1405

えくれあ♡

金原千恵は最悪の出会いをする

 私の名前は金原きんぱら千恵ちえ。歳は31歳、独身。結婚できないんじゃなくて、しないだけね。


 趣味はアニメを見ること。推しは黒子の赤司あかし征十郎せいじゅうろうと進撃のミカサかな。最近はチェンソーマンにハマってるよ。


 ハマってるといえば、カクヨムって携帯小説サイトのえくれあ♡って人の小説を読むのも最近の楽しみ。


 最近転職してホテルのベッドメイキングの仕事を始めたんだよね。


 接客業は面倒くさいから、ある程度黙々と働ける今の仕事は気に入ってる。そろそろ働き始めて1ヵ月。


 だいぶ仕事にも慣れてきて手早くこなせるようになってきた。綺麗にベッドメイクできるとすごく気持ちがいい。でも、最近ちょっと腰が痛くて整骨院に通うことにした。



 【1405】


 初めて担当する34階のこの部屋は、広くてベッドもキングサイズ。半年滞在しているお客さんがいるんだって。もちろん私は1度もそのお客さんに会ったことはない。


 お客さんを見たことのある人に話を聞くと、いつもマスクにサングラスなんだって。コロナのせいもあるんだろうけど、なかなか怪しい雰囲気みたい。


「昨日、整骨院行って、だいぶ腰も軽くなったし! がんばろーっと!」


 私は『1405』に入り、掃除とベッドメイクに取り掛かる。置いてある物を見れば、お客さんが『女性』ってのは分かる。


 特にひどく散らかっているわけでもなく、綺麗に部屋を使ってくれている。ベッドもシーツがぐちゃぐちゃになってることもない。この部屋を見る限り、怪しさはなにも感じられない。


「あっ! お金落ちてるし」


 私はその硬貨を手に取った瞬間、違和感に気づいた。大きさ、重さがいつも手にしているものと微妙に違ったんだよ。


「んっ!?」


 500円硬貨じゃない。これ1000円硬貨だよ。大事な記念硬貨なのかと思ってよく見てみた。


 《天聖27年》


天聖てんせい27年? なにそれ?」


 元号がおかしなことになってる。完全におもちゃじゃん。けど、これ、おもちゃってレベルの代物じゃない。私はその硬貨のありえない元号と、あまりの精巧な出来とのギャップに訳が分からなくなった。


「まいっか。仕事仕事っ」


 今日はバイトの石田君も休みだし、手際よくやらないと!


 浴室洗って、ゴミまとめて、掃除機かけて、ベッドメイクして……完了!


「よし! 次の部屋に行こーっと」


 私が部屋を出ようとするのと同時に、お客さんがマスクにサングラスで戻ってきた。実際に見るとやっぱり少し怪しい。


「ありがとうございます」


「お帰りなさいませ。今、終わりましたので。失礼します」


「ちょっと待ってくれる?」


「えっ!?」


 私の前にお客さんが立ち塞がった。続けて後ろから『大きなスーツケースを持った男』と『大きな銀色の箱』を持った男も入ってきて、ドアを閉められてしまった。


 バタンッ!!


「お客様。どうかなさいましたか?」


 え? 私なんかやらかした?


