「特別扱いされた」とある。あぁ、僕は搾取される側か、と落胆しながらも、あの美青年たちの冷たい肌を、生暖かい椅子の上で忘れないでいる。

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ドリーム・アンダーザローズ 村上 耽美 @Tambi_m

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