今と昔と新年と

 時計を見ると、針は新年まであと5分くらいの場所を指している。今日は終月しゅうげつ(12番目の月)30日。1年の最後の日も、もうすぐ終わろうとしている。


 俺は炬燵こたつに入って寒さをしのいでいる。なぜだかわからないが、炬燵には吸い寄せられる魔法まほうでもけられているみたいだ。気付いたら炬燵に入ってのんびりしている。別にそこまで寒いわけではないが、今夜もこうしてこうして炬燵の魔力に負けている。


 俺の使い魔たちはどうなのかというと、俺と同様に炬燵の魔力に負けている。各々おのおのの本来の姿に戻って炬燵で体を温めている。

 ねこの姿になって、頭だけ炬燵から出しているサフィーと、からすになって、炬燵にもぐりこんてくちばしだけしか見えないレイン。どちらも、眠ってしまっているようだ。


 『年越しは起きてるんだ!』と宣言して、いつもの時間に寝てしまうレインと、『今日はちょっと遅くまで起きようかしら』と言って眠気にあらがい、30分くらい前に夢の世界に旅立ってしまったサフィー。

 どちらも夢の世界で年を越すことにはなるだろうが、ここにいることには変わりない。




 一匹狼で生活していた俺にとっては、使い魔のふたりは大切な仲間だ。昔は、家ではないどこかで年越しを過ごしていたものだ。今はあのころとは違って、ひとりじゃない。


 ただただ毎日を過ごしていた俺は、色のない世界が見えていた。ラノール・サンでの記憶は、セピア色なんていう綺麗きれいなものじゃない。もっとくすんで、生気のない灰色だった。機械的に過ぎる日常は、一定のリズムを刻んで止まることを知らなかった。


 今は毎日がそれなりに楽しくて、カラフルに染まる世界が見えている。もちろん、時間の流れ方も違う。その時々で、時間の速さが変わる。退屈たいくつ過ぎて遅くなったり、夢中になって一瞬いっしゅんだったり、そんな感じだ。




 次の年も、こいつらと一緒に過ごせたらいいなぁ。俺の日常に、いろどりを与えてくれた2匹を軽く労おうか。


 炬燵から出ると、左の方にいるサフィーのそばに行く。そしてサフィーの頭を、彼女を起こさないように優しくでる。


 最初に出会ったときは、サフィーも俺も距離があったし、もっと寒いところで頭を撫でていた。

 今はこうしてもっと近くに、暖かいところにいる。寝ているからかもしれないが、警戒感は感じられず、そのまま頭を撫でられている。


 今度はサフィーの反対側に移動し、布団をめくってレインの顔を見る。レインの顔は、炬燵の熱源の赤い光で照らされている。


 最初に出会ったときは、もっと暗いところだったし、レインも俺もお互いの表情はよくわからなかった。

 今はこうしてもっと近くに、明るいところにいる。心地よさそうに眠っているその表情もよくわかる。

 

 めくっていた炬燵布団をそっと戻すと、どこからか鐘の音が響いてきた。サフィーの耳がぴくっと反応するが、起きる様子はない。

 時計を見ると、2本の針が重なっている。新しい年の初月はつげつ(1番目の月)1日を迎えたようだ。


「明けちゃったかぁ」


 まぁ、いいか。変にこだわるよりも、なんとなく年越ししたほうが俺ららしいもんな。


 寒くて暗くて、誰もいないところで年越しするよりも何倍もマシだ。こうやって、誰かのいる場所で一緒に、年越し出来ればそれでいい。現に、今この瞬間それを迎えたところだ。


 今年もまた、こんな感じで年越し出来たらいいなぁ。


 そう思いつつ目を閉じて、使い魔たちと同じ夢の世界へと飛び込んでいく。


 ――きっと今年も、いい年になる。

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