 混乱している私に、その客の女はさらに訳の分からないことを言ってきた。


「やっと準備が整ったのよ」


「準備? ですか?」


「まさか半年もズレるとは思わなかった。やっぱりってあるのね」


「半年ズレる? 影響? なんの話ですか?」


「落ちてたお金があったでしょ? 見たわよね?」


「あれはなんなんですか? おもちゃにしてはよく出来すぎですし。天聖27年の意味が分からなくて。今は令和ですし、そもそも天聖なんて元号は聞いたことがありません」


 私の疑問に対して、その女はオカルト感満載の返答をした。


「私たちはね、その天聖が存在する世界から来たのよ」


「えっ?」


「こっちじゃ令和とかっていう変な元号になって、パンデミックが起きたり、首相が射殺されたりと、酷い時代に突入しちゃってるみたいね」


「コ、コロナが令和のせい?」


「ええ。日本の元号には不思議な力が宿ってる。私たちの世界では令和ではなく天聖になって、世界はあらゆる分野で飛躍的な進歩を遂げたわ」


「じゃあ天聖27年って、こっちの世界でいう令和27年? あなたは23年後の未来から来たということですか?」


 私は驚きと共に興奮していた。


だと流石に飲み込みが早いわね。その通り。私たちは別の世界線の未来。パラレルワールドから来たの」


 ん? なんでこの人は私がアニメ好きって知ってんの? そう思ったのも束の間、その女はマスクとサングラスを取り、その素顔を私に見せた。


 すべての謎が一瞬で解けた。


「どうも。はじめまして。。54歳です」


 目の前にいたのは間違いなく『私』だった。年齢は重ねているけど確実に私。はっきりと分かる。


「未来の私……」


 私は驚きと恐怖で震えた。こんなことが実際にあるのかと。そして、未来の私は流暢に語り始めた。


「私のいる世界ではね。天聖になって19年後、『時空転送』の技術が確立するの。でも、むやみやたらに使うことは出来ない。観光なんてもってのほかよ」


「じゃあ、なにをしにきたの?」


 私は嫌な予感がしていた。


「私の記憶では半年前からこのホテルで働いてたわ。でもあなたはなかなかここに現れてくれなかった」


「半年前?」


「さっき言ってたっていうのは未来からきた私の存在が、この世界の私の時間軸にズレを生じさせちゃったってことを言いたかったの」


「別に用があるならうちに来ればよかったんじゃないですか? こんな所で半年も待たなくても……」


 未来の私が額に手を当てながら、溜息をつく。


「禁止事項なのよ。自分に会う場合、。積極的な自分との接触は、この世界にかなり大きめな影響を及ぼすらしいの」


「世界に影響?」


「最悪『戦争』が勃発するみたいなこともあるみたいなのよ。だから自分に会うにはであることが必須」


「だったら! その辺の道端で偶然を装えば!」


「うふふ。それでは来た意味がないのよ。昔、私が働いてたが、実に最適だったわけなのよ」


「ここが最適?」


「密室。誰にも気づかれずをするには申し分ない環境よね」


「摘出っ!?」


 私の嫌な予感は見事に的中。


「私がここに来た理由。分かるわよね? 31歳の金原千恵さん」


 未来からきた私が言っていることの意味が私にはよく分かった。なぜなら、私の臓器、血液に至るまで、この世に適合者、ドナーは存在しないから。


 『突然変異』


 私が生まれてすぐに両親は医師にそう告げられた。大怪我や大病は死に直結する。だから寿命もあまり長くはないだろうって。


 でも私は31歳になる今まで奇跡的に何事もなく生きてこられた。それなのに摘出手術? なに言ってんの?


「ちなみに、私のなにが欲しいって言うの?」


「うーんとね、全部?」


「全部っ!? 私に死ねっていうわけっ!?」


「そうよ。内臓と血液、全部もらっていくわ……」


「ふざけないでよっ!」


「ごめんなさい。実は私の体はヤヴァい病に侵されているの」


「だ、だからって……」


「未来ではクローン技術も進んで癌ですら簡単に治せるのよ。それなのに、この体がなにも受けつけないせいで超最悪!」


「そ、それは……」


「でも、時空転送の技術と法整備が間に合って本当によかったわ。私はこれで死ななくて済む!」


 私は清々しい笑顔の未来の自分に心底腹が立った。


「そもそもそれがあなたの寿命ってことじゃない! 私だっていつ死ぬか分からない中、笑顔でがんばって生きてきたんだから!」


 未来の私が、冷ややかな目で私を見る。


「私はどんな手を使ってでも生きるって決めたの。だって、結婚を控えているんですもの」


「け、結婚?」


「そうよ。ここで一緒に働いてるでしょ? 石田君」


「えー? 嘘っ!? 石田君と私が結婚するの!?」


 未来の自分に会った驚きをさらに上回る驚き! 石田君、全然タイプじゃないんだけど。人生って分からないもんだな。って、今はそれどころじゃない!


