7th twilight

 今日はこんなもんだろう。


 時計は18時前を指している。まだ日没は迎えおらず外は明るいが、早めに店じまいしても誰も文句は言うまい。最も、そんなに客が来るような店ではないのだが。

 さっさと店じまいして、日没までふらつくことにする。


 今日は何処に行こうか?


 今から行く場所を決めるのではない。ふらつくことに特に目的はなく、いて言えば思考時間をかせぐためだ。

 決めたいのは、夜釣よづりの場所だ。ストームグラスが、今夜は晴れるだろうと言っていたから、釣りをしに行きたいのだ。


 しばらくふらついていると、奇妙きみょうな光景に遭遇そうぐうする。民家の庭や軒先のきさきに竹が置いてあるのだ。竹といっても、太い竹ではなく、無数に枝分かれしている細い竹の方だ。

 普段こんなものは置いてないはずだから、何かしら理由があるんだろう。深く考えることをせず、そのまま通り過ぎる。頭の中は夜釣りの場所選定に占拠せんきょされていて、他の事を気にしているひまはない。


 そのあともしばらく釣り場所について歩きながら考えた。結論が出るより先に、日が沈もうかという時間になっていた。

 日没前に店に戻って、夕飯を作らねばと神社前の通りに戻ってくる。


 ここにもいつもと違う光景があった。何軒かの店の軒先に竹が置かれているのだ。竹が置かれているのは、服屋や時計屋、竹細工の店などだ。こちらは民家のものと違い、装飾が施されている。装飾は店ごとに違う。服屋の竹にははさみ定規じょうぎはりと糸といった風に、各々の店にちなむものが7種類飾られている。

 ここでようやく思い出した。今日が晴月はれつき(7番目の月)7日であるということを。


 皇国ではこの日に竹を家の前に飾る風習があり、それは手先が器用になるように星に願うためのものだ。

 また、願いが届くように、と神々の計らいで夜は決まって快晴となる。“西の大陸”から来たおれは、以前神社の巫女みこにそう教わった。


 ならば――。


 空をあおぐと、黄昏たそがれに浮かぶ満天の星が見える。そして、夏の夜空に流れる雄大な星河せいが。天球を南北に分かつその線は、普段よりも一際輝いているように見えた。


綺麗きれい、だな」


 思わずそうつぶやく。未だに結論が出ていなかった釣り場決めは、この瞬間をもって決着する。

 こんなもん見せられたら、一発で決まる。今夜は星が一番綺麗きれいに見える場所で釣りをしよう。


 さて、さっさと夕飯ゆうはん食って釣りに行くか。ついでに、今日は使いたちも連れて行くとするかな。

 あいつら、きっと喜ぶだろうなぁ。


 俺は、自分の店に戻るために歩を速める。少しでも長く、満天の星空の下で夜釣りを楽しむために。そして、少しでも長く、使い魔たちに満天の星空を見せるために。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る