「結婚を控えたタイミングで病気なんて同情はするけど、それもあなたの運命なんだから! 受け止めて残りの人生を前向きに生きなきゃだめだよ!」


 私だってちゃんと覚悟を持って生きてきたっていうのに。なんなの、このおばさん。自分とは思えない。どんだけ自己中なのよ!


「なかなかの綺麗ごとを言ってくれるじゃない。この世界には時空転送がないからそんなふうに割り切れるのよ。あればあなたも行くわ。過去の自分の新鮮な内臓を奪いに。絶対ね!」


「私はそんなことはしないよ!!」


 そんな私の悲痛な叫びに対し、未来の私は無表情で冷酷に、計画を実行に移す。


「お願い。始めてちょうだい」


「はい」「はい」


 男2人が私に近づいて来る!


「来ないでよっ! やだぁー!!」


「これもあなたのよ。受け止めてくれるわよね? あははッ!」


「嫌ぁっ!! なんで私なの? 助けてっ……」


 プスッ!


 男の1人が私に注射を打った。


「あ……!」


 私は意識が飛んだ。


 ボンヤリとした意識の中、私はベッドに寝かされた。そして上半身の服を脱がされ、内臓の摘出が始まった。


 スッ────……


 胸元にメスが入ったのが分かる。少し冷たい。この男たちは医師なんだね。手際よく私の内臓を切除して取り出していく。


 ヌチャヌチャ


 ズルリッ!


 ヌチャヌチャ


 1本注射しただけなのになにも痛くない。逆に気持ちいいかも。すごいなぁ。未来の医療の進歩。私の内臓と血液を医師たちが丁寧に袋に詰めて、クーラーボックスにしまった。


 あれ? 私浮いてる? あっ、これがいわゆる幽体離脱状態ね。あーあ、死んじゃったよ。









 そして3人は、腕にはめた装置を操作すると光って消えた。内臓のない私の遺体を残して。


 こんな殺人を許す未来、ろくな世界じゃない。ふざけてるよ。私は普通に寿命をまっとうしたかったのに。


 時空転送? そんなん作ってんじゃないよ! くされちんぽ野郎っ!!



























 その日の夜、報道ステーションで、この奇怪な事件は取り上げられた。



『本日、午前10時頃、B県K市のオーロラホテル34階で、内臓と血液をすべて抜き取られた女性の遺体が発見されました。遺体で発見されたのはこのホテルの清掃員……』


 ブツッ!!


『臨時ニュースです!! 先ほど日本時間21時49分、ロシアの核ミサイルがアメリカ、ワシントンD.C.に着弾、過去に例のない大惨事となっています! 衛星からの情報もなく、レーダーが捕えることもなく、突然ミサイルがワシントンD.C.上空に現れたとのことです! 繰り返します……!』






 『時空転送』


 

 


 神は人類の横暴な行いを許すことはなく、怒りの鉄槌が下されることとなった。それと同時に、奪われた金原千恵の臓器も、クーラーボックスの中で急速に腐り始めた。






















 54歳の金原千恵が戻った世界では、この事例により時空転送は廃止。1ヶ月後、彼女は病に全身を犯され、息を引きとる。






















 しかし、我々の住むこの世界に、時空転送者が2度と訪れないという保証はどこにもない。














 そして、別の世界線の未来。


「あなたは妻、千恵を永遠に愛することを誓いますか?」


「はい。誓います」


「では、誓いのキスを」


 石田君と無事に結婚式に臨む金原千恵の姿があった。


「幸せにしてね♡」